第二章『新しい仲間たち』
もふもふカフェに通うようになってから、将之の心には少しずつ温かさが芽生えていた。仕事で疲れた体を癒してくれる動物たちの存在と、優しく迎え入れてくれる美優香の笑顔が、彼の日常に彩りを添えている。そんなある日、いつものようにカフェの扉を開けると、店内はいつにも増して賑やかだった。
「おはようございます、将之さん!」
カウンターで元気よく声をかけてきたのは、筋肉質でがっしりした体格の男性、原田広孝だ。短髪で精悍な顔つきだが、その笑顔はどこか少年のような無邪気さがある。彼はカフェの常連客というより、どうやらスタッフのようだ。隣にはふわふわの白い猫がくつろいでいる。
「今日はにぎやかですね。」
「ええ、今日は休みだから、スタッフみんなが集まってるんです。将之さん、ちょうどいいタイミングでしたね。」
そう言って広孝は、奥のテーブルを指差す。そこには他のスタッフたちが集まり、楽しそうに話をしていた。気づけば、美優香も加わって和やかなムードが広がっている。
「せっかくだし、紹介しましょうか。」広孝がにっこりと微笑む。将之が戸惑っていると、美優香が席から立ち上がり、手招きした。
「将之さん、こちらへどうぞ。」
少し緊張しながらも促されるままテーブルに向かうと、先ほどから話していた女性がにっこりと笑った。ショートボブの髪がよく似合う、活発そうな女性だ。
「初めまして、竹中味夏です。ここのスタッフやってます。将之さん、もふもふカフェにハマっちゃった感じ?」
冗談交じりに笑うその声は、どこか快活で明るい。人懐っこい表情に、将之は思わず笑顔を返す。
「ハマるというか、癒しが欲しくて……」
「わかるわかる。ここにいるとね、嫌なこと全部忘れちゃうよね。」味夏が楽しそうに笑いながら話す横で、無言で動物の世話をしている男性がいる。少し長めの髪を無造作に束ねたその青年は、黙々と猫の毛をブラッシングしていた。
「原拓麻です。あんまりしゃべるの得意じゃないけど……よろしく。」彼がぽつりと言った一言は短いが、その優しげな眼差しには誠実さが滲んでいる。猫が拓麻にすっかり懐いている様子が微笑ましく、自然と場の空気が和む。
その時、テーブルの隅で黙々とメニュー表を整理している女性がいた。美優香が肩を叩くと、ふと顔を上げる。
「あ、初めまして。田島幸華です。ちょっと片付けしてました。」少しおっとりした雰囲気の彼女は、柔らかな物腰で微笑んだ。その落ち着いた声に、将之も自然と気が緩む。
「幸華は整理整頓が得意なんです。いつも助かってますよ。」美優香が嬉しそうに言うと、幸華は少し照れくさそうに微笑んだ。
そこへ、奥からスッと現れたのは眼鏡をかけた冷静そうな男性だった。カフェの帳簿を抱えたまま、淡々と報告している。
「高村佑佳です。経理と管理担当です。」一言一句が的確で無駄がない。淡々とした話し方だが、どこか安心感がある。その声を聞くだけで、カフェがきちんと運営されていることが伝わってくる。
最後に、少し離れた窓際の席に、一人だけ沈黙を守る女性がいた。黒髪を一つに束ね、凛とした表情を崩さずにいる彼女は、犬のトリミングをしていた。美優香が彼女に声をかける。
「清水田涼楓、動物のケア担当です。」涼楓はちらりと視線を向けたが、すぐにまた犬に集中し始めた。その鋭い眼差しには、少しも隙がない。
「すごいメンバーですね……」将之がぽつりと漏らすと、広孝が笑いながら肩を叩いた。
「個性派ぞろいでしょ。でも、みんな動物が好きなんです。それだけは共通してる。」その言葉を裏付けるように、スタッフたちはそれぞれの持ち場で動物たちと自然に触れ合っている。人間同士の会話より、動物といる方が自然体でいられるように見えた。
将之はふと、自分がこのカフェの一員になれたような気がして、少しだけ胸が温かくなった。都会では味わえなかった人の温もり、動物の純粋さ、それらが織りなすこのカフェの雰囲気が、将之の心をじんわりと包み込んでいく。
「これからも、ここに通っていいですか?」
「もちろんです。将之さんはもう常連ですから。」美優香がそう言って笑顔を見せた瞬間、カフェ全体が一層輝いて見えた。動物たちの穏やかな息づかいと、人々の温かい交流が、今日もこの場所で繰り広げられている。
(終)