おいおい、俺ってリア充じゃね?
ある金曜日の帰路の会話だった、当たり前のように授業を受け当たり前のように俺、萌、奏音、四十八願さんで昼飯を食う、そんな日々が浸透してきた時。
萌が席を外した時に四十八願さんが会話の口火を切った。
「え?」
「…だから、料理…二人に教えてほしいの」
「何で?」
「いや、それは、その………」
「……分かった、吹雪もいい?」
やっぱこいついいやつなんだよなぁ。
「俺は別に構わんが」
奏音、お前が料理出来るのか?それのみが心配だ。
「じゃあ明日」
「明日からするのか?流石に四十八願さんが空いてないだろ」
「だい…じょうぶ」
「決定」
「そっか、ならどこで?」
「私の家で…どうかな?」
「決まり」
「りょーかい、なら萌にも教えとこうか、あいつははしゃぐだけかもしれんが」
「まっ!待って!」
四十八願さんが少し顔を赤くしながら俺にストップをかけた。
「…あー、分かった」
俺は鈍くない!全くもって鈍くない、だから四十八願さんの気持ちは分かった。
だからワザと萌が居ない時に話したのか。
「何で?仲間外れは悪い」
こいつは…ダメだ、速く何とかしないと。
「あー、そ、そーいやー萌は明日映画見に行くって言ってたな」
嘘でもそこは守らなくては。
「ならしょうがない、三人で」
「だな、うん」
四十八願さんは安心したのかホッと胸をなでおろしていた。
「ただいまー」
萌が帰って来て会話が強制的にストップ。
まぁ後は帰りにでも。
「あ…私ここで」
帰路につき、話に集中していたのかいつもの四十八願さんと別れる所まで来ていた。
「うん」
「9時ごろ行くよ」
「はい、待ってます」
その夜、またもや俺は、コンビニへパシられる。人使い荒いっすよ姐御。
「――に、しても住宅街だな、密集してるよ」
朝、いつも四十八願さんと別れる河原まで来た。そこからは、彼女から聞いた道を思い出しながらなぞるだけだ。
「美鈴はここから20分で家に着くって」
「初めて行くんだから道は完璧じゃないよ」
「頼りない」
「うるさいなぁ」
10分ほどして、
「ああ、もう道が分からん」
「しっかりして」
「うっせ、お前の動物的カンで何とかしろ!」
「分かった」
「え?本当に出来るのか」
両手の人差し指を立てピンっと張り額の上でいろいろな方向へ動かしている。
「しゅぴぴーん、こっち」
「絶対適当にしてるだろう」
これで本気だったら絶対病気だ………。
「やっと着いた、はぁ」
四十八願さんの家に着くまで何度も間違い結局あれから30分もかかった。
ベルを鳴らすと四十八願さんが出てきた。学校と違い薄い青のスカートと白いフリフリが付いている服を着ている、眼福。
「おはよう」
つづいて奏音が、
「朝の最初の言ってはいけないあの言葉」
意味が分からんぞ糞猫。
「…おはようございます…いらっしゃい」
家に上げてもらいリビングに案内された。
リビングひ、広い…。
「――飲み物は何がいいかな?」
テーブルで向かい合っている四十八願さんが訪ねてくる。
「ああ、お構いなく」
「美味しい紅茶」
こいつっ!日本猫の風上にもおけん。
「分かった…一番合戦君もそれでいいかな?」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、少しお待ちを」
四十八願さんがキッチンへ向かった。
そういえば、確認してなかった。
「ところでよ、奏音お前料理出来るのか?」
「出来ないことを出来るようにすることが生きることだと思う」
「まじか…よ」
「冗談、出来る」
「ならいいんだが」
「まかせとけ」
ふっ!という感じでカッコつけてはいるが、
「頼りねぇ」
「お待たせ…」
うわっ、ほのかに湯気が立ってていい香り。
「ありがとう」
「んが」
四十八願さんから出された紅茶はほんのり甘く美味しかった。
「で、料理についてだけどさ」
「この料理修行に向けていろいろ思いを馳せてきた」
話を始めようとしたところで奏音が遮ってきた。
たかが料理の練習にお前はどんな思いを馳せとるんだ……
「まずタイトル、猫屋敷奏音のドキドキお料理教室~~これで意中のあの人の心もヒートアイランド~~」
「っ!」
反応が過敏過ぎる、素直な子だなぁ。にしてもサブタイトル意味わからんな。
「吹雪、どう?」
「いやもう言うことがなくて感動ダワー」
「美鈴は?」
「……えっと、さ、最高…かな」
「徹夜で考えたかいがあった」
うんうんと頷き納得顔。
徹夜……まさかこれだけに一徹?……これは逆にすげぇ、馬鹿過ぎて一般的な人間には出来ない、もはやギネスレベル」
「思ってることが途中から声に出てる」
「え?」
「吹雪最低」
「いや、ちょいまて、あ、ごめんなさい!」
「……一番合戦君…」
それは駄目だよーと目で訴えかけてくる。
「や、やめて、四十八願さんっ!その憐れむ感じ、ちょっ!マジで!」
「美鈴、では始めましょう」
「うん…」
俺は放置!?
「お、おいどんはどうすればいいかえ!?」
「ん、テレビ?」
「おいっ!」
「一番合戦君も教えてくれるとありがたいな、一人暮らしだから料理するでしょう?」
「あー…うん」
一人暮らし……か。
「じゃあ最初はチャーハン」
「お前の趣味じゃねぇか」
そんなこんなで料理のレパートリーと技術を四十八願さんに叩き込んでいった(主に俺が)
料理指導も終え、リビングのテーブルでくつろいでいると、
「ちょっとトイレ」
「ああ、ゆっくりしてこい」
奏音が居ない隙に言うしかない!キュピーン(目が光る音)
「四十八願さん、これでキャンプの時、大丈夫だな」
「ひゃ!?ななな、なんで!?」
「何でって見てたらわかる、まぁ萌は鋭いようで鈍い、ガンバ」
「うぅー……誰にも言わないで」
赤くなった顔を下に向けてスカートをぎゅっと握っている。
女の子はこうでなくっちゃ!!
「言うわけないだろ」
あくまで、クールにクールに!
「ありがとう…」
「ま、キャンプ楽しもうぜ」
きまっっった!!!!
「…うん」
「吹雪、帰ろう」
トイレから戻ってきた奏音が何やら急いでいる。
「ん、ああ」
「じゃあ、四十八願さん、これで」
「今日は二人ともありがとう」
「友達じゃんかよ」
「うん」
「お邪魔しましたー」
四十八願家を後にした俺は、何故か早足で先に行く奏音に質問した。
「お前何でそんな早く帰りたがってたんだ?」
「マシュマロ食べたい」
目が血走っている。
「病気かよ!」