3話
口元を布で覆った状態でタルは歩いている
歩くたびにキノコが胞子を出す
足元あたりを少しの間だけ黄色く染める
大きなキノコまであと少しの所まで来た時に
タルは信じられない光景を見た
命が尽きているだろう何十人が
体を胞子で黄色く染めている
その何十人が同じ方向を見ている
魔術を行使していたり
庇うように何かを隠すように塊になっている
タルは歩いていくと4人の男女が
塊になった人の中心に倒れていた
おそらく命が尽きる‥尽きてもこの男女を守ろうとしている
4人の男女をタルは肩や背中に担いでいくと
近くにいて必死の形相でコチラを見ていた人が
「た‥たの‥」
タルは頷き4人の男女を担いで元来た道を歩き出す
ゆっくりと刺激しないように餌に夢中になっている獣の横を通るように
扉まで来た時にタルは振り返って
頭を少し下げてからキノコ部屋を出て扉をゆっくり閉めて
少し離れたとこまで来ると
「息を止めおけ」
サクはそう言うとタルと男女に水が浴びせる
「ようやった
どのくらいの猶予がある」
「おそらくは整える時間はいけるかと」
「‥‥結構な人数だったんじゃな」
「‥‥立派でした」
喋りながらサクは水を手から出しながら
男女4人の口を開けて洗う
4人はむせ込みながら
うっすらと目を開けてサクとタルを見る
「何も喋るな!」
サクが4人に対して声を尖らせて語りかける
「お前達はダンジョンから目をつけられておる
ここで出来るだけの処置をしたら
お前達を担いでダンジョンを急ぎ脱出する」
鍋に入っていた液体を小分けにして1人ずつゆっくりと飲ましていく
「コチラはいけます」
「いくぞ」
タルはバックの上に女を2人乗せてバックを背負うとバック上の空いた所にサクが乗る
男と女は両肩に1人ずつ担いで歩き出して
安定感を確かめるとだんだんと速度を早めていく
「上出来じゃ」
「連絡をお願いします
コチラは歩く事に集中しますので」
サクは連絡用の石を掴んで
「とりあえずは出発した
男1人と女3人
着ているものから当たりじゃろう」
〔ありがとう〕
〔コチラはダンジョンに入った
どうか無事に2階に辿り着いてくれ〕
何度かのやり取りを終えて
無言でダンジョンを突き進む
普通に攻略で13階まで行く場合は
休憩を含めて丸一日かけて潜るのが標準的な速度と言われている
緊急事態である今はタルが持っている荷物で出せる限界の速度で歩きサクが分岐で確認の為にどちらに進むべきかを指示する
途中何回か階段を登って8階を通過した時に
少しだけ安堵したような雰囲気を出していると
「は‥‥はなせ!」
「触るな!お前は誰だ!」
肩に担いだ男女が叫び出した
「喋るな!捨てていかれたいか!」
サクは叫んでいる男女を黙らそうとするが
「なんだ!キサマは!」
「触るな!触るなと言っている!」
サクは石に向かって叫ぶ
「誰かコイツらを黙らせれる奴はおらんか!」
しばらくした後にクルスが
〔そちらにいるのは第三王子のコーハラル・ドウラ・ジーティス様ですか?〕
「そうだ!
なんだコレは!」
担がれた男は名前を呼ばれて声をさらに荒げる
〔トラップ部屋で死にかけていたのを決まりを破ってあなた達を助けています
まだ身体は動かないでしょう
静かにしていただけないとそこらに捨てていかれます〕
クルスが諭すように言うとブッと石から音が鳴る
「そんなのが許されるとでも!」
〔今、竜族の王から許可を取りました〕
「そんなのを」
信じるか!と言おうとして第三王子は次の声を静かに聞く
〔信じられんと言うなら良い〕
「‥‥父上‥‥」
〔暴れているのはお前と誰だ?
これ以上騒ぐならキサマらはワシが殺してやる〕
「‥‥」
〔サク‥すまんな〕
竜族の王はサクに対して謝罪する
「こんなヤツらとわかっていたなら
助けんかったわ
ジーク、クルス、生きていたら覚えておけ!」
「完全に捕捉されました」
「わかっておる!
ワシらも同列に扱われたなコレで」
「そうでない事を祈ります」
タルは歩く速度を少し上げる
「モクバよ、聞いた通りじゃ
入り口まで戻って待っといてくれ
合流すると同列とみなされ巻き込まれるわ」
〔いえ、変わらず2階にて待機します
必ず来てください〕
しばらくの間
歩く音とタルの少し荒くなった息の音が響く
〔無事を祈る〕
それだけが石から響いた
「ここでくるか」
サクが行き止まりの壁を見ながら呟く
ここには3階から2階に通じる階段があるはずだったが壁で覆われ通れなくなっていた
「仕方ありません」
タルは肩で息をしながら担いでいた4人とバックを降ろす
「今からされる事にキサマらは抵抗するな」
サクが4人に向かってそう言うとタルは4人の身ぐるみを剥いでいく
「やめろ」
「触るな!キサマ!」
「なんでこんな事を」
3人がそれぞれ文句を言い、1人は黙っている
タルが拳を振り上げて第3王子の顔に振り下ろす
「ガッ‥グッ」
タルは無言で何度も殴り抵抗が無くなると
4人が着ていた物を剥いで下着姿にしていく
「ソレはやめて」
黙っていた女性が服の下にあった短剣を掴むタルに言うがタルが無言で首を横に振ると短剣を奪い取る
タルとサクは4人から奪い取った物と自分達の荷物や服を壁の前に置いて下着姿で跪いて祈る
タルとサクが無言で祈り続けていると置いていた荷物が地面にゆっくりと飲み込まれていった
「何が‥‥」
第3王子が呟くと、壁がゆっくりと崩れていき階段が現れる
タルが4人を担ぎ上げて階段の前に行くとサクと並んで一礼してから階段を上がっていく
上がっていった先の2階にたどり着くと
「無事でなによりです」
犬耳を生やした大柄の男性がサクに手を出して言う
「肝を冷やしたぞ、モクバよ」
モクバの手を握りながらニヤッとしながらサクが答えた
「若!」
「姫様!」
モクバの後ろの男性2人と女性2人からそんな声が上がり
タルに駆け寄って担がれている4人を受け取っていく
「コイツらを殺せ!」
「何か武器をよこしなさい!」
「価値がわからない無能をなんとかして!」
「私の短剣を奪われたのよ!」
体は動いていないが
4人は支えられながらタルとサクを睨みながら声を出す
「‥‥なるほど
ここでは何ですし
一旦出ましょうか」
モクバの言葉に4人を無視してモクバとタル、サクは歩き出す
「逃げるな!コソ泥が!」
口々に文句を言うも体が動かないために4人は担がれてダンジョンの出口に向けて歩き出した
「よくやってくださいました」
サク達がダンジョンから出るとエルフ族の男性が声をかける
「クルスよ、高くついたぞコレは」
サクは下着姿でクルスを睨みながら言う
「その分はもうすぐ到着される方が色々と込みで払ってくれるそうです」
クルスは笑顔でそう言うと
担がれて騒いでいる4人を見る
「あれだけ元気であればすぐに良くなります」
「‥犠牲は多かった様じゃがな」
サクはそこまで言ってダンジョンの入り口の方を見て
「‥‥タルはどこじゃ?」
モクバはサクの言葉に周りを見渡して焦った様にダンジョンの入り口に入って、すぐに出てきて叫んだ
「いません!」
サクとクルスは顔を見合わせて
「まさか1、2階で?今までにない事です」
「どういう事じゃ」