2話
キノコ部屋の入り口で寝て休憩したタルとサクはキノコ部屋の真ん中、1番大きなキノコを目指す準備をしている
タルはナイフと水が入った瓶
連絡用の小石を腰に下げる
サクはナイフと瓶いくつかを布に包んで持つ
「サッと突っ込んで行って帰りますよ」
「ソレで良い、タルは歩く事に集中してくれ」
「何かある時はどこか合図ください」
「新種を見つけたらな」
2人は確認しあって液体をつけた布で口を覆い
頭の後ろでくくり布を固定する
タルはサクを肩車して歩き出す
タルが歩き出すとキノコを踏んでしまうが
足を上げるとキノコは元の形に戻っていく
タルは真っ直ぐに大きなキノコを目指して歩いていき
サクはキョロキョロと周りを見渡して新種のキノコが無いかを見ている
タルが大きなキノコの根元に辿り着いて
サクを見ると頷いた為
来た道を戻り始める
帰り道の半分くらいを歩いた時に連絡用の石から声が響く
〔タル、サクさん!トラップ部屋にいるなら退避を!〕
タルは歩く速度を早めながら
腰に吊り下げてる連絡用の石を触って
「隊長?何がありました?」
〔結構な人数がダンジョン内で合流した〕
「出来るだけ早く‥‥」
言いかけてサクに頭を叩かれ
大きなキノコの方を歩きながら振り返る
大きなキノコの上に黒い空間が現れ始めたので
タルは歩く速度をさらに早める
2人は冷や汗をかき始めていた
起き始めたのだ
この部屋全体が喜びと共に蠢き始めたのが肌でわかる
もう少しで入り口といった所で2人の背後から悲鳴が聞こえ始める
2人は振り返らず走り出す
見なくてもわかる
黒い空間からこの部屋に招かれた者たちが入場したのだ
タルが踏んだキノコから胞子が上がり始めるが
入り口に辿り着いて2人はキノコ部屋から飛び出し、急ぎ振り返って扉を閉める
2人は荒い息をつきながらへたり込む
冷や汗が全身から出て
それでも捕食者の口から出て来たような感覚を味わいながら安心したように2人は視線を合わせて笑い合う
「死ぬかと思いました」
「生きた心地がせんかったわ」
タルは息を整えながらバックの方に歩いていき
水の入った瓶を取り出してサクに渡し
タルは腰にある瓶から水を口に含んで吐く
サクも口に含んでは吐きを繰り返していく
「少し落ち着いたわい」
サクは水を飲んでフッーーと息を吐く
「中のヤツらは何をしたんでしょう」
「考えるな、アレは助からん」
サクは首を横に振りながらタルに答える
〔タル、サクさん大丈夫か〕
タルは腰にある石を外してサクとの間に置く
「モクバ隊長、コチラは大丈夫です
かなり危なかったですが」
〔無事でよかった、そちらに行ったという事はかなりのペナルティを食らったな〕
「どうにもならんなアレは」
サクはタルがバックからキセルセットを取り出したのを受け取りながら話す
〔コチラの忠告を散々無視した挙句の
ペナルティですからね〕
「命に関わるとも言ったのか?」
〔言いましたよ、最後はコチラが情けないからダンジョンがつけ上がるとかなんとか〕
「よー聞く言葉じゃの」
モクバとサクがやりとりをしているうちに
タルは火をおこして水が入った鍋をかける
サクはタルがおこした火をもらいキセルから煙を立ちのぼらせる
タルが少しずつ材料を足して鍋の中身を整えていく横でモクバとサクが色々と話していく
「一応、わしらも同じ部屋にいたから目をつけられとるかもしれんので早めに退避するか」
〔その方が〕
〔今、トラップ部屋の近くにいるのはサクさんとタルか?〕
モクバの言葉を遮って声が連絡用の石から響いた
〔どうしました?ギルド長〕
「緊急用の回線で割り込みとはの
何用じゃ?クルス」
〔トラップ部屋の〕
「お断りじゃな」
ギルド長のクルスが言う前に単語から察したのかサクが断りを入れる
〔‥‥助けれそうにないですか?〕
〔ギルド長!
ルールを破っている者は見捨てるのが決まりです
サクさんとタルが危険に晒される謂れはありませんよ〕
食い下がるクルスにモクバが抗議する
「それがわからんヤツじゃあるまいて
クルスよ、誰が言うてきた?」
しばらくの沈黙の後
クルスが溜息をついてから話し出す
〔ダンジョン内でバラバラだったメンバーが集まって
トラップ部屋に落ちたのは第三王子の一行です
コチラのギルドに残っていた者達に緊急の連絡が入ったので間違いないかと
今も繋がっていますが
キノコ部屋の特徴と似た事を言っていますし
体が動かなくなってきたとも〕
悲惨な状況を聞いているとクルスは語ってくるが
サクは目を瞑りながらキセルを咥えて
タルは手を止めて石を見ている
〔どうにか助けてほしいと懇願されている状況です〕
「クルスよ‥その意味がわかっておるのか」
〔‥‥わかっています〕
〔何がそうさせるんですか〕
サクの怒気が混じった声
食い下がるクルスにモクバは聞くと
〔‥‥王家というのもありますが
助けてくれと懇願されて無視はできません‥が
最終的な判断は2人に任せたいと〕
「ふざけた事を」
サクはキセルを咥えて煙を吸い込んでフッーーと吐き出す
タルは暖かくなった鍋の中身をコップに分けてサクに渡す
「やるとなったらタルが入る事になるからな
お主の意見が聞きたい」
そう言うとサクがズッと音を鳴らしながら
コップに入ったスープをすする
「出てこれたとして、サクさんも巻き込む事になりますので‥‥隊長に判断は任せます」
タルは自分の分を入れたコップを眺めながら
石の向こうにいるモクバに問いかける
〔‥確かに懇願されて応えないのはと思いますが、いけそうなのか?タル〕
「今すぐには無理ですが
胞子等が収まるのを待って行けば可能性があります
ですが生きてるかどうかは運でしょうね」
タルの答えにしばらく全員が沈黙する
「はぁ〜、やるか」
「そうですね」
サクとタルは準備を始める
〔すまない〕
〔コチラも急ぎダンジョンに入る
中で落ち合おう〕
タルは布を3枚重ねて液体を塗っていく
サクはバックから液体が入った瓶を
10本取り出して並べていく
「色々と足らんが
まぁこんなもんじゃな
そっちはどうじゃ?」
「中の様子次第ですね」
「ここは13階か‥‥
クルスのヤツにとんでもない程の恩賞を出させてやるわ」
「生きて帰りたいもんです」
「何人生きとるかの」
「担いで行けるのは5人が限界ですよ
それ以上はダンジョンを出る前に
コチラが捕捉されます」
サクは頷きながら瓶に入れられた液体を何本か鍋に注いでいく
タルは扉を慎重に開けてキノコ部屋の様子を確認する
「どうじゃ?」
「動きは止まっています
予想より早いですね
もう少ししたら突入しますのでよろしくお願いします」
サクはバックからノートを取り出し
眺めながら鍋に液体を継ぎ足していく
「こんなもん作りたくなかったわ
中でやられ過ぎるなよ
お前が倒れたら全員終わるからな」
「頑張ってみます
自分がやられたら1人で帰ってください」
「駄目だと思ったらすぐに引き返せ
お前だけは引きずってでも帰してやる」
「恩賞が増えそうですね」
「ぬかせ」
2人は笑いながら死地に赴く準備をする