これが、正常です
手慰み、第数弾は、かなり遅れて投稿いたします。
寝落ちしてしまいました……。
その後、話が詰まってしまいました。
その割に、つまらないお話かもしれませんが、お楽しみいただければ、幸いでございます。
光属性の魔力を持つと判明した令嬢が、公爵家に呼ばれたと聞き、王太子はついに一線を越えたかと、激高した。
最近、平民の母親の元を離れ、父親の家である男爵家に引き取られた令嬢は、王太子と同じ学園の二回生だ。
突然貴族の家に引き取られて戸惑っている令嬢に、高位の令嬢たちが近づいてこないよう、側近候補たちと共に張り付いていたのだが、帰宅した後に動かれるとは思わなかった。
単身で公爵家に呼び出された令嬢を思い、慌てて公爵家へと向かったが、門前で止められてしまった。
先触れがないため、通すことはできないと言う。
妙に仰々しい門番に、公爵家の本気度が見え、王太子は焦って側近候補たちと共に、貴重な光属性の令嬢の危機をまくし立てた。
騒々しい少年たちに辟易した門番の一人が、屋敷の方に走っていき、主に報告に向かう。
すぐに戻ってきた年かさの門番が、呆れ顔でもう一人に頷いてから、門を開けた。
礼を言う事無く屋敷へと走り、公爵家の執事が慇懃にお辞儀するのにも構わず、話を切り出す。
「光属性の令嬢が、ここにきているはずだっ。何処にいるっ?」
「男爵家の方々ならば、応接室にお通しいたしましたが……」
目を丸くした執事が言い終わる前に、王太子たちは公爵家の応接室へと向かった。
この家に度々訪れていた王太子は、何処に応接室があるのか把握していたからだったが、扉をノックせずに勢い良く開くまで、失念していた。
「……何事ですか、第一王子?」
自分の母親である王妃の実家が、この公爵家であるという事実を。
応接室の主席で優雅にカップを口に運んだ王妃は、一口飲み物を飲んでからゆったりとした仕草でカップをテーブルに置き、騒々しく扉を開け放った実の息子を見つめた。
その左右で、この家の主と夫人と令嬢と、緊張で小さくなった男爵と夫人、そして王太子たちのお目当ての令嬢が、向かい合って座っている。
「え? はは、上?」
「何事なのかと、尋ねているのです。先触れも出さずに訪問したうえに、入室の断りも入れずに扉を開けるほどなのですから、余程火急な用なのでしょう?」
驚き動揺する息子に対し、王妃は冷静に尋ねるが、王太子は逆に問いかけてしまった。
「何故、母上が男爵令嬢と? もしや、私が学園で構っていることが、彼女に悪い状況を作ってしまったのですか? もしそうなのでしたら……」
「自覚はあったのですか。いえ、寧ろ自覚があるのに、執拗に付きまとっている事の方に、驚きました」
思い当たる理由を口にすると、冷ややかな返しがあった。
「その件の解決のために、こうして動いているのですが。自覚がある割に、思い当たりませんか?」
その言葉で、王太子は表情を緩めた。
そして、男爵家の向かいに座る公爵令嬢を見下ろす。
「成程、くだらない妬みで、嫌がらせを企んでいたことが、明るみに出たのですね?」
「……違います」
見上げた公爵令嬢が無言な代わりに、王妃が再び答えた。
その声には、呆れが滲む。
「男爵令嬢の世話を、公爵家が責任をもって行う王命を、伝えに来ました」
王妃は告げて書状を掲げた。
信じられない王命に、王太子は顔をこわばらせた。
「そ、そんなっ。そんなことをして、間違いが起こって彼女の身が危ぶまれることになったらっ」
「今の状況の方が、それを危ぶまれているから、こうして王命が下ったのです」
焦燥に駆られている息子に、王妃は冷ややかに続ける。
「あなた達が、王宮魔導士の卵である彼女の将来を潰しかねないと、学園より通達がありました」
「……っ。何を言って……」
目を剥く王太子に、母親は静かに説明し始めた。
魔力を持つ人間は、とても貴重だ。
特に、光属性の魔力を持つ者は、百年に一人の逸材とも言われるほどで、それ故に血の存続を最重視される。
「……魔力を持つ者は、貴族との縁組が可能ですが、血を繋げるかどうかは、五分です。それは、あなたもよく分かっているでしょう?」
「……」
黙り込んだ息子に、王妃は非情な現実を口にした。
「わたくしに魔力はあっても、国王陛下の血を継いでしまったあなたに、魔力が欠片もなかったことが、何よりの証明です」
「っ」
