第十八章『カフェ存続の危機』
春の穏やかな陽射しが降り注ぎ、もふもふカフェの中には新しい仲間・葵が加わり、さらに活気が増していた。動物たちも春風を感じながらのんびりと過ごし、お客さんたちもその柔らかい雰囲気に癒されている。
そんな中、将之はカフェラテを片手に帳簿を眺めていた。佑佳が横で電卓を叩きながら、少し険しい表情をしている。
「佑佳さん、何か問題でも?」
「実は……最近の売上が少し厳しいです。経費がかさんでいるのと、新しいライバル店の影響が予想以上に大きい。」
その言葉に、将之の胸に不安がよぎった。動物カフェという特殊な業態ゆえに、動物たちのケアには多くのコストがかかる。食費や医療費、清掃用品も欠かせない。春先に向けてリニューアルをしたことで、さらに経費が膨らんでいた。
「どうにかして収益を増やさないと……このままだと厳しいかもしれない。」
その時、美優香がやってきて、二人の様子を心配そうに見つめた。
「どうしましたか?」
「美優香さん、カフェの収支がちょっとまずいみたいです。」
美優香の顔が少し曇り、やがて佑佳が淡々と状況を説明した。
「現状のままでは、あと数か月で赤字に転落します。お客さんは減っていないのですが、どうしてもコストがかかりすぎている。」
「そうですか……」美優香は深く息を吐き、しばらく考え込んだ。
「美優香さん、何か思い当たる節はありますか?」将之が尋ねると、美優香は少し申し訳なさそうに言った。
「新しい動物たちを迎えたことで、医療費や食費が予想以上に増えてしまって……でも、どの子も保護しないと命が危なかったから。」
「それは仕方ないですよ。動物たちの命を守るのがカフェの理念ですから。」
広孝が力強くフォローすると、味夏も元気よく賛同した。
「そうそう!うちは『癒しの場所』なんだから、動物を見捨てるなんてできないよ。」
「だけど、続けられなければ意味がない。」拓麻が冷静に言い、涼楓も無言で頷いた。
「そうだね……でも、どうやって収益を増やせばいいのか。」
その時、葵が手を挙げた。
「SNSをもっと活用するのはどうでしょう?動物たちの日常を発信して、カフェのファンを増やすんです。」
「なるほど、それはいいかも。」将之が感心して言うと、葵は少し照れながら続けた。
「特に、動物たちがリラックスしている姿や、カフェでのイベントを動画にして発信すると、もっと注目されると思います。」
「それなら、前にやった『癒しの祭典』みたいなイベントも定期的に開催できるといいですね。」味夏が乗り気になって提案する。
「そうか……ファンを増やして、リピーターを作れば安定するかもしれない。」佑佳が頷き、早速企画書を作り始めた。
その日の夜、スタッフ全員が集まり、新しいプロジェクト「もふもふデー」を計画した。毎月1日を「もふもふデー」として、動物たちとふれあえる特別イベントを開催し、写真撮影会や動物ケア講座も取り入れることに決まった。
「これなら動物好きの人たちが集まりそうですね。」
「はい、動物と触れ合える機会が増えれば、ファンも増えます。」葵が自信を持って答えた。
イベント当日、カフェには多くの人が訪れ、動物たちとのふれあいを楽しんでいた。葵がリードしながら、動物ケアのポイントをお客さんに伝え、広孝が動物とのゲームを提案する。
「ルカが輪っかをくぐったら拍手!」
ルカが華麗にジャンプを決め、拍手が沸き起こった。子どもたちも笑顔で参加し、カフェ全体が温かい雰囲気に包まれている。
「思った以上に盛り上がってますね。」将之が安心した表情を浮かべると、美優香がそっとつぶやいた。
「こんなにたくさんの人が来てくれるなんて……やっぱり動物たちの力ってすごいですね。」
「美優香さんが動物たちを大事にしてきたから、みんな自然と集まるんですよ。」
「そうかもしれないですね。でも、もっとできることがあるかもしれない……」
その時、ふと佑佳がスマホを見ながら驚きの声を上げた。
「SNSで拡散されてます!『もふもふデー』が話題になってますよ!」
葵が投稿した動画がバズり、カフェの癒し空間が全国的に注目を集め始めた。コメント欄には「行きたい!」「動物たちが可愛すぎる!」といった声が溢れ、カフェの電話も予約で鳴り止まなかった。
「すごいな……まさか、ここまで広がるとは。」
「葵さん、さすがですね!」味夏が感謝の気持ちを込めてハイタッチを求め、葵も照れながら応じた。
イベントが無事に終わり、カフェが落ち着いた頃、将之は改めて感じていた。美優香を中心に、スタッフたちが一つになってカフェを支えていること。そして、動物たちがその中心で、人々を癒していることを。
「やっぱり、もふもふカフェってすごい場所ですね。」
「はい、ここは特別な場所です。」美優香が優しく微笑むと、ルカがそばに寄り添い、甘えるように顔をこすりつけてきた。
「これからも、この場所を守っていきましょう。」
スタッフ全員がうなずき、再び心を一つにして、カフェの未来を見据えた。
(終)