第六章『ライバル店現る』
冬の冷たい風が街を吹き抜ける中、もふもふカフェの店内は相変わらず温かく、動物たちは毛布やクッションの上で丸くなっている。窓際では猫が日向ぼっこをし、ルカはお気に入りの毛布に顔をうずめていた。将之は今日もカフェラテを片手に、カフェの落ち着いた雰囲気を楽しんでいる。
「最近、お客さんが少し減った気がしませんか?」将之がポツリとつぶやくと、美優香が少し困ったような顔をした。
「そうなんです。実は最近、近所に新しい動物カフェができたんです。」
「新しいカフェ?」将之が驚くと、広孝がテーブルを拭きながら話に加わった。
「そう、しかもかなり派手な感じでね。オシャレな雰囲気を全面に押し出しているというか、若い人たちが集まっているみたいだ。」
「確かに、インスタ映えを狙った店って感じで、ちょっと豪華なんですよね。」味夏が少し苦笑いしながら言う。
「それって……うちにとっては結構大きな問題じゃないですか?」将之が不安そうに言うと、美優香は小さく頷いた。
「ええ。常連さんは来てくれるけど、新規のお客様があちらに流れてしまって……」
その時、無言で掃除をしていた涼楓が、ピタリと手を止めた。彼女の瞳には、明らかな敵意が宿っている。
「そんな派手なだけのカフェに、動物が本当にリラックスできると思いますか?」
その冷たい一言に、場が少し緊張した。涼楓は普段から寡黙だが、動物に関することには敏感で、正義感が強い。将之は彼女の静かな怒りを感じ取りながら、少し驚いた顔をした。
「でも、確かに動物のことを第一に考えているかどうかはわからないよね。」将之がフォローすると、拓麻も静かに口を開いた。
「写真映えを重視して、動物にストレスをかけているなら……本末転倒だ。」
「そうだよね。動物が安心して過ごせないカフェなんて、どうかしてる。」幸華が控えめに同意し、美優香も少し沈んだ表情でうなずく。
「私たちは、動物たちがリラックスできる環境を大事にしてきたつもりだけど……やっぱり、見た目の華やかさには勝てないのかな。」
その言葉に、涼楓が鋭い目つきで振り返る。
「諦めるんですか?動物たちのために、このカフェがどれだけ大事か、わかっているはずでしょう。」
「もちろん、諦めたりしない。でも、どうしたらお客さんにもっと来てもらえるか考えないと。」美優香がそう言うと、佑佳が冷静に提案を始めた。
「今のままでは、確かに新規客を取り込むのは難しいでしょう。イベントを企画して、カフェの魅力を改めてアピールするのはどうでしょうか。」
「イベントか……確かに、それならSNSで拡散もしやすいですね。」味夏がすぐに乗り気になり、メモを取り始めた。
「例えば、手作りおやつ体験とか、動物たちとのふれあいタイムを強化するとか?」広孝が提案すると、涼楓が少しだけ笑った。
「それなら、動物たちのケア方法を教える講座もいいかもしれません。正しい接し方を知ってもらえれば、動物たちも安心しますし。」
「それ、いいですね!」将之が目を輝かせると、美優香も少し元気を取り戻したようだった。
「そうしましょう。私たちができることを、一つ一つやっていきましょう。もふもふカフェは、ただの癒しだけじゃなくて、動物たちが心から安心できる場所でありたいですから。」
その時、ルカが将之の足に顔をこすりつけ、まるで応援しているかのように尻尾を振った。スタッフたちもそれぞれが意見を出し合い、活気が戻ってきた。
「負けませんよ、あんな薄っぺらいカフェには。」涼楓がきっぱりと言い放つと、全員が力強く頷いた。涼楓のその強さに、将之は改めて感心し、胸の中に湧き上がるやる気を感じた。
「よし、次の休みにイベントの準備を始めましょう!」広孝の声に、カフェ全体が一体感に包まれる。スタッフたちはそれぞれの得意分野で協力し合い、カフェの良さを再確認しながら作業に取りかかった。
将之も、もっとこのカフェのためにできることを探していこうと心に誓った。都会で疲れ果てていた自分が、今ではカフェを守りたいと真剣に思っている。それが不思議で、でも嬉しくて、自然と笑顔がこぼれた。
「もふもふカフェの魅力、きっと伝わりますよ。」将之がそうつぶやくと、美優香がそっと微笑んだ。
「はい。大丈夫です、きっと。」
冷たい風が窓を揺らす中、カフェの中だけは温かさを失わなかった。動物たちが寄り添い、人々が笑い合うこの空間が、いつまでも続くように――将之は心の中で強く願った。
(終)