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第九章『癒しの祭典』

 冷たい風がやや和らぎ、街の木々に少しずつ春の兆しが見え始めた頃、もふもふカフェでは一つの計画が進んでいた。近隣住民や常連客との交流を深めるため、カフェ主催の「癒しの祭典」を開催することが決まったのだ。動物たちとふれあうイベントや手作りおやつ体験、さらには里親探しコーナーも設ける予定で、準備に追われる日々が続いていた。

「ポスター、こんな感じでどうかな?」味夏が作ったカラフルなポスターを掲げると、広孝が頷いた。

「おお、いいじゃないか。明るくて元気が出る感じだ。」

「可愛らしさを重視しました!動物のイラストも全部手描きです!」味夏が得意げに胸を張ると、幸華が笑顔で拍手した。

「本当に可愛いですね。これなら子どもたちも喜びそうです。」

「じゃあ、これを商店街や学校に配りに行く役は俺がやるよ。」広孝がポスターの束を手に取り、元気よく店を出ていく。

 一方、厨房では、美優香と拓麻が当日提供するスイーツの試作をしていた。カップケーキに動物モチーフのデコレーションを施しながら、慎重に味見を繰り返している。

「これなら甘さ控えめで、動物も食べられそうですね。」拓麻が試食しながらポツリと言うと、美優香が笑顔でうなずいた。

「そうね。せっかくだから、人も動物も一緒に楽しめるおやつにしたいわ。」

 その様子を見ていた将之が、ふと不安げに口を開いた。

「でも、本当に人が集まるか心配ですね。新しいカフェが人気だから、うちがどれだけアピールできるか……」

「大丈夫ですよ、将之さん。」美優香が優しく声をかける。

「私たちは私たちらしく、動物たちと人が一緒に楽しめる空間を作るだけ。それがこのカフェの魅力ですから。」

 その言葉に、将之の心が少し軽くなった。美優香の揺るぎない信念が、カフェを支えているのだと改めて感じた。

 イベント当日、カフェの前には予想を超える人々が集まっていた。商店街でポスターを見た親子連れや、SNSで情報を知った若者たちが続々と訪れ、店内は活気に満ちている。入口では涼楓が動物の健康チェックを行い、穏やかな雰囲気を保つよう注意を払っていた。

「ルカ、今日は頑張って看板犬として働いてね。」将之がそう声をかけると、ルカは元気よく吠えて尻尾を振る。

 ふれあいコーナーでは、子どもたちが猫やウサギと遊び、広孝が笑顔で動物の扱い方を教えている。手作りおやつコーナーでは、味夏がカップケーキ作りを指導し、子どもたちが楽しそうにデコレーションしていた。

「将之さん、写真撮ってもらってもいいですか?」常連客の主婦が声をかける。

「もちろんです!」将之はスマホを手に取り、カフェの賑やかな様子をカメラに収めた。普段は静かな街が、今日は一段と華やかだ。

 すると、突然入り口付近がざわめいた。新しい動物カフェのスタッフが数名、偵察に来たようだった。リーダー格らしき若い女性が、ふと美優香に声をかける。

「こんにちは。今日のイベント、すごい人ですね。」

「ええ、ありがとうございます。普段お世話になっている地域の方々に感謝の気持ちを伝えたくて。」美優香は柔らかく微笑んで答えた。

「正直、驚きました。うちの店、最近少し集客が落ちてきてて……。ここって何がそんなに魅力なんでしょう?」

 その問いに、美優香は少し考えてから、優しく答えた。

「多分、人と動物が自然に触れ合える雰囲気かなと思います。動物たちが安心して過ごせる場所を大事にしているんです。」

 その言葉を聞いた新店スタッフは、少し肩を落とした。

「うちはインスタ映えを重視しすぎたのかも……。動物たちも少し疲れている気がしてました。」

「お互い、動物が主役のカフェですから、できるだけストレスがないように工夫していきましょう。」美優香の励ましに、相手も少し笑顔を取り戻した。

 イベントは夕方まで続き、地域の人々や動物たちが一緒に楽しむ姿が絶えなかった。将之は忙しさの中にも達成感を感じていた。来場者からの感謝の言葉が、疲れを吹き飛ばしてくれる。

 イベントが終わり、店内を片付けていると、美優香がぽつりとつぶやいた。

「こんなにたくさんの人が集まってくれるなんて……本当に嬉しい。」

「美優香さんの気持ちがちゃんと伝わったからですよ。」将之がそう言うと、美優香は照れたように微笑んだ。

「このカフェが、少しでもみんなの癒しになってくれているなら、私はそれで十分です。」

 その言葉を聞きながら、将之は心の中で思った。この場所は、ただのカフェじゃない。動物たちと人々がつながり、支え合う、特別な場所だ。そして、その中心にいる美優香こそが、この温かさの源なのだと。

「また、こういうイベントやりたいですね。」将之がそう提案すると、広孝が大きく頷いた。

「もちろん!次はもっと派手にやろうぜ!」

 その声に、スタッフ全員が笑顔を交わし、カフェには新たな一体感が生まれていた。

(終)



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