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結局ダリィ、いや奏音はいい奴だった。

 奏音が転入してきて数日が経ったある日―――

「にしても、お前」

「なに?」

学校も終わり二人並んで帰宅していた。

「いやなんと言うか」

「はっきり言って」

「なら言うけどさ」

「うん」

「そんなにラブレター貰ってどうするの?」

「貰ったものは貰った、要りはしないけれど」

そう、大人しい容姿や雰囲気に騙されて男どもがよってたかってダリィ、奏音を日々我先にと取り合っていた。そんなこんなでダリィの鞄には今日だけで三通ほどの恋文が入っていた。

「はぁ」

「嫉妬はかっこよくない」

「誰がだ!この飼い猫が!」

「怒った、やっぱり」

「はぁ!?何でだよ」

「本当にしょうがない人、ほらチッチッおいで」

「チッチッじゃねぇよ、される側のくせして」

「あ、蝶々」

「聞いてねぇ!」

猫の癖なのか動いているもの追いかける癖が抜けない。

「あ、あれ」

「何だよ?」

「おんなじクラスの」

「ああ、あれは確か―――」

四十八願(よいなら)さん……」

「知ってるのか?」

「クラスで見たことがあるだけ」

「ああ、いつも一人でいるもんな」

「何してるんだろう」

「近づくなよ」

「何で?」

「あいつは―――いじめられてるんだよ」

「だから何?いじめられてるから何?」

「いや、だからいじめられてる奴と絡むとお前もいじめられるぞ!」

「吹雪はいじめるほうといじめられてる方、どちらが悪いか結論が出せる?」

「さあ、どちらにも否はあるんじゃないか?」

「そう」

「お前は?」

「それを知りたいから話し掛ける」

「はぁ?」

「にしても何がいじめられてる原因なの?」

「俺も噂でしかないけど相当きつい過去があるっぽい」

「過去……取り合えず近づく」

「だーかーらー」

「あっ」

「何だよ!?」

「社会に反抗的な人達とぶつかった」

ぶつかったことが原因で四十八願さんは三人のヤンキーに囲まれていた。

「ヤンキーって言えばいいだろ、何かいちゃもんつけられてるっぽいな、可哀想に」

「安い言葉」

「重みはない、意味も込めていない」

「それは本気で言ってるの?」

その時のダリィの目は、いつもと違い恐ろしく力がこもっていた。

「え、いや、どうだろう」

「意味はあると思う、可哀想と言えたなら行うまで」

「まさかー、いくの?」

「行く」

「冗談よせよ」

「行く」

「冗談なんて嫌いだ」

「行く」

「相手は三人もいるんだぞ!?何されるか分かったものじゃない!」

「関係ない」

「なら、主人として勝手な行動は許さない」

「なら一緒にきて」

「んなもん嫌に決まってるだろ」

「じゃあ私一人で」

「まてよ、何でそこまでする?」

「何でか知りたいからする」

「あー、もう分かった分かった!!付いてくから!」

「吹雪は出来る子だって信じてた」

「はぁ、殺されないかな」

「多分大丈夫、逆に殺してしまうかも」

「なに言ってんだお前、こっちには毎日だらだら帰宅部のエースとその飼い主に比例して堕落してる猫だぞ!どこから相手を殺すとかそんな恐ろしいことが出てくるんだ」

「行けば分かる」

「そのやれば出来るみたいなノリやめい」

「取り合えず行こう」

「俺の命もここまでか」

四十八願さんとヤンキーどもは、路地裏の如何にもというところにいた、道からは背中で見えないようにしていたために四十八願さんは逃げる事すら無理そうだ。

「―――おいおい、お嬢さん、お前がぶつかってきたせいで腕がいてぇんだけど?」

「……」

「おいおい、謝るくらい出来ねぇのか!?ああ!?」

「……」

「何とか言えって言ってるだろぉがぁ!!」

「……」

「なーんも言わねぇのな、にしてもこいつ眼帯なんかはめてやがる」

「あれだろ、中二病ってやつだろ」

「ぎゃははははは」

「……」

不良から馬鹿されても表情も変えずに無言を貫いていた。

「―――おい、てめーら、女の子をいじめやがるな」

ヤンキーの背中越しに棒読みの声が響いた。

おう、俺が言ったわけではない、このバカ猫だ。にしてももうちょい気持ちをを込めてだな、いやもともとこんなしゃべり方で気持ちはこもってるのか。

「はぁ!?何だよてめぇら、お仲間さんですかー?」

「そう」

「後ろの男は何だよ」

「俺は――」

「ヒーロー、その子を助ける」

んぎゃぁぁぁぁあ!!!

「はぁ?お前がぁ!?」

「そう」

「こんなひ弱そうな男が俺たち三人を相手にするのかよ!?」

自慢じゃないが俺の身体能力はいたって普通でノーマルだ、どうやって勝てと?

「吹雪は暴力はしない、助けるの意味が違う」

「はぁあ?じゃあ誰が俺たちから殴られてくれるんだよ?あぁ!?」

「殴られはしないけど相手は私がする」

「おいおい……まじかよ、お前が負けたら何でもしていいのかぁ?」

「もちろん……ダメ」

「てめぇに拒否権なんてねぇんだよぉ!!」

そう叫ぶと一人の筋肉質な男が奏音めがけて突っ込んできた。

その瞬間奏音が右手を前にかざし垂れかけの眼を開いたと同時に、ヤンキーは、右手で握り拳を作り奏音めがけて放った。

その瞬間―――

「ヒィィィイ、痛い!痛いぃ!」

奏音を殴り掛かってきたヤンキーは地面に倒れこみ右手を押さえながら泣き叫んでいた。

奏音の眼は半開きに戻っていた。

何がどうなったんだ……。

「あなたたちまだに立ち向かうの?骨が折れるだけでは今度はすまない、かも」

「ヒ……」

「今なら許す、かも」

「わ、悪かった、悪かったよ!お嬢さんは返すから!な?」

人間と言うのは知っていることや体験したことには耐性があるため反応が出来るが味わったことのない出来事には最初に恐怖や戸惑いを見せる、この不良共も例外なく。かくいう俺も。

