断罪されたらレベルが上がったので、王国を蹂躙することにしました
新作短編です。
王城の大広間は、凍りつくような静寂に包まれている。シャンデリアの煌めきも、着飾った貴族たちの宝石も、今の私に向けられた視線の冷たさを誤魔化すことはできない。
「ユーフェミア・クラウストラ! 貴様との婚約は、今をもって破棄とする!」
王城の大広間で声を張り上げたのは、この国の第一王子である、フリードリヒ・ヴァイラル殿下。
そのすぐ隣には、殿下が『真実の愛』と持てはやす男爵令嬢、セシリア・アリストラが寄り添っている。
彼女の潤んだ瞳。その角度は完璧だ。庇護欲をそそる上目遣い。怯えたように殿下の袖を掴む指先。すべてが計算され尽くした演技であることは、私だけが理解できた。
「殿下、それは国王陛下の許可を得ての発言でしょうか?」
「父上など関係ない! これを見ろ! 貴様がセシリアに行った数々の悪行は、もはや看過できない!」
殿下は勝ち誇ったように羊皮紙を広げ、私の『罪状』を読み上げ始めた。
教科書を引き裂いた。
階段から突き落とした。
食事に毒を盛った。
――あまりに稚拙で短絡的な言い分。公爵家の教育を受け、幼い頃より王妃教育を施されてきた私が、なぜ自らの手を汚してまで、そのような効率の悪い嫌がらせをする必要があるのか。
しかし周囲の貴族たちは、ヒソヒソと嘲笑を交わしている。
「クラウストラ家の女狐もこれまでか」
「殿下の寵愛を失えば、ただの小娘よ」
「悪役令嬢の結末にふさわしいものだ」
なんと愚かなのか。私は怒りよりも先に呆れがこみ上げてきた――その時、頭の中で何かが弾けた音がすると、脳裏に文字が羅列された。
【レベルが上がりました。LV.8 → LV.99】
突如として響いた無機質な声と共に、目に映る視界までも異様に変わる。かつて愛した殿下の頭上に、謎の文字が映し出されたのだ。
【フリードリヒ・ヴァイラル】
・知性:E
・将来性:0
・評価:不良債権
【セシリア・アリストラ】
・知性:D
・品性:E
・評価:短期的お飾り要員
フリードリヒがただの『感情の塊』に見える。
セシリアが『安っぽい計算式』に見える。
さらに、この場にいるすべての貴族たちの頭上に、『負債額』や『裏帳簿』が見えた。
――いや、見えるようになってしまった。
それだけではない。王国の経済状況、無駄な経営状態、滞っている物流、私の公爵家が握る債権、ありとあらゆる膨大なデータが脳内で処理されていく。
税収の六割、通貨流通の七割、王国の社会基盤のほとんどは、すでにクラウストラ公爵家の網の中にあった。
王家は威厳という看板だけを掲げ、実務と血流はすべて私に丸投げしていたのだ。
そして、一つの『解』が導き出された。
『この王国は投資価値皆無の不良債権である。直ちに損切りせよ』と。
「……ふふ」
「な、なんだ、その不気味な笑いは! 貴様は国外追放だと言っているのだ! 二度とこの国の土を踏めると思うな!」
「謹んでお受けいたします、フリードリヒ様」
「なんだと……?」
「婚約破棄の合意と国外追放命令、確かに承りました。これにて私と王家、並びにクラウストラ公爵家と王国の『契約』はすべて白紙に戻ったと判断させていただきます」
私は優雅に背筋を伸ばした。
もう、この男に敬意を払う必要はなく、顧客ですらないのだから。
「なんだ、その態度は! 泣いて詫びるならまだしも、その余裕すら気に食わない!」
「そうでしょうね。それで、なぜ私が詫びる必要があるのですか?」
私は冷ややかな視線を周囲の貴族たち、そして近衛騎士たちへ巡らせた。
「皆さま、殿下の宣言をお聞きになりましたね? 私は今をもって王国の民ではなくなりました。国外追放ということは『外国の賓客』、ないしは『無関係な民間人』となりますわ」
