表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九十九妖伝記  作者: 黒園明智
3/5

妹と猫耳

今回は妹とのデート回です。どんどん新キャラが登場します!

 五月の第三週にさしかかった頃。俺は休日を迎えていた。いつもは昼近くまで寝ているのだが、今日は久し振りに朝早く起きた。

 今はやることもあまりないから自分の部屋でテスト勉強をしている。


「人間は(なん)()だな」

 机とにらめっこしてる途中で八神(やつがみ)が俺のノートを見てそう言った。

「なんなんだそれは? 暗号か?」

「え? ……あぁ。これは英語。英語のスペルだよ。お前、現代文化に馴染んでるくせに英語は知らないのか?」

「なっ!? (わし)を馬鹿にしてるのか!」


 八神は意外とプライド高いからなぁ。

「じゃあ、文字書いてみろよ」

「文字程度書けるわ! 見とれよ」

 猫モードから人型になり、俺のシャーペンを奪い取り、文字を書こうと意気込む。

 さすがに文字ぐらいは書けるだろう。

「ぐぬぬぬぬ……」

「書けてねぇじゃん。なんだこれ? 文字化けしてんのか?」

 あという字が、よく分からん字になってる。こいつほんとに見栄っ張りだな……

 あっ……そういや気になることがあるんだった。


「五月蝿い! 今日はたまたま調子が悪かっただけだ」

「調子良くても悪くても字は書けると思うぞ。認めろよ。書けないって」

 「ふん!」と言って八神はそっぽを向いてしまった。あれ? 機嫌を損ねちゃったかな?

「話しを変えるけど」

「なんだ?」

 俺が気になっていること、それはーー


「お前、なんで猫耳生えてないんだ?」

 これだ。

 気になってしょうがない。猫の妖怪だってのに猫モード以外にはその要素がまったく見られん。

「…………恥ずかしいから……」

 声が小さい。

「え?」

「恥ずかしいからだ! 何度も言わせるな」

 けっこう簡単な理由だな。

「出してみてくれよ。どうせ減るもんじゃないだから」

 

「……期待するなよ。そして目をつむってろ」

 俺は素直に八神の指示に従った。ようやく八神の猫耳姿が見れるのか……ちょっと楽しみだ。早くしないかな?

「いいぞ……」

 俺は目を開ける。

「……」

「どうだ……出してやったぞ」 

「……」 

「黙るな。もっと恥ずかしくなるだろ」 

 言葉が出なかった。

 

「あっ、あぁ。すまん」

 八神の頭には確かに、そう。確かに猫耳が生えていた。耳をピクピク動かしている。そして八神は顔を赤らめて、目を合わせてくれない。本当に恥ずかしいんだな。

 でも。かっ、可愛い。猫耳とか興味なかったけどこれは可愛いとしか言えない! 撫でてみたい。思いっきり撫でてみたい。


「なっ!? なにをする!」

「なにって、撫でてんだよ」

 俺は自分でも気付かぬ内に八神の頭を撫でていた。

「止めろ……止めろ!」

 俺の手が猫耳に触れた瞬間ーー

「くうぅ!! はぁっ、止め……ろ」


 八神が変な声を突然出し始めた。猫耳を撫でれば撫でるほど体と耳がビクビクと動く。目がだんだんうっとりしていってる気が……うわぁ、ちょっとエロい。

「とっ……とと離せ馬鹿者!」

 俺の手を八神が払いのける。

「すまん! つい夢中で」

「まったく……調子に乗りよって」

 八神は猫耳を元に戻した。せっかく出てきたのに。なんだか少しもったいない気がする。


「あっ、(はる)()を起こさないと」

 あいつは起こさないと昼まで寝ちまうからな。似なくていいとこまで似やがって。

 さぁて、可愛い可愛い妹を起こしに行くか。


「春音。起きろー」

 戸を開けて、づかづかと妹の部屋に入る。女子の部屋にしちゃ割と殺風景だ。

 ベットが膨らんでる。まだ寝てるのか……

「ほら、起きろ」

 布団を剥ぐ、そこにはーー


「抱き枕……?」

 抱き枕が春音の代わりに寝てる? いや、そんなわけが……しまった!

