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【短編小説】さようなら、あした

掲載日:2025/12/30

 無駄な努力だった。

 時間は垂直にやってこないと力説したところで時計の針は垂直になる。新しい日だとか新しい年と言う概念が世界を覆う。

 どれもこれも白い奴らが決めたことだ。

 窓の外は温暖な月明かりが溢れている。

 窓を開けて絶叫する。

「天皇陛下万歳!」

 浮かれた奴らが俺をチラ見して笑う。


 つけっぱなしで画期的な焼きつきを起こしたテレビ画面の公共ニュースによると、今度の氷河期までは折り返しを過ぎたらしい。

 これからは少しずつ寒くなる。

 構わないさ。

 ニュースは次の画面に移っている。砂深い国から緑が増えているらしい。細かいことは音を消してるから分からない。

 だから画面の中には何も無い。

 この部屋にだって何も無い。

 


 仕方なく服を着る。最低限の社会性だ。

 表に出る。最大限のフィールドワークだ。

 みんな神社に行くらしい。普段は押し殺している願いを神に奉納する為だそうだ。

 身勝手な願いたちの葬列。

 コミュニストと白痴が並ぶ御めでたい景色が鳥居の中に吸い込まれていく。

 親切な解説をつけるとすればアカとシロの横断幕って言う話だ。

 別に笑わなくていい。


 俺は無職たちの屋台を避けてコンビニでコーヒーと煙草を買う。

 これは昨日と同じだ。そいつは水平に去って行った。

 そして明日も同じだ。そいつは水平にやってくる。

 薄い模像カフェインと過剰な燃焼促進剤でネットに繋がる。

 俺の個体番号は更新されない。

 繰り返される「しばらくお待ち下さい」と単調な電子音。

 カラーバーの代わりに流される映像は、自他の境界が曖昧な猫の背中に毛と自我を植え続けていた。


 自己アップデートを保留状態にして立ち上がる。

 恥ずかしがり屋の現実主義者aka単なる酔っ払いが踏む千鳥ステップで通り過ぎる。

 その後に蟻が群がる。

 俺はそれを踏み潰す。

 涙は流れない。かつてはそれが流れたのかも思い出せない。

 忘れてしまった。

 忘れ物が何だったかも思い出せない。


 俺はぼんやりと立ち尽くす。

 去年と言う籠から出忘れた奴らが俺を指差して笑う。

 過去と言う檻から出られない奴も俺を指差して笑う。

 明確な奴らが羨ましくなる時がある。

 俺は陽出づる國の中心にある緑色をした円環の理に乗って動く点Pでしかない。

 俺を追う点Qは存在せず、すべての目的は曖昧だった。


 足を動かす。そいつは意図的な行動だ。

 だがその指示は誰かが出したものかも知れない。

「ちょっとお話を伺ってもいいですか?」

 夜色like a Los ingobernables nocheの制服を着た警察官たちの指先確認。

「俺は無実だ。だがハスラーだ」

 面会は謝絶している。こんな人間に誰がした?

 警察官たちの白い息と俺の吐く煙が混ざる。うんざりする。


 助からない。

 終夜運転の山手線から黒塗りの高級車へ乗り換える。黒塗りの高級車で風呂を浴びに行く。

 廓を潜り足を洗う。

 Fuck袋。売れ残った女の詰め合わせ。

 新春。迎春。売られたそいつらを買う。

 いつだってそうだった。

 愛はコンビニじゃ買えない。春は飲食店で買うものだ。

 女との会話は曖昧で虚無だ。


 だがそいつはパーティーだ。

「こんなパーティー抜け出して二人でどこかに行こう」

 そのステップをすべて取り払った飲食店だ。

 そのステップをすべてまとめた飲食店だ。

 だからパーティーは続けるか抜け出すかの二択。

 どちらにせよ中出すか外出すかの二択。

 女の腹で冷えていく精子たちは恨めしそうに俺を見る。

 俺の精子たちに未来はない。

 ヒロシ長田の定理を使うと猫にも未来は無い。

 つまり俺の精子は猫で未来は無い。

 今を可愛がれ。今際の際を可愛がれ。

 中に出されたのなら無数の白いオタマジャク痴がアカい太陽に向かう。

 だがその前に大半が死ぬ。

 俺が死ぬみたいに。


 アップデートが終わる。

 自己認識は変わらない。

 ここに来るまでにすれ違った奴らに初日の出は無い。そいつは初じゃない。昨日と同じだし、明日も同じだ。

 俺も同じだ。

 だが俺は正装をして外に出た。

 そうしてアカとシロの横断幕に加わる。

 手を洗う。小銭を投げる。手を合わせる。

 観音様。

 御来光。

 御開帳。

 俺は白い谷間から顔を出す。

 アカい舌が出迎える。

 俺は水平に笑い垂直な時間を過ごす。

 それはそのまま現実に持ち越される。

 東京の大陰唇 I mean 山手線はぐるぐると回る。

 俺はその陰唇のフチを動く点P。

 そして覗き込む深淵からこちらを見返すLast Emperorの眼差しが苦しい。


「さようなら!」

 女に言う。女は笑う。

「さようなら」

「さようなら!」

 女に言う。女は、笑う。


 俺たちに老いた後は無い。

 つまり猫であり精子であるところのシロい奴らとして水平に飛ぶ。

 そしてその柔らかい乳房の上で冷えて死ぬ。

「さようなら!」

「さようなら」

「さようなら!」

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