「我が国の貴族は、代々土地を肥やすために経営力や物流力が優れているからこそ、領地を収められていいます。魔力を持つ者たちは、その力がない分、守護に力を注ぐ存在となることを切望されているのです。あなたが言ったように、光属性の男爵令嬢は特に、国に必要な人材です。だからこそ、王室で勤めるにふさわしい、淑女としてのマナーや知識を学ぶべきなのです」
「……」
「その教育をするには、あなたは役不足です」
きっぱりと切り捨てられた王太子は、無言で膝を折った。
すまんなあ……。
母親に言葉で打ちのめされ、膝を折って呆然としているだろう王太子の姿を想像しながら、応接室の隣の部屋で盗み聞きしていた国王は、天井を仰ぎつつも心の中で謝ってしまっていた。
本当ならば学園生活を謳歌したうえで、自由に恋愛し、結婚に持ち込める女性を見つけてほしかったのだが、目をかけた相手がまずかった。
我が国の王族は、とかく魔術と相性が悪い。
代々の王が、魔力を持つ者に憧れ、子がそれを持つことを望むが、どんなに高い魔力を持った伴侶を得ても、王の持つ何かと相殺されてしまい、今まで一度も魔力持ちが生まれたことがないほどだ。
平民ですら時々、強い魔力持ちを生み出せるというのに、王だけが相殺してしまう。
逆に言えば、これが伴侶の潔白を証明できる手段となるので、開き直ることもできるが、うらやましいものはうらやましいのだ。
現国王である自分も、一縷の望みをかけて魔力の強い伴侶を得たが、結果は惨敗。
王妃との間にできた二人の王子も一人の王女も、魔力のかけらもない。
やはり駄目かと諦めた国王だったが、王太子が光属性の男爵令嬢を気にし始めた時、今度こそはと希望を見た。
前回の人生では。
そして、無事に婚姻させるまでに至った。
だが、間違いだった。
男爵令嬢と相思相愛となっていたのは、王太子ではなく、王妃の実家の寄り子の子爵家の次男坊だったのだ。
王太子妃となった男爵令嬢は、婚姻後すぐに身ごもり、子を出産したのだが、その子には莫大な魔力があった。
それだけならば、ようやく念願が叶ったと、喜んだだろう。
誕生した子供は、王太子にも王太子妃にも、国王夫妻にも似ていない、ましてや夫婦どちらの家系とも違う色合いの、髪と瞳の色をしていたのだ。
その色合いは、件の子爵家の者と同じで、詰問したところ子爵令息も王太子妃との不義を認めたため、処罰を受けることになった。
聞いてみると、正確には不義ではなかったようだが、仮にも仕える者に嫁ぐ可能性があった令嬢と一線を越えていた点は、反逆行為とみなされて極刑となった。
王太子妃も子供もろとも処罰されて毒を飲み、国は貴重な存在を二人同時に失う羽目になった。
それだけでも痛手だったのに。
その件が解決してすぐ、王妃より離縁を切り出された。
「あなたの、周りの意見を聞かぬその傲慢さ、今回こそは愛想が尽きました」
冷ややかに告げられたが、何が何だか分からない。
困惑する国王に、王妃は今回の件を蒸し返す。
「男爵家のご令嬢との縁談は、難しいと申し上げた理由を、覚えておいでですか?」
更に困惑する王の様子で、答えは知れたと王妃は溜息を吐いた。
そして衝撃な事実を告げる。
「あの娘は既に、既婚者でした」
「は?」
言葉を失くした国王に、王妃は静かに説明を始めた。
学園を卒業と同時に、子爵令息は男爵家に婿入りし、令嬢は王命で王太子に嫁ぐ話が出る前に、小男爵夫人となっていた。
「そろそろ男爵家の跡継ぎを産んで、落ち着いたら王宮での勤務に勤める旨、伝えられておりましたし、陛下にも報告済みでごさいました」
だから、反対した。
当然だ。
相思相愛の二人が、今回の王命を受ける前に、情を交わさないなど、有り得ない。
「何度も申し上げたのに、あなたは都合の良い言葉尻だけ拾って、あの娘を王子の正室にしてしまった」
小男爵夫人は、王城からの申し出に、既に小男爵と契りを交わした旨を伝え、男爵家の跡継ぎが出来た後ならば、側室として受ける意を返してきた。
国王と王太子は手放しで喜んだ。
すぐに迎える準備を申し付ける二人を、王妃と宰相を含む常識人は幾度となく止めたが、無駄だった。
最終的に諦めたのは、国の広報に命じて、大々的な通達を行い、国中に王太子と小男爵夫人の婚姻を知らしめてしまったからだ。
本人たちも諦めてしまったため、周囲が国王親子に諫言する理由も、消えてしまった。
「あの二人は、夫人が王宮入りする前から、覚悟を決めておりました」