私の周囲に控えていた公爵家の私兵に告げる。
「総員、すべての撤収作業を始めてくださいませ」
「撤収作業だと? 何を言っている! 衛兵、こいつらを捕らえろ!」
「お待ちなさい、フリードリヒ様」
殿下の言葉を遮り、床を指さした。
「まずは、この大広間のカーペット、シャンデリア、壁のタペストリー、玉座の椅子に至るまで。これらすべては我がクラウストラ大商会が王家に『貸与』しているものです。リース料が三年ほど未払いですが、次期王妃になるよしみで目をつぶっていました。ですが、婚約破棄となれば話は別。すべて回収させていただきますわ」
「パチン」と私が指を鳴らすと、私兵たちは手際よく、貴族たちが踏みしめているカーペットを、彼らの足元から強引に引き剥がし、巻き上げていく。
「な、何を!?」
「きゃあっ!」
「足元が!?」
寒々しい石の床が露わになっていく中、貴族たちの悲鳴と驚愕の声が上がる。豪華絢爛を誇った大広間が、瞬く間に殺風景な空間へと変わる。
私は武装した近衛騎士たちに視線を向け、微笑みながら告げる。
「近衛騎士団の皆さま、貴方たちが着ているミスリルの鎧ですが、製造元は我が領土の工房です。代金の支払いが滞っているため『所有権留保』に基づき、直ちに返却を求めます。今すぐ、ここで脱いでいただけますでしょうか?」
「何を馬鹿なことを言っている! 我々は王の盾だぞ! 武装解除などできるか!」
騎士団長クローゼ・フィードルが顔を真っ赤にして叫んだ。
「契約書第14条。『支払いが履行されない場合、強制執行を妨げてはならない』。法務官いますね? 王国法に基づき、彼らを横領の現行犯で告発します」
私は壁際に隠れるようにしていた小太りの男を指さした。
「ほ、法務官……?」
「王国法に基づき、彼らを『横領の現行犯』で告発します。私の言っていることは法的に正しい。違いますか?」
王家の法務官は真っ青になって震えている。
私の主張が正論であり、何より公爵家からの献金がなければ、彼自身の給与も支払われないことを彼は理解している。
「……ユ、ユーフェミア様のおっしゃる通りです。所有権はクラウストラ大商会にあります……」
「この裏切り者め!」
騎士団長が叫ぶが、法の番人が認めた以上、抵抗は反逆となる。
私はフリードリヒの服の裾を掴んで動かない、セシリアに目を向ける。
「セシリアさん」
「ひっ……!」
「貴女が着ているそのドレスも、我が商会の新作ですわ。ツケで購入されたようですが、貴女の父君の男爵領からの税収では百年かかっても払えない額ですわ。詐欺罪で立件する前に、お返しいただけますか?」
「い、いやあぁ! やめてぇ! これがないと、私はただの……!」
「ただの貧乏男爵の小娘ですわね。さあ、現実にお戻りなさい」
屈辱に晒された近衛騎士たちの半裸の姿。
床にうずくまって泣き崩れる、王太子の愛人。
かつての栄華を誇った大広間は、今や冷たい石床と空虚な空間となった。
「ユーフェミア! 貴様、王国を相手取って、こんな真似が許されると思うなよ……!」
屈辱と怒り、そして絶望によって顔を血の色に染めたフリードリヒは、ついに限界を迎え、腰の剣を引き抜いた。
「おやめなさい。その剣も我が家の寄贈品ですわ。武力で解決しようとするのは知性の敗北ですわよ。元殿下、明日からの生活を精一杯『工夫』なさってくださいませ。貴方には、もう何も残されていないのですから」
こうして、裸同然になった大広間を優雅に後にした。
私は何も悪いことはしていない。
――ただ、権利を行使しただけだ。
◇
王城を出た私は、用意させていた馬車に乗り込み、隣国との国境へ向かった。国境を越える馬車の中で、私は次々と指示を飛ばす。
「王国内のクラウストラ系銀行の全支店を閉鎖。預金をすべて引き揚げなさい」