「速く」

「あ、あぁ」

こいつは自分も腕が折れるかもしれないと思って恐怖に負けたのだ、だから速くこの場から逃げたがっている。

ヤンキー二人が狭い路地裏の壁に張り付いて道を作った。

「速く、こっち」

「い、行け」

「……」

八十九願さんは、小走りでこちらへ来た後ずっと下を向いていた。

「後二つ」

「な、なんだってんだ!もうなんもしてねぇよ!速くこいつを病院に連れてかせてくれよ、どう見ても折れてるじゃねぇかよぉ!」

「黙って聞け」

奏音が発したその一言は怒りを抑えきれなかったのか恐ろしいほど感情がこもった一言だった。

な、なんでこんなに怒ってらっしゃるの……?

「二度と悪さをしないこと」

「わ、わかった」

「破ったら吹雪が殺しに来る」

「あ、ああ」

ここで俺かよっ!!

「そしてもう一つ…何で……」

「は、はい?」

「なんで八十九願さんは、お嬢さんで私は女なの?」

先ほどの発言も恐ろしかったがこの声にはより強い恐怖を感じた。

「ヒィ!ごめんなさい!」

ヤンキーもビビっている。

「私をなんて呼ぶ?」

「お、お嬢様です」

にしても器ちっちぇなぁ。

「よろしい、今回は許す」

そう言うと奏音はいつもの声に戻った。

「は、はい」

「去れ」

男たちは三人で怯えながらその場を去っていった。

「八十九願さん、怪我はないか?」

何もしてないからここらへんで俺も出番を作らねば。

「……」

下を向いたまま四十八願さんは返事をしなかった。

あー、喋らねぇなぁ話しづらい。

「八十九願さん、言いたいことがあった、貴女の眼帯カッコいい」

沈黙を破るように奏音が話し始めた。

「お、お前な!」

普通そういうのはコンプレックスとかでタブーだろ!

「……そう」

小声だが八十九願さんは確かにそんなことを呟いた。クラスでは喋っているところを見たことがないのに。

「うん」

また沈黙が生まれた……何か言わねば。

「にしても良かったァ!死ななくて!」

終わった後で緊張の疲れがどっと押し寄せてきた。

「吹雪はビビりすぎなの」

「喧嘩なんかしたことないんだから無茶言うなよっ!」

「喧嘩は男の祭り」

「なにいってんだお前」

「八十九願さんも喧嘩は男の祭りと思ってる」

「適当なこといってんじゃねぇよ、なぁ八十九願さん?」

「……そう、かも」

「当たり前でしょ、馬鹿だって」

「絶対言ってねぇよ!」

「取り合えず、帰ろう、八十九願さんも」

「そうだな、帰るか」

「…まだ……」

「ん?」

「…お礼を言えていない、あり……がとう」

初めて前を向いて話してくれた。

「なら、一つお願いがある」

「……な、何?」

「私と友達になれ」

命令文っ!?

「吹雪とも」

「……だめ」

「どうして?」

「……あなたたちもいじめられる」

「関係ない」

「…けど」

「…私は喋るのも得意じゃないし失明して眼帯をしてるし他の人と違うの……だから、皆近寄らない」

「眼帯…私は気にしない、もし何か言う人がいるなら殴り飛ばす、吹雪が」

また俺……。

「…苦しみは味わった人にしか分からないの」

「ぁ……」

俺たちは、何も言えなかった。

「そうだ―――私が失明してることをネタに皆と仲良くなればいい」

涙目になりながら俺たちに言ってきた。

自分の事で俺たちが他の人と仲良くなるように言うってことは……昔そうされた事があるのだろう、その時の苦しみや恨みなど本人でしか分からないほど暗く深い。

そして噂通り失明……。

「私はそんなことしない、皆と仲良くなるならまずあなたとなりたい」

「……でも」

「もういい、明日のお弁当は吹雪とあなたと食べる」

っ!奏音(飼い猫)がこんなに人を助けようとしてるのに飼い主がこんなんじゃカッコ悪いよな……。

「え……」

「なにも言わなくていい、私がそうするだけ」

「ふ、ははは、そうだな!一緒に食おうぜ八十九願さん!」

「……そんなことしたらいじめられるんだよ、あなたたちも」

「知らない」

「知るか」

二人の声は重なり同じ事を口から出した。

「……ありがとう」

そう言うと四十八願さんは下を向き目に溜めていた涙をこぼした。

「と、なると萌君も道連れ」

「だな」

「……でも…いつでも離れてくれて構わないよ」

「じゃあ卒業までな、いや卒業後も会うか、はは」

「吹雪卒業できるの?」

「俺の頭脳をなめんなよ」

「ふふ」

四十八願さんが初めて笑った。これが四十八願さんが俺たちに見せてくれた最初の笑顔、忘れない。

「四十八願さんは、私の友達二号」

「……そっか、ありがと」

相変わらず小声だがこの短時間で随分と喋ってくれるようになった。

四十八願さんも普通の女の子だったんだ、俺は周りに流されていたんだ―――言い訳だけど、そうだ。

でも俺も少し変わろう、そう思える出来事だった。

「四十八願さん、奏音は少しずれてるが、よろしくな」

「…うん、よろしく」

「あれ?俺は友達何号?」

「……四十八願さん、行こう」

「まてぇぇい!!」

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