第十三章『雪の日の奇跡』
もふもふカフェが営業を始めてから、初めての大雪の日が訪れた。朝から降り続いた雪はすっかり積もり、街は真っ白に包まれている。カフェの前には小さな雪だるまが並び、動物たちも寒さを感じながらも、興味津々で外を眺めていた。
将之は開店準備をしながら、雪がどんどん強くなるのを窓越しに見ていた。
「これ、今日はあんまりお客さん来ないかもしれないですね。」
「そうですね。でも、寒さに負けず、動物たちが元気でいるようにしないと。」美優香がそう言って、毛布をもう一枚追加した。
「ルカ、今日も看板犬として頑張ってね。」
ルカは赤いニットを着て、張り切って尻尾を振っている。その愛らしい姿に、将之も自然と笑顔になる。
その時、突然、カフェの電灯がぱっと消えた。店内が一瞬で暗くなり、動物たちが驚いてざわつき始めた。
「停電……?」
美優香がすぐにカウンターのランプを手に取り、懐中電灯を点けた。広孝が厨房から顔を出し、少し困った顔をしている。
「これ、もしかして街全体が停電かもな。」
佑佳がスマホで情報を調べていると、やはり雪の影響で近隣一帯が停電しているという。
「暖房も止まっちゃってますね。ストーブは一台あるけど、全員には足りないかも。」
涼楓が動物たちを心配そうに見つめている。将之も焦りを感じながら、美優香に声をかけた。
「とりあえず、毛布で暖を取らせましょう。窓際は寒いから、動物たちを中央に集めて。」
「そうですね。幸華、手伝ってもらえますか?」
「はい!」
店内の中央に毛布を敷き、犬や猫、ウサギたちを集めた。お客さんも不安そうにしていたが、美優香が優しく声をかけて安心させた。
「今日は少し寒いですが、一緒に動物たちと暖まりましょう。」
ストーブを中心に、自然と輪ができ、動物たちは次第に落ち着きを取り戻した。その時、店のドアが開き、雪まみれになった男性が飛び込んできた。
「すみません、外が大変なことになってて……」
近所の住民で、停電に困って避難してきたという。話を聞くと、他にも困っている人たちがいるらしく、カフェが一時的な避難場所になりそうだ。
「カフェを開放しましょう。できる限り助け合いたいです。」
美優香の提案に、スタッフ全員がうなずき、カフェのスペースを少し広げた。隣近所の人たちが次々と駆け込んできて、カフェはあっという間に満員になった。
「ホットドリンクを準備しよう。ガスはまだ使えるから、お湯を沸かせる。」広孝が手際よくポットを用意し、温かい紅茶やココアを配り始めた。
「私も手伝います!」味夏がカップを並べ、幸華が砂糖やミルクを手渡す。
将之も一緒に動きながら、住民たちに声をかけた。
「寒かったですね。ここで少し温まってください。」
動物たちも、驚くことなくお客さんに寄り添っている。ルカは特に人気者で、子どもたちの膝の上に乗り、甘えた顔をしている。
「動物たちがいるだけで、不安が和らぎますね。」一人の高齢の女性が、猫を撫でながら微笑んだ。
「はい。ここは動物たちが作る温かさが特徴ですから。」美優香が優しく答えると、その言葉に周囲の人々も安心した表情を見せた。
その時、突然、近所の男の子が泣き出した。
「うちの犬が……外で迷ってるんです……」
「名前は?」
「トビーです。茶色の中型犬で……怖がりなんです……」
将之はすぐにルカを連れて外に出た。雪が深く積もり、辺りは薄暗い。冷たい風が容赦なく吹きつけ、体温を奪っていく。
「ルカ、トビーを探そう。」
ルカは匂いを嗅ぎながら、雪道を慎重に歩き始めた。すると、カフェの裏手で微かに鳴き声が聞こえた。
「トビー!」
雪に埋もれている影を見つけ、急いで駆け寄ると、そこには震えているトビーがいた。ルカが優しく鼻を近づけると、トビーは尻尾を振りながらも、弱々しく鳴いた。
「無事で良かった……!」
将之はトビーを抱きかかえ、カフェに戻った。男の子がトビーを見つけて駆け寄り、涙ながらに抱きしめる。
「ありがとう、お兄ちゃん……!」
「良かったね、無事で。」
店内が一気に温かな雰囲気に包まれ、皆がほっと胸を撫で下ろした。
しばらくして、電気がふっと点いた。停電が解消され、店内が明るくなると、自然と拍手が起こった。動物たちも安心したように丸くなり、穏やかな呼吸音が聞こえる。
「みんな無事で良かった……」美優香が涙をこらえながらつぶやいた。
将之も、その温かな空気を感じながら、胸に込み上げる感情を静かに受け止めた。雪の日の奇跡――人と動物が助け合うことで、心が一つになった瞬間だった。
(終)