00.2『確率0.000625%のシャドウアイ』①
いよいよ至福の時(お楽しみのゲーム時間)の始まりだ。
僕はリビングに置かれたフルダイブカプセルの電源を入れた。
なめらかなハーモニーの起動音が鳴り、カプセル内の環境が生命維持のために最適化される。いくつかのアップデートが完了し、ものの2分でカプセル内は夕暮れ時の南国リゾートのような快適さになった。
外側面にはキュア・コクーン社製のロゴがあり、その横に備えられた外部操作用のタッチパネルスクリーンで『無色聖域』のインストールとライセンスを確認した。
「完璧だ。もうフォルもコネクトしていいよ」
「オーケー。『無色聖域』の世界でも、ワタシはヒジリの優秀でエレガントでエキゾチックかつ最愛なアシスタントだからね!」
「も、もちろん。そうだよ」
フォルスはロバ耳をパタパタさせながら下降し、フルダイブカプセルの上部にあるコネクトステーションにちょこんと乗っかった。
「アルティメット・コネークトッッ!!」
「……フォル、掛け声はいらないでしょ」
「このほうが盛り上がるよね(キリッ)」
AGIアシスタントロボがフルダイブカプセルに接続することで、ソフトウェア同士が連携を行い、プレイヤーと一緒に冒険をするマスコットキャラクターを自動生成する。その人格はAGIアシスタントロボのものをリアルタイムで同期し、ゲーム内のあらゆる情報が共有される。
つまるところフォルスもカワイイキャラクターとなって、『無色聖域』の世界で僕と一緒に旅ができるということだ。
フルダイブカプセルの準備は整った。
カプセルの開閉口に手をかざすと、スライド式のドアが音もなく開いた。中から程よい冷気と微かなローズマリーの香りが漂ってくる。
僕はそのまま内部シートに横たわった。しばらくして人体を感知したドアが自動で閉まる。
全身に負担のないフィット感で、シートを覆っていたクッションが膨らみだした。そして、その表面から光ファイバーのような細い繊維が伸びると、生物のようにウネウネ、サワサワと僕の肌を観測し始めた。
VRMMOの世界にアクセスするために、五感や意識はこの繊維を介して情報共有される。僕自身も『無色聖域』の世界とコネクトして、現実世界と変わらぬ感覚をもってゲーム内で生きることになる。
高鳴る気持ちが抑えきれず、頭痛のことなどスッカリ忘れてしまっていた。
「0時になったよ、ヒジリ!」
「行こう!」
──アクセスが確認されました。しばらくお待ちください……。
──ようこそ『無色聖域 ─Achromatic Sanctuary─』へ。
このゲームは『ティア・エイト』チームによって開発されました。
──利用規約をお読みになりますか?
スキップしてゲームスタートする場合は、全ての規約に同意したものとみなします。
「スキップ」
──ゲームスタート。まもなく意識は転送されます。
宇宙空間にでもいるような感覚だ。いや、実際宇宙で過ごしたことはないと思うが、そんな気持ちにさせる浮遊感に包まれていた。
──キャラクリエイトを開始します。『生涯セルフアバター・システム』認証完了。
最果ヒジリさん、初めまして。
これより『無色聖域』内でアナタの人格を同期し、自由に操作するキャラクターを生成します。
「頼む、強キャラで生まれてくれ」
──それでは生成結果を表示します。
なお、『生涯セルフアバター・システム』により、プレイヤー自身の生体情報に影響を受けたキャラクターが一度だけ生成され、二度とやり直しはできません。
『アナタのキャラクター生成結果』
名前/ヒジリ
職業/ガンナー
出身/東大陸/アウロラ村
ステータス/Lv1
HP/150 MP/60
攻撃力/90 防御力/90
魔法攻撃力/40 魔法防御力/50
体力/80 素早さ/90
知力/90 命中率/95%
まずまずの手堅い結果になった。
育て方次第ではあるが、悪くはないだろう。
──次にキャラクターの命運を左右する先天的アビリティをランダムセットします。
このアビリティはキャラクターの成長に多大な影響を与えます。ぜひアナタならではの特性でキャラクターを育ててください。
事前情報で『無色聖域』公式HPにアビリティ一覧が公開されていた。
少し目を通して、いくつか気になったのはあったが、その中でもレア度が高く【ステータス成長率が常に30%アップ】という能力の『スターギフト』か、あるいはガンナー特化で【射程範囲が180%になり、最大距離でも命中率が下がらない】という能力の『イーグルアイ』が当たればいいのだが……。
──セット完了。
『アナタのアビリティ結果』
シャドウアイ/魔眼の呪い
【全てのステータス数値が30〜120、確率が30〜60%ダウン。さらにレベルが上がるごとに呪いが強くなる】
残念なアビリティ『シャドウアイ』を引き当ててしまったヒジリは、『無色聖域』の世界を生き抜いていけるのか!?
乞うご期待!