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星降る物語3 第三話 歌姫と星読み様

「やっぱり星は降らないわね」

ミズキがこそっとアンテに言う。

「政略結婚だからな。仕方あるまい」

式をカエム以外誰が執り行うのかと誰もが疑問に思っていたがもう一人星読みがいた。カエムの双子の弟ワセトだった。アンテは涼しい顔をしている。

「次から次へと秘密が出るわね」

「すまないな。この国もたいしたことではないという事だ」

「別に期待してないわよ。これから良くしていけば良い話でしょ?」

コソコソ王と王妃が話しているとそばにいるユリアスがこほん、と咳払いをした。2人は改めて襟を正したが短い式はあっという間に終わってしまった。

「あっけなかったわね」

時間をかけて用意した花嫁衣装は役目を終えてしまった。星読みの宮に居を移したアフェラの部屋には贈られた自国の家具が勢揃いしていた。

「こんな形なんていらないわ」

ぽむと寝台にあった枕をなげつける。

「姫。自由にしてはいいがヒステリーは自重してほしい」

たまたま扉を開けたカエムの顔にまくらが当たる。

「あら。すみません。つい感情的になって」

そ知らぬことかとついつんつんと接してしまう。親のような形だけの夫婦。アフェラの一番嫌な形だった。

「すまぬ。意に沿わぬ式で。王と王妃のような形にはならずとも私なりに努力しよう。その代わりと言ってはなんだがそなたの歌が聴きたい。歌姫とこの地方に名をとどろかせた歌を」

だれがあなたにと言いかけたがカエムは少しさみしげな瞳をしていた。この人も苦しんでるのかもしれない。自分の言葉で意に沿わぬ事態を引き起こしたことに。そう考えると歌の一つや二つ軽いものだと思えてきた。

「何かご希望の曲は?」

優しい言葉をかけると眉間にしわを寄せていたカエムの表情が和らいだ。

「そなたの好きな歌で・・・」

「じゃぁ・・・この国で一番最初に覚えた歌を・・・」

アフェラは深呼吸をすると瞼を閉じた。まだ若かったあのころにもどれたらと思いながら。

優しく柔らかな歌を歌いあげていく。声高々ではなく優しく見守る母のような歌を。不意に涙が出そうになりあわてて自分を取り戻した。感傷的になってるのがわかる。ミズキの病気がうつったのかしらと思いながら歌い終わった。

カエムは優しい顔でそこにいた。誰も見たことのない表情で。まるで愛さてれているような視線を感じた。

馬鹿ね、こんな人間を好いてくれる人はいない。ただの政争の道具。お人形。それでももしかしたらと思う。伝説の星降りがなかったのに。二つの感情の間で揺れている間にカエムは立ち上がった。

「いい歌だった。また聴いてもよいか?」

「もちろん。あなた専属の歌姫よ」

茶化すとカエムはほんの少しだけ小さく微笑った。

「ミズキに文句を言われるからそれはやめておいた方がいい」

それもそうだと思ってうなずく。カエムはそのままそっと扉を閉めて出て行った。恐らく星の宮の中心部に行ったのだろう。星読みの定位置に。一度覗いてみたいものだ。一国を揺るがすほどの力を持つ星読みの世界を。

「また頼んでみましょ」

断られると思いつつそれでも見てみたかった。

カエムはどういう人なのかも興味があった。偉そうにしてたが内面にいろいろ抱えているような気がした。歌を聴いているカエムは安らいでいた。これから彼のために歌っていこう。

歌姫アフェラが今、カエムのためだけに生まれたのだった。


「それは本当なんだな?」

薄暗い部屋に男が三人集まっていた。ユリアスの兄ヴィス、フレーザ国のセス、星読みのワセトがいた。

「ああ。兄が言った。異国の星が新たに煌めくと。兄が星読みを違えたことはない。星の石とアフェラ姫さえ手に入ればお前たちの願いはかなうだろう」

「なぜ、それを私たちに話す?」

ヴィスが用心深く尋ねる。

「兄がうっとうしいのでな。実力がある兄のせいで私はいつも日陰だった。たまたま今回式を挙げられたが星降りはなかった。またダメな星読みの烙印を押されたのだ。これで黙っているほうがおかしい。お前たちに情報をやるかわりに一国をくれればそれでいい。あるいは

