00.1『ウツツの世界とゲームの世界』
初めてまして。
ネザーワールドを視つけていただき、ありがとうございます。
心からワクワクできる作品を目指して書いていきたいと思っております。
「マジか!?」と思わず呟いてしまうような感じで、楽しんでいただけたら幸いです。
冷たい銃口が眉間に押しつけられた。
死ぬ瞬間というのは、なんて静かなんだろう。
咄嗟に浮かんだヴィジョンは海の見える岬で【キレイな花束】を持った【誰か】の背中。
【誰か】はこちらを振り向いたが、その顔にはノイズがかかっていて表情は読み取れなかった。
──これは走馬灯か。どうして僕は最期にこんなヴィジョンを見ているのだろうか。
確かこの場所には、とても重要な意味があったはずだ。
理解よりも速く、「パンッ」と乾いた音とともに鈍器で殴られたようなショック。
何かしらの感情が押し寄せてはすぐに途切れ、やがて生死への興味が薄れていく中、視界は暗転した。
「……悲しいけれど、サヨウナラ」
不思議なオルゴールのメロディが聴こえる。
心地良いはずなのに、胸を抉られるような感傷に引き込まれる旋律は、幼少の頃の記憶にリンクされているようにも思えた。
ふと僕は気になって、そのリンク先に行こうとしたのだが──
目覚めると、そこはいつものソファの上だった。
酷い頭痛がする。悪い夢をみたせいだろうか。
頭の中を銃弾が貫いていく衝撃の余韻が、グワングワンと鳴り響いている。夢のことなのに、やけにリアルな感触がこみ上げてきて冷や汗をかいていた。
冷蔵庫にミネラルウォーターが大量にストックしてある。ピルケースの中の頭痛薬を飲んで、深夜0時まではリラックスしていたほうが良さそうだ。
ゲームリリース時間の30分前にアラームが鳴るようにセットしていた。
アラーム音はどこか懐かしい気分になるオルゴール音楽で、AGIアシスタントロボの『フォルス』に【僕に適した音楽】をデータベースから探してきてもらったものだ。
曲名は『碧き幻夜の吟遊詩人』というらしいが、一体この音楽を誰が作って、どういう過去を持つのかはわからないまま使っていた。
「おはよう、ヒジリ。軽い脱水症状のようだよ。水分補給したほうがいいね」
「おはよう、フォル。頭が割れそうだよ」
「それはタイヘンだ!割れた頭の縫合キットとAO型の血液を手配して、脳外科医に連絡をしないと!」
天井を旋回しながらアラームを鳴らしていたフォルスが、あわてて傍に降りてきた。
丸い体でロバ耳がついた容姿は可愛らしいが、こう見えて僕専属のアシスタントでもある。何でも教えてくれるし、日常生活や仕事もサポートしてくれる、とても頼もしいヤツなのだが……。
「もしもしドクター、急患です!名前は最果ヒジリ、男性、年齢は26歳、身長178cmのやせ型で、好物は胡桃パンとチョコバー、初めて好きになった女性は……」
「ち、ちょっと待ってくれ、フォル。病院への通話を今すぐに切ってくれて構わない!頭が割れそうというのは比喩の話だよ!本当に割れているわけではないんだ!」
「あ、そうだったんだ!良かった、良かった!……お水飲む?」
ちょっと抜けているのが玉に瑕ではある。
今日は仕事を定時であがり、帰宅した後は仮眠をとることにしていた。
【曰くつき】の新作VRMMO『無色聖域 ─Achromatic Sanctuary─』が、日を跨いだ0時からサービス開始する。初日は思いっきりプレイしたいから、夜時間は睡眠を削るつもりで先に寝ておいた。
しかしこのゲームがなぜ【曰くつき】なのかといえば、1ヶ月前にゲームプロデューサーが行方不明になったとニュースで報道され、一時リリースを延期、あるいは中止するかもしれないと噂されていたからだ。
心配していたが、同じプロジェクトチームのメンバーがプロデューサーに昇格し、なんとか無事予定通りにリリースできることになった。
「あと25分!何はともあれ、待ってましたよ!」
僕は嬉しさのあまり、声をあげていた。