00.3『確率0.000625%のシャドウアイ』②
「……な、なんだよ、これ」
シャドウアイ?魔眼の呪い!!??
こんなアビリティ、公式HPの一覧には載っていなかったと思うが……。
──アビリティ『シャドウアイ』のダウン効果によりステータスが修正されました。
シャドウアイ/魔眼の呪い
ステータス/(初期値)→(修正後)
HP/150 → 50
MP/60 → 0
攻撃力/90 → 30
防御力/90 → 40
魔法攻撃力/40 → 0
魔法防御力/50 → 10
体力/80 → 20
素早さ/90 → 50
知力/90 → 50
命中率/95% → 50%
嘘だろ……何かの冗談ではないか?こんなステータスでどうやって戦えというのか、誰か教えてほしい。
まさかとは思うが『無色聖域』はリリースしたてでもあることだし、まだ報告されていない【不具合】が発生したのでは?きっとそうに違いない。
「すみません。このシャドウアイっていうアビリティは公式HPにも載っていなかったですし、もしかして不具合ですか?それならバグ報告でアビリティのランダムセットをやり直したいんだけど……」
──ご質問にお答えします。
先天的アビリティである『シャドウアイ』のステータスダウンにつきましては、現在ご指摘の不具合は確認されていません。
また発現率が0.0000625%という希少性から、管理者により『隠しアビリティ』として設定されているため、公式HPには掲載のないアビリティとして登録されています。
「発現率が……0.0000625%の隠しアビリティ……!?なんでそんなレアものが、こんなにも残念なヤツなんだ……??」
頭が混乱して、おかしくなりそうだったが、一つだけわかったことがある。
それは運営のティア・エイトが【あえて弱いアビリティを隠し要素として設計した】ということだ。
性能だけ聞けば、【よりハードでデンジャラスな戦闘を楽しみたいドM上級者向け】を引いてしまったようにも思える。マジで勘弁してくれ。
──キャラクリエイト、アビリティのランダムセットは正常に完了しました。
それではスポーン地点に転送します。
『無色聖域』の世界をお楽しみください。
「ま、まだ訊きたいことが……!」
しかしアナウンス音声はそこまでで、空間が遠のいていく。
僕はこれからどうなってしまうのか。
虚空に問うても、何も答えは返ってこなかった。
プレイヤー・ヒジリの目覚め
スポーン地点/東大陸のアウロラ村近郊/ビリィユ丘
小鳥のさえずりが聞こえる。
草の匂い。葉と葉がこすれる音から、風の流れが伝わってくるようだ。
「おーい、ヒジリ―」
誰かに呼ばれている。
木陰で寝転び休んでいた僕は、顔の上に載せていた蓮の葉をどけて声のする方に視線を向けた。
緩やかなビリィユ丘を駆け上がる少女がこちらに手を振っている。
そういえば丘から望むマシュトラル池に釣りにきて、それから昼寝していたんだった。
──釣りにキタ?ハハ、本当は銃の練習をしにキタンダヨな?
少女は赤い長髪を揺らしながら、すぐ傍まで寄ってきた。
ロングスカートの裾を土埃で汚してしまったのか、少し不機嫌そうだ。
「こんなところにいたの、ヒジリ。あまりサボっていると先生に怒られるよ」
「皆で僕の銃を笑いものにするだけの、どこか授業なんだよ。エレーナだって面白がってるじゃないか」
「だってヒジリったら5m離れただけで全然当てられなくなるんだもの。今日で先生のもとを卒業なのに心配よ」
エレーナは僕と同い年だが、とても面倒見が良い。
銃の腕がなく、魔法も使えない、何の取り柄もない僕のことを、苛めっ子連中から助けてくれたこともあった。
「さぁ、一緒に帰ろう」
「……わかったよ」
突然のことだった。
眼前に広がるマシュトラル池の水面が膨らみ弾けると、そこから球体のモンスターが飛び出してきた。
球体はほとんどが水性でできていて、中心に心臓のように脈打つ【核】がある。
ひと目でわかったのは、それは【僕らでは倒せないレベルのモンスター】だということだ。
「なんでこんなところにバブルボムが……!?Lv5はあるわよ!」
エレーナは腰のホルスターからアサルトライフルを外し、戦闘態勢に入った。
あわてていた僕は自分の銃を取り出すと、震える両手でグリップを握った。
「ヒジリ!!来るよ!!」
その声は僕の両手のように震えていた。
バブルボムに遭遇したヒジリとエレーナは、無事に生還できるのか!
次回、初戦闘!!