「お兄ちゃん!」

 戸の裏に隠れていやがった。

 春音はそのまま抱きつこうとする。

「お前は忍者か!」

「女の場合は忍者じゃなくてくのいちだってばよ!」

「その語尾、どこの里の英雄だよ!」

 春音の抱きつきを我ながら見事にかわす。狭い部屋じゃ身動きが取れにくい。

「お兄ちゃんだけど愛さえあれば全然関係ないよねっ!」

「そんなライトノベルのタイトルみたいな台詞を言うな!」

 春音を捕まえ、ベットへと軽く投げ飛ばす。


「起こしたからな。二度寝はするなよ!」 

「はぁ~い」

 俺は春音とのストリートファイトを終わらせて、一階のリビングのソファーに座る。

 両親と()(りん)は出払っている。親は仕事、夏凛は……知らん。まぁ、部活だろう。休日なのにご苦労だな。

 部長だからしょうがないと言えばそうなるか。


「お兄ちゃん。おはよう」

 春音が着替えて二階から降りてきた。

「あぁ、おはよう」

 春音は早速、冷蔵庫を開けて牛乳をコップに注ぎゴクゴクと一気に飲み干した。これは春音の日課だ。毎朝飲んでいるが色々と効果が薄いみたいだ。

「そうだ。想像はつくが夏凛はどこに行ったんだ?」

「う~んとね。確か、部活からの彼氏と空手デートらしいよ」


「空手デート!?」 

 こんなにドキドキしないデートがこの世にあるのか? なんだよ空手デートって! 二人でいちゃいちゃしながら(かわら)割りでもすんのか?

 ダメだ。こればっかりは想像がつかない。

「そう。空手デートだよ。二人で(れん)()とか割るんだって」

「へぇ……そんなデートがこの世に存在するなんて、俺もいささかびっくりだ」

 本当にびっくりだ。


「春音は彼氏とか作らないのか?」

「私の彼氏はお兄ちゃんだよ」

 そう言って、俺の隣に座る。

「そんなんで同級生の女の子に嫌われないか?」

「兄妹で愛し合ってるの!? すごいね! って反応が多いよ」

 そんなんじゃ俺の評価が大変だ! 道理で夏凛や春音の友達がみんな変な顔して俺のことを見てると思ったらそういうことだったのか。元凶は春音だったか……


「はぁ……これ以上俺の評価を下げんでくれよ」

「下げてない下げてない。むしろ上げてるよ。上げまくってるよ」 

 自覚無しか。

「お前がそう感じてなくても、周りの俺の評価は多分マントルを突き抜けてるよ」

「そんなことよりお兄ちゃん。お出かけしようよ!」


 勉強の良い息抜きになると思ったから俺は春音の誘いを断らなかった。

 八神は猫モードでベットの上で日向ぼっこをしている。

 こいつには留守番をしてもらおう。

「留守番、頼んだぞ。妖伝記は置いてくぞ」

「なっ、もし(あやかし)に襲われたらどうするんだ」

「あぁ……忘れてた」

 八神が舌打ちし、人型になる。

「これをやる」

 袖から小さな袋を取り出した。


「これは?」

「この袋には妖除けの石が入っている。これを持っているだけで妖に見つかりにくくなる」

 そんな便利な石があるなんてな……というより、こいつの袖は一体どうなってんだ? 四次元ポケットかなんかか?

「ありがとう、じゃあ。行ってくる」


 家に鍵をして、しっかり石を持って春音とともにお出かけする。

 春音は家から出て直ぐ、俺と腕組みして喜んで歩いている。事情を知らなきゃ完全にカップルに見えるだろう。

 出かけたのはいいものの、どこに行こう?


「どこに行く?」

「う~ん……お昼も近いし、ファミレス行く?」

「高校生の財布は厚くないぞ……」

 一万円は入ってるが、これは参考書を買うためにあるんだけどな……まぁ、たまにはいいか。 

「いいだろう。ファミレス行くぞ!」

 

 俺と春音でファミレスに向かう途中、散歩中と思われる鳥峰(とりみね)と出会った。

「こんにちは。九十九(つくも)くん」

「よぉ、鳥峰。散歩か?」

「うん。あの……そっちは彼女さん?」

 春音のやつ、まだ腕組みしてやがる。これじゃあ完璧に完全に勘違いされる。


「……妹です」

「いっ、妹さん!?」

 若干引かれてる……

「お兄ちゃん、この人誰?」

 一瞬、放心状態だった。しっかりしないと!