「王都へ続く四つの主要街道、我が家が維持管理している関所を完全封鎖。『設備の老朽化』を名目に、無期限通行止めにしなさい」
「穀物ギルドへ通達。王家向けの備蓄小麦の放出を停止。全て隣国への輸出に切り替えて」
今や前人未到の限界までレベルアップした私は、国家規模の金と物の流れを正確に、そして瞬く間に見通せる。
変数は無数にあるが、結論は一つ。
王国の崩壊まで、あと三十日。いや、今の私の手腕であれば五日で悲鳴を上げさせ、十日で機能不全に陥らせ、一月で蹂躙できる。
私はワイングラスを揺らしながら、窓の外の流れる景色を眺めた。愛などという不確かな感情よりも、数字はなんと正直で美しいのだろう。
◇
崩壊一日目:物流の心停止。
最初に異変に気づいたのは市場の商人たちだった。
王都の朝は、本来ならば近隣の農村から野菜や肉を運ぶ荷馬車の車輪の音で始まる。しかし、朝は不気味なほど静かだった。東の街道も、西の交易路も、荷馬車が一つとして入ってこない。
「おい、一体どうなってるんだ?」
「関所が封鎖されたらしいぞ……。なんでも『緊急点検』だとよ」
市場には前日の売れ残りの萎びた野菜が並ぶのみ。
まだ民は楽観的だ。「まあ、明日には届くだろう」と。だが、私の神算鬼謀の相には見える。王都という巨大な胃袋に繋がる食道が、完全に遮断された未来が。
崩壊二日目:情報の錯綜と買い占め。
異変は敏感な富裕層から波及した。
クラウストラ商会の系列店が一斉に閉店し、窓に板を打ち付け始めた。貴族たちは召使いを走らせたが、戻ってくる報告はどれも同じものだ。
「商品は一つもありません。倉庫も空っぽです……」
不安は伝染する。夕方には、「もう小麦が入ってこないらしいぞ」という噂が民の間を駆け巡った。
パン屋の前には長蛇の列ができ、我先にと殴り合いの喧嘩まで始まる。価格は二割増し程度。だが、人々の目には明確な恐怖が宿り始めていた。
崩壊三日目:金融崩壊。
決定的な打撃を与えたのは朝一番の『貼り紙』だった。
王国内シェア七割を誇るクラウストラ銀行の入り口に、『当面の間、業務を停止いたします』という一枚の紙が貼られた。それは王国の経済活動の死刑宣告に等しいもの。預金を引き出そうと殺到した市民が開かない扉を叩き、叫ぶ。
手形の決済ができない商人がその場で崩れ落ちる。
私が運営していた銀行間決済システムが停止したため、他行の手形も、ただの紙切れと化した。それは信用取引の全滅。唯一、信用できるのは現物の金貨のみとなったが、その金貨すら私が大量に引き揚げた後だ。
それはつまり、市場から貨幣が蒸発したということ。
崩壊四日目:ハイパーインフレの開幕。
貨幣不足と物資不足が同時に襲いかかる今、通貨への信用不安が爆発し、逆説的に物の価値が暴騰する。昨日まで銅貨五枚だったパンが、今朝は銀貨一枚。昼には銀貨三枚。夕方には金貨でなければ売らないと言い出す店主が現れる。
王家の発行する紙幣は、もはや鼻紙にもなりはしない。
「おい! なんでパンが買えないんだ!」
「クラウストラ様の商会が撤退してから小麦が入ってこないんだよ!」
「国王様は何をしているんだ!?」
市民の怒号が王城の壁を越えて聞こえてくるようになった。
――しかし王城の中も混乱していた。食材の納入業者が来ないため、貴族たちの食卓からも肉料理が消えた。
崩壊五日目:闇に包まれる王都。
食料の次は、エネルギー。
王都の夜を照らしていた街灯が一つ、また一つと消えていった。燃料である魔石の供給もまた、我が公爵領が独占していたからだ。
暖炉にくべる薪も底をついた。北の森からの輸送ルートも封鎖している。
冷え込む夜。
市民は暗闇と寒さに震えながら、備蓄の固いパンをかじるしかない。王城ではフリードリヒが、「なぜ風呂が沸かせないのだ!」と叫んでいたそうだが、侍女たちは既に逃げ出した後だった。