遠くない未来に、夫人が不義を理由に罰せられると。
王妃もそれが分かっていたから、せめて双方の家族だけはと心を砕き、自分の親族と共に、隣国に逃がしたのだった。
「なっ」
突拍子のない告白だった。
慌てて周囲を見回すと、冷めた家臣たちの目があった。
たじろぐ国王に、王妃は呆れた溜息を吐く。
「本当にあなたは……」
それ以上言葉に出来ないと、王妃は手にしていた書面を差し出した。
王室で発行している、離縁手続きの書類だ。
まだ何か話している王妃の声が、遠く聞こえた……と、思ったら、全く別な場面にいた。
王太子となった頃に使っていた自室の、寝台の上だ。
飛び起きて鏡を確認すると、若々しい時に巻き戻っていた。
あの後、何が起こったのかは分からないが、もしかしたら自分は死んでしまったのかもしれない。
だが、獣神が自分を憐れんで時を戻してくれた。
この時分からやり直せと言うお達しなのだろうと、王太子である男は察し、朝一で今の国王陛下への謁見を申し出た。
王妃となる公爵令嬢はこの時期、留学してきていた隣国の公爵家の跡取りと良い仲で、そろそろ婚約が成り立つという噂があった。
その噂に後押しされて勇気を出し、前の人生では先回りして王命を出してもらい、公爵令嬢を手に入れた経緯があった。
王妃が後に離縁を申し出た上に、隣国への亡命を考えたのは、あの男を頼ったせいだろう。
ならば、頼る先を消せばいい。
その案を国王に話すと、父親である王も悪い顔で頷き、直に動いてくれた。
無事、最愛を再び手に入れ、前の人生と同じく三人の子に恵まれた王太子は、引退宣言をした父親に代わり、国王として国を治め始めた。
その頃から、もう一つの憂いを解決するべく動き出す。
男爵家に娘が引き取られる前に、子爵家の次男坊を亡き者にしたのだ。
これで、間違いなく王太子は、男爵令嬢と幸せになれるはずだ。
安心した国王は、直にそれが間違いだったと知る。
……男爵家に引き取られた娘が、光属性に目覚める兆しが、欠片もない。
平凡な男爵令嬢は、学園を卒業した後、婿を取って男爵家を継いだ。
息子である王太子は、前の人生での執着を見せることなく、王妃の勧める令嬢と縁を結んだ。
まあ、これもありかと、複雑な思いを抱きつつも満足した国王は、孫が生まれた頃に再び、王妃に離縁を切り出された。
「何が不満なんだっっ」
取り乱した夫に、王妃は告げた。
「……不満はございません。ですがもう、わたくしがあなたの元でできることは、残されておりませんので」
意味不明な言い訳だ。
まじまじと妻の顔を見つめた国王は、気づいてしまった。
年を重ねたことだけが理由ではないと分かるほど、王妃の体が痩せて衰えていることに。
「……ようやく、お気づきですのね。わたくし、嫁いだ時から病に侵されております」
「なっ」
そんなに長い間患っているというのに、国王は気づいていなかった。
それに、前の人生では健康体だったはずだ。
慌てて近づく夫から身を引きながら、王妃は言う。
「……実は、王宮入りする前に、わたくしの伴侶が、亡くなってしまったのです。それゆえ、陛下との縁談を受けたのです、期間限定で。最期は伴侶の墓所の近くで逝かせていただくという約束で、嫁いでまいりました」
「は、伴侶?」
体が一気に冷えてしまった。
確かに、この大陸の人間は、魔術を持つ者ほど、伴侶とのつながりを重視するが、その生死すらもつながりに縛られるとは、知らなかった。
だが、それだけが衝撃をもたらしたのではない。
王妃に自分以外に、大事な存在がいたことが、何よりもショックで、忌まわしかった。
衝撃と怒りで頭が真っ白になって、王妃の言葉が耳に入らなくなった、と思ったら、再び巻き戻っていた。
若返った国王は思う。
王妃と相思相愛だった男を片付けるだけでは、足りなかったようだ。
時期が来たら、彼女が伴侶とやらと出会う前に、片をつけなければ。
まずは、先の人生と同じように、隣国の男の対処を。
王太子だった男は再び思い立ち、当時国王だった父親に謁見を申し出た。
すぐに謁見の間に呼ばれた男は、前とは違う風景に度肝を抜く。
広々とした空間の玉座の前で、国王はカエルのようにうつ伏せに倒れ、何者かに押さえつけられていた。
いや、押さえつけられているというより、踏みつけられている。
妙に大きな、真っ白な兎に。
扉の前で、唖然として立ち尽くす王太子を見た兎は、忌々し気に吐き捨てた。