「あぁ。鳥峰(とりみね)()()()。クラスの優等生ってとこかな」

「褒めすぎだよ」

 (にゅう)()な笑顔を俺に向けてくれる。

 だがーー


「あの……妹さんからものすごい殺気が」

 春音は鳥峰にものすごい殺気を向けていた。

「コラ! 殺気を向けるな!」

「ごめんなさい」 

 これで多分、殺気を引っ込ませたと思うが……鳥峰に申し訳ないことをしてしまったな。お詫びをしないと。


「お詫びと言っちゃなんだが、俺たちとファミレス行かないか? 昼ご飯まだだろ?」

 ファミレスを行くことを鳥峰は快く承諾してくれた。

 

 近くのファミレスに三人で入る。

「んじゃあ、俺はオムライス」

「わたしはBランチ」

「私はお子様ランチ」

 それぞれのメニューを頼んで、雑談混じりで料理を待つ。


「へぇー、九十九くんは妹さんが二人も居るんだね。しかも双子」

「双子って珍しいか?」

「わたしには珍しいかな。わたしは一人っ子だからさ」 

 全員の料理が運ばれてきて、それも楽しい会話をしながら食べる。

「鳥峰さん。お兄ちゃんは渡さないから」

「え?」

 鳥峰はプリンを食べながらきょとんとしている。しかし食べるのが早い。もうデザートまで食べている。意外だ。

「お前は何言ってんだ!」

「この人が彼女に近いんじゃないの?」

 んなわけあるか! とは声を大にして言えるわけないだろ。

 俺は無言で春音の頭にチョップした。


 ご飯を食べ終わり、ファミレスを後にする。

 そして公園で不思議な人物と会った。

「九十九くん。あれ見て」

 公園の砂場で、一人の同年代? と思われる女の子が砂で立派な城を作っていた。

「なんだあれ? ……すげぇな」

 俺たちは興味津々で近寄る。


「すごいですね。それ」

 と明るい声色(こわいろ)で話しかける鳥峰。

「ええ、ありがとう」

 それと正反対なひどく冷たい声色だ。気持ちが籠もってない訳じゃない。いや、多分。この人はこういう人なんだろう。

 きめ細やかなとても白い肌。するりと伸びたきれいな手足。美しく長い指、作業の邪魔にならないように一本に結ばれた髪。一言で言うなら美人だが、その美しい仮面の下にはきっととんでもない本性がある気がする。

 いや、考え過ぎか……


「でも、壊すの。この砂の城」 

「壊しちゃうんですか?」

 とても残念がっている鳥峰を見ながら彼女はこう言った。

「ワタシ、物を造るのが好きだから休日にはここに居る。気が向いたらまた来てちょうだいね」

「はい!」


 公園から離れて俺と鳥峰は別れた。

「今日は短い時間だったけど楽しかったよ。ありがとう。じゃあね。九十九くん」

「おう、じゃあな。鳥峰」

「サヨナラ、鳥峰さん」

 春音は少しまた殺気を込めたさよならを言った。


 そして家につく。

 さて、テスト勉強でもするか……

 部屋に戻ると、八神(やつがみ)が人型で椅子に座っていた。

「お前、なにやってんだ?」

「どうだ! 文字を書いたぞ!」

 なんと俺が帰ってくるまで八神は文字の練習をしていたらしい。本当に意地っ張りだな。五十音がかなりきれいな字で書かれてる。こりゃ相当練習したんだな。

 

「偉い偉い」

「お前、なんだその反応は!」

 他になんて反応すればいいんだよ。

「なぁ、ちょっとした質問いいか?」

「なんだ? 次は猫の尻尾はないのかとか言う気か?」

 警戒してる。無理もないか。

「妖怪ってなんだ?」

 俺の真面目な質問に少々驚いたらしく、少し間が空く。


「普段は見えないが。一度見てしまえば、意識すれば見えてしまうもの……それが妖だ。と儂は思っている」


 もしかしたら妖怪が見える人がいるかもしれないのか……まっ、居たら会ってはみたいかな。

あんまり戦闘が多くありませんがつたないギャグでカバーしていきたいと思います!

お付き合い下さい

意見、誤字脱字を教えて頂けたら幸いです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