崩壊六日目:治安の崩壊。
飢えは理性を殺す。スラム街の住人が、富裕層の屋敷を襲撃し始めた。本来なら衛兵が鎮圧に当たるところだが、衛兵たちもまた、給与未払いと食糧不足で職場を放棄していた。略奪が横行し、商店は放火され、街のあちこちから黒煙が上がる。
私は国境の要塞で、その黒煙をワインの肴にしていた。
「美しいですね。秩序が崩れ、原始的な欲望だけが残る様は」
私の言葉に側近が青ざめた顔で頷いた。
崩壊七日目:武力の無力化。
王城の執務室で、フリードリヒは頭を抱えていた。
無精髭を生やし、充血した目で虚空を睨んでいる。
「殿下! 近衛騎士団が集団辞職しました! 『守るべき国はもはやここにはない』と……!」
「魔導師団もです! 魔力回復薬の原料である薬草の九割はクラウストラ領産でしたから、在庫が底をつきました! これでは魔法も迂闊に使えません!」
次々と飛び込んでくる凶報。
剣も魔法も、それを支える経済基盤があって初めて成立する。
――腹が減っては戦はできぬ。
古人の言葉は真理だった。
「くそっ……たかが一人の女がいなくなっただけで、なぜ国が傾くのだ!?」
フリードリヒはまだ理解していなかった。
私が『いなくなった』から傾いたのではない。
私が、彼らを『生かしていた』のだということを。
物流を止め、金を抜き、生活基盤を止めた。
蛇口を閉めれば水は止まる。
ただ、それだけの理屈だ。
崩壊八日目:貴族の没落。
セシリア男爵令嬢の屋敷が暴徒化した市民に包囲された。彼女は窓から「私は王太子の婚約者よ!」と叫んだが、返ってきたのは石礫だった。
着飾るドレスも、媚びる相手も、守ってくれる王太子もいない彼女は、ただの無力な少女だった。
裏口から粗末な布を被って逃げ出す彼女の姿が、私の水晶板に映し出される。
その顔は涙と泥で汚れ、かつての愛らしさの欠片もなかった。
他の貴族たちも同様だ。
宝石を叩き売って闇市で小麦を買い求めているが、足元を見られ、法外な値をふっかけられている。プライドでは腹は膨れないことを、彼らは身を持って学んでいた。
崩壊九日目:都市機能の完全停止。
街路にはゴミが溢れ、異臭を放ち始めた。
清掃ギルドが解散したからだ。上下水道の管理魔導具も停止し、井戸水は汚れ始めた。
疫病の兆しが見え始める。
王都は巨大なゴミ捨て場と化した。王城の門前には飢えた数千人の民が押し寄せ、「パンをよこせ」、「王子を出せ」と、怒声を上げている。
もはや王家の権威は地に落ちた。
そして運命の崩壊十日目:国債の債務不履行。
私が隣国から仕掛けていた『国債の空売り』が結実した。
王国の信用格付は最低ランクの『D』すら下回り、『測定不能』と認定された。これにより、周辺諸国は一斉に王国との国交断絶を宣言。王国は世界地図の上で孤立無援の孤島となった。
「さて、熟れすぎて腐り落ちる寸前ですわね」
「ユーフェミア様、ご出発ですか?」
「ええ、そろそろ『買い叩き』の時間ですわ。最高値で空売りして底値で買い戻す。商売の基本でしょう?」
私は席を立ち、用意させていた馬車に乗り込んだ。
買い叩くべき『商品』が、こちらから頭を下げに来るのを待つために。
私はもう、この王国を『国』ではなく、完全に『在庫』としてしか見ていなかった。
◇
王城、玉座の間。
かつての煌びやかさは見る影もない。薄暗く、燃料も尽きたため、冷え切っている。
国王と王妃、そしてフリードリヒは破れた服を身に纏い、やつれ果てていた。
そこへ、私が兵士を護衛につけ、最高級のドレスを纏って訪ねた。
「……ユーフェミア」
国王が力なく私を見る。
もはや怒る気力すらないようだ。
「お久しぶりです、陛下。いえ、今は『債務者代表』とお呼びすべきでしょうか?」
私は分厚い羊皮紙の束をテーブルに置いた。
「これは?」