「これの、何処が、オレの分身だっ? しっかりと説明しろ、このクソガキがっ」
「すまんすまん。つい、遊び心で、性格を捻じ曲げすぎた」
真面目な声が答えた。
王太子の真後ろで。
「う、うわあっっ」
振り返ったらそこに、長身の真面目そうな黒髪の男がいて、王太子は飛び上がってしまった。
そんな様子を見て、兎が溜息を吐く。
「どうやり直しても、こいつらが異常では、どうしようもないだろう。作中で封印されるまでで、あれだけの不幸が量産される話など、面白くない。遊び心では、済まされないぞ、これはっ」
「致し方がないだろう、この間の話でも分かっただろう? 獣神は狩っても、時を戻したら元に戻る。多少の訂正はできるが、それでもお前は不服だっただろう?」
「当たり前だっ。何故、神殿での不浄な行為の邪魔をしたからと、幼い子に天罰を与える不届きな神が、爆誕してるんだっ」
長い耳を膨らませながら兎は吐き捨て、国王親子を見下ろした。
そして二人に呼びかける。
「おい。お前たちに、もう一度だけ機会をやる。獣神の器として君臨しているお前たちは本来、人間とは相容れない存在だ。人間の魔力を無機化する程度には、相容れない。それをお前たちは承知しているはずだ」
兎に言われるまでもなく、教えられていた。
世界で唯一信仰されている、兎の獣神の器。
この国は、代々獣神を下ろされる器を守り、崇めるために興された土地だった。
最近の王は、好んで魔力を持つ伴侶を選ぶが、別に器を産み落とすのならば、どんな相手でもいい。
貴族だろうが平民だろうが、人型の器が必要なだけで、こだわりはなかった。
心惹かれる相手ならば。
それがどうしたと、睨む王太子に、兎は言った。
「……お前の息子を産む娘の伴侶は、隣国の公爵家の次男、つまり前回、お前たちが消してしまった男だ」
「え」
「婚約前に伴侶を亡くし、気を弱くした令嬢は、お前との縁談を受けたんだ。獣神の器をいくつか生んで落ち着いたら、離縁することを条件に」
「初めの話では、先回りした王命だったから、あれだけ愛想をつかした後でないと、王妃は離縁を申し出られなかったが、そこだけは、お前たちもいい仕事をした、と言えるか?」
真面目な男の意見に、兎は露骨に眉を寄せた。
首を振って吐き捨てる。
「あの後の結果は、最悪だったぞ。封印する者がいなかったものだから、こいつは暴れ放題だった」
「そうだったな」
意味不明な会話をした後、兎はもう一つ告げる。
「例の男爵令嬢が、光属性に目覚めたきっかけが、前回お前たちが消した、子爵令息との出会いだったんだ。おかげで、その後の話が、完全に狂った」
「そ、そんな……」
どうすればいいのかと、困惑する王太子に、男が優しく言った。
「答えは簡単だ。初めの人生をなぞり、予定通りに公爵令嬢を娶れ。話はそれからだ」
「い、いいの、か?」
「勿論だ。だが、余計なことはするな。邪魔ものを消す行為は、逆効果だ」
立ち尽くしている王太子に、男はどこまでも真面目に告げた。
「そして、自分の長男が学園入り知る頃に、王妃が切り出す案を、素直に聞いて実行させてやれ。それだけで、この国は光属性の魔力を保持できるし、息子が彼の令嬢を手に入れることも、なくなる」
その微笑みにつられ、王太子は頷いた。
それからは、初めの人生を順調に歩んだ。
そして、王太子となった息子が、学園入りする頃に差し掛かった。
その頃、初めの人生と同じく、光属性の魔力持ち出現の報が届く。
入学した王太子が、令嬢に近づいたという報告が届くようになった頃、王妃が提案した。
「彼女が無事卒業して、王宮勤めができるよう、同年の淑女に世話を頼みましょう」
そうして王妃の生家の、公爵家での男爵家との会合が成ったのだった。
これで、国の守護はさらに強固になるが、王太子の初恋を、実らせてやれないことが、心残りだ。
哀れな息子を思い、一人嘆く国王だったが……彼は、知らない。
王太子に後継ぎが出来た後、王妃が離縁を申し出る未来は、回避できないことを。
それどころか、王妃の伴侶である隣国の公爵家の次男が、光属性の魔力を調査し、それを魔道具化したことで、獣神を封印するすべを見つけ、遠くない未来に国王ごと獣神を銅像に封印してしまう事を。
その為に、初めの人生の途中で記憶が飛んでしまっていたとは知らない国王は、ただただ、息子の心境に寄り添い、同情するのだった。
兎の養い子が優しくなる時は、とんでもない企みがあります。




