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監禁

 結局、父と母だったらしい何かの塊を私は全部食べた。いや、食べさせられと言うべきだろうな。


 胃は逆流を起こし、口の中は生臭さでいっぱいで、食感は最悪だったのに、無理矢理食わした当人はシレっとこういって来たのだ。


「美味しかったか?」


「うぇ……う……ん」


 んな筈ないだろうとキレたかった。しかし、生気のなく、イエスorはいしか許さない雰囲気に流されて、私はうんと返事をしてしまった。


 さてと、もう肉塊を食べたことに関しては水に流そう。いや、流していい問題じゃないのだが、取り合えず流さないことには前に進めない。


「可愛いね……」


 ネットリとした口調で、私を抱き締めたエルヴァンの真意は分からない。ただ溢れる水のような多さで、血のような濃さの愛を注がれているのは分かった。


「じゃあ、僕はお仕事にいくから、君はここでいい子にしているんだよ?」


 頭をトントンと撫で、彼は部屋から出ていってしまった。


「ふぅ……」


 私はベッドの上で仰向けに寝転がり……これまでの事を考察した。


 まず、エルヴァンは前世の息子だ間違いない。あの狂った凶行は私が生前同じことをしていたし、記憶の中での顔とも一致していた。


 しかしながら、彼は私を母だと分かっているのだろうか?私の姿は幼女だ。確かに東洋人っぽい外見はしているものの、前世のおばさんと結び付かないだろう。


 仮に覚えていたとして……彼は私を憎んでいるのだろうか?


「駄目だ、全然分からない」


 前世の記憶があるだけで頭の中は幼女だがら、探偵のように真実が分かるわけでもない。


 しかも、肝心の前世の記憶についても、麻薬の末期症状で頭可笑しくてフワフワした記憶ばかりが先行する。本当に役に立たない。前世の私は何やってたんだよ畜生……


「取り合えず、逃げないと……」


 今更ながらに……いや、実はもっと前から普通に恐怖でいっぱいだったが、前世の普通じゃない記憶が邪魔して余計なことを考えてた。


 取り合えず、逃げなければならない。逃げた後、どうするかは考えてない。あの肉塊が本当に父母だったならば、もう私の居場所なんてない。


「最悪は娼婦にでもなるか」


 本当に最悪な展開だが、もうそれでいいだろうと結論づけ、私はフラつく足取りでドアに手をかけた。しかし、いや、やはりと言うべきだろうか、ドアは開かない。


「誰かー!!誰か開けてください!!開けてー!」


 ドンドンドン!!とドアを叩いて力の限り叫ぶのだが、全然届いてくれている気配はまったくない。蹴破ろうにも、幼い体のコレが出来る訳がないし、仮に出来てもこんなゴツいドアを何とか出来る気配がない。


「ま、窓……」


 私はドアを諦めて窓から出る事にした。大きなガラスの窓は網戸のようにはなるものの、外には出れそうもない。


 そこら辺にある椅子を叩きつけたものの、壊れる様子も無かった。


「どうしよ……」


 もう駄目だと分かった。あの男は私を出す気がない。この部屋は綺麗で美しいが、閉じ込めたものを逃がさない牢獄のようだった。


「う……うぅ……」


 不意に涙が出そうになった。もう何なんだ、なんで私がこんな場所に閉じ込められなけけばならないのだ。答えは簡単だ。私の前世が悪い。うわ……最悪だ。


 こんな感じに頭を抱えていたら、何処からか視線を感じ、そちらへ顔を向けると、いつの間にかドアの方でエルヴァンがニコニコとまるで頭の悪い猫を微笑ましく見ているかのように笑っていた。


「もう何もしないのかい?」


「外へ……出して」


 彼の質問に答えずに、必死で言葉を紡ぐ私はバカ犬の如くでひどく滑稽だろうが、もう滑稽でもなんでもいいからと、幼い私は泣きそうな声でいった。


 そんな私に彼はニッコリと笑い、私の頬をやさしく包んで、ゆっくりと、そして愚かな人間にも分かるようにいった。


「一生ここからださない」


 私の目の前が絶望に染まった。


 本当に前世の私はなんてことをしてくれたんだ。

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