「『王国救済、及び資産譲渡契約書』ですわ。現在、王国の借金は天文学的な数字になっています。返済は不可能。本来なら国ごと競売にかけるところですが、慈悲深い私が債務を肩代わりして差し上げようという提案ですわ」
フリードリヒが顔を上げる。
「た、助けてくれるのか……? やはり、まだ私への愛があったのだな?」
「勘違いしないでくださいませ。これはただのビジネスですわ」
私は冷たく切り捨てた。
「ビジネスだと……」
「ええ、もちろんですわ。ただし条件があります」
私は指を一本ずつ立て、条件を提示する。
1. 王族の全権限の剥奪。今後、政治的決定権はすべて私が派遣する『管財人』が持つ。
2. 王城の明け渡し。ここは今後、クラウストラ大商会の『本店』兼『物流倉庫』として使用する。
3. 旧王族の処遇。あなた方は王籍を剥奪され、一般市民となる。ただし莫大な借金の返済義務は残るため、私が経営する鉱山で労働に従事してもらう。
「こ、鉱山だと……!? 私に肉体労働をしろと言うのか!?」
フリードリヒが叫んだ。
「ご安心ください。労働基準法は守りますわ。私が新しく制定する効率最優先の法律ですが」
国王が震える手で契約書を掴んだ。
「……拒否すれば?」
「簡単なことですわ。私は隣国へ戻り、物流封鎖を続けます。あと一週間もすれば餓死者が出るでしょう。民衆の怒りは頂点に達しています。ギロチンが待っているか、私の鉱山で働くか。お好きな方をお選びくださいませ」
究極の二択。いや、最初から選択肢などない。
彼らは私の掌の上で踊らされていただけなのだ。知性という名の檻の中で。
国王は震える手でサインをした。
◇
三ヶ月後。
かつての『王国』は地図から消滅した。
現在は『クラウストラ通商連合・特別経済区』と呼ばれている。
徹底的な合理化と、私の完璧な計画経済により、この地はかつてない繁栄を謳歌していた。
物流は整備され、餓死者はゼロ。民衆は以前よりも豊かな生活を送っている。
彼らにとって支配者が『王』だろうが、『公爵令嬢』だろうが関係ない。パンと仕事を与えてくれる者が正義なのだ。
私は元王城、現在はクラウストラ大商会の本店となった城館の最上階、かつて玉座があった場所にあるテーブルで決裁書類に公爵家の印章を押していた。
「ユーフェミア様、第三採掘班より報告です。新人労働者のフリードリヒが、ノルマ未達で泣き言を言っていると」
「そのような者は減給処分になさい。それと夕食のパンを半分にカット。働かざる者食うべからず、ですわ」
「承知いたしました」
かつて王太子と呼ばれたその名は、帳簿の片隅に打ち込まれた『労働者番号』に置き換わっている。
「王太子という身分を盾に威張り散らしていた男に、今はツルハシを握らせているだけのことですし」
私は窓の外を見下ろす。
美しく整備された街並み。
整然と動く物流馬車。
すべてが私の計算通りに動く巨大な箱庭のような国。
「限界までレベルが上がると、国一つでも、こんなに簡単に動かせるのね」
剣や魔法といった武力で相手を倒すよりも、ずっと残酷で、ずっと建設的な復讐が行えるのは、絶対的な知力。
私は満足げに微笑み、次の事業計画書である、隣国の経済併合プランを広げた。
「どうせなら、大陸すべてを蹂躙することにしましょうか」
国外追放された公爵令嬢の物語は、まだ終わらない。
お読みいただきありがとうございました!
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【短編】断罪された日から元婚約者の背後に『見えないもの』が見えるようになりました
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それではまた( ´∀`)ノ




