第十二章『冬の訪れ』
冬の寒さが本格的になり、街は白い雪に包まれていた。もふもふカフェの窓にも小さな雪だるまが飾られ、店内はいつも以上に温かさを感じさせるデコレーションで彩られている。テーブルにはホットチョコレートが並び、動物たちはふかふかの毛布にくるまりながら、穏やかな時間を過ごしていた。
将之はカフェラテを飲みながら、動物たちがぬくぬくと過ごしている姿を眺めている。特にルカが新しくもらった赤いニットを着ているのが可愛らしく、自然と笑顔がこぼれた。
「似合ってるな、ルカ。」
ルカは尻尾を振りながら、将之の膝の上に前足を乗せて甘えてくる。
「ルカの冬用ニット、私が編んだんです。」美優香が照れくさそうに微笑んだ。
「え、本当に?すごく上手ですね!」
「ありがとう。でも、編み物はあまり得意じゃなくて……頑張って練習しました。」
その控えめな笑顔に、将之は少し胸が温かくなった。都会では味わえなかった、この心の通い合う感覚が、今では当たり前のように感じられる。
「将之さん、こちら手伝ってくれませんか?」幸華が厨房から声をかける。
「もちろんです。」
厨房では、冬限定メニューの「ホットアップルシナモンティー」を作っていた。香り高いシナモンとリンゴの甘酸っぱい香りが店内に広がり、冬の寒さを忘れさせるような優しい香りだ。
「これ、美優香さんが考えたんですよ。寒い日に温まってほしいって。」
「本当に心がほっこりしますね。」将之がそう言うと、幸華は嬉しそうに頷いた。
「こういうメニューを考えるのが楽しくて。お客さんが喜んでくれると、私も幸せなんです。」
その言葉を聞きながら、将之はこのカフェがどれだけ多くの人の心を癒しているのかを改めて感じた。
その時、窓際の席で猫を撫でていた涼楓が、ふと外に目をやった。
「……雪が強くなってきた。」
外を見ると、ぼたん雪がしんしんと降り積もり、通りはすっかり白く染まっている。美優香が心配そうに呟いた。
「このままだと、帰り道が大変になりそうですね。」
「お客さんたちに、早めに帰ってもらった方が良いかもしれません。」佑佳が冷静に判断し、美優香はすぐに声をかけた。
「皆さん、外の雪が強くなってきたので、帰り道には気をつけてくださいね。」
お客さんたちも窓の外を見て驚き、急いで支度を始めた。そんな中、店に一人の少年が駆け込んできた。
「すみません!助けてください!」
少年は息を切らせながら必死に訴える。話を聞くと、近くの公園で飼い犬が雪の中にはぐれてしまったという。
「何か手がかりは?」将之が落ち着かせようと声をかけると、少年は震える声で答えた。
「茶色のミックス犬で、名前はポポです。散歩中に急に走り出して……探しても見つからなくて……」
「すぐに探しましょう。」美優香が毅然と言うと、広孝がルカを連れて立ち上がった。
「俺が手分けして探します。将之、ルカを頼む。」
「わかった。」
将之とルカは、公園の周囲を歩きながら必死に名前を呼ぶ。
「ポポー!どこにいるんだ?」
ルカも鼻をクンクンさせ、匂いを辿ろうとしている。すると、雪の中に小さな足跡が続いているのを見つけた。
「ルカ、あの足跡を追ってみよう。」
ルカはその足跡を辿りながら、公園の奥へと向かう。しばらく進むと、植え込みの陰で縮こまっているポポを見つけた。
「いた……ポポ、大丈夫か?」
ポポは怯えた様子で震えていたが、ルカが近づいて優しく匂いを嗅ぐと、少しだけ表情が和らいだ。
「もう大丈夫だよ、帰ろう。」
ポポを抱きかかえ、カフェに戻ると、少年が駆け寄ってきてポポを抱きしめた。
「ポポ!無事で良かった……!」
その光景を見て、カフェのスタッフ全員がほっと安堵の表情を浮かべた。美優香が少年に温かいホットアップルシナモンティーを差し出す。
「良かったですね。寒かったでしょう?」
少年は涙を拭いながら、ポポを撫で続けた。ルカも隣で尻尾を振り、まるで「良かった」と言わんばかりだ。
その夜、雪が止んだ後の静かなカフェで、美優香がぽつりと呟いた。
「動物と人が支え合っている姿って、本当に素敵ですね。」
将之は頷きながら、カフェラテを一口飲んだ。
「都会ではこんな経験、なかったです。ここに来て、本当に良かったと思います。」
「将之さんが来てくれたから、カフェももっと暖かくなった気がします。」美優香が優しく微笑む。
「そうだといいんですけど……」
窓の外の雪景色を見ながら、将之は胸の中にぽっと温かい気持ちが灯るのを感じた。人と動物が共に過ごすこの場所が、もっとたくさんの人を癒せるように。そんな希望を胸に抱き、将之はそっとルカを撫でた。
(終)