金をな・・・」

いじましい表情でワセトが言う。できる兄のせいで根性がひんまがってしまった。おとなしい顔は表だけのこと。羊の皮をかぶった野獣といったところである。

「しかし、願いを叶うにも星降る国は警備が固い。追われている私たちでは難しい」

セスが用心深く言う。

「星の石は私がもっていく。兄がいなければ次長の私の管理下だからな。兄とアフェラ姫をこの国境際の小屋に連れてきたらいい。名目は何とでもなる。同盟国のあかしに新婚旅行をフレーザーで過ごすとしてみたらよい。のこのこあのバカはついてくるぞ」

「そんな簡単にことは進むのか?」

ヴィスも用心深く考える。

「兄とアフェラ姫はうまくいっていないらしい。星降りがなかったのもその証拠だ。王に進言してみる。同盟を強くするにもこの計画は大事だろうからな。一方的な外交は実を結ばぬ」

「そこまで考えるなら自分ですればいいものの」

セスが指摘する。

「私は世界はいらない。兄さえ消えればそれでいい。付け加えるならあのバカ王と王妃もな」

「まぁ・・・。そういうなら計画をもう少し練ってみるか・・・」

ヴィスもセスも警戒しつつワセトの言う話に乗ってみることにしたのだった。


ほどなくしてワセトは星降る国に戻るとアンテのもとへ赴いた。

「王。直々のお話が・・・」

「異母兄弟なのだから王とわざわざよばなくともいいのだが」

「示しはつけないといけません」

「まぁな。で、話はなんだ」

「実は兄とアフェラ姫はうまくいっていない様子。星読みは私もいますのでフレーザー国に新婚旅行をアフェラ姫に贈ってはどうでしょうか。祖国が恋しいでしょう」

ふむ、とアンテは考える。

「確かにこの国に来てこもりきりだったからな。もともとミズキと同じ性分だ。うずうずしてるだろう。この話は私からカエムとアフェラに話しておく。その間星の石はそなたに預けるとしよう。いいかげんそなたも独り立ちしてもらわないと困るからな」

何が独り立ちだ。居場所のないところでどうしようと。ワセトは怒りに震えたがなんとかこらえた。こんな傲慢な兄たちを一掃できればどんなにうれしいか。ヴィスとセスがどこまでうまくやるかは謎だがさっさとしてほしかった。


「というわけなのだ・・・。ワセトも大人になったものだ。兄のことを心配して新婚旅行を贈るという話を考えるとはな。やはりあのあとも星降りはないのか?」

まったく、とカエムもアフェラも首を振る。

おかしいなぁとでもいわんばかりにアンテは二人を見る。ここまで魂の色が似通っている二人はいないのに。アンテは幼いころから人の魂の色とでも言おうかその人の考えていることを色で察知していた。人間不信になっていたところを先代の王とミズキに救われたのだった。この話はミズキは知らない。どれだけ隠し事があるのかと自分でも情けない。かといってこの話を簡単に信じる人がいるとは思えない。いるとしたら伴侶のミズキだ。シュリンも信じそうだ。ふとそんな考え事をしているとカエムが声をかけた。

「アンテ?」

「あ。いや・・・考え事にふけってしまった。しばらく星読みの仕事はワセトにまかせる。

カエムとアフェラは気を付けていってくるがよい。向こうの王と王妃に親書を渡そう。この婚姻が末永く平和に導くよう。責任重大だ。しっかりしてくれよ」

「本当に行っていいんですか? フレーザ国は星降る国をねらってるのですよ? 星読みのカエムがいなかったら非常事態に指示を出す人間が減ります。悠長に新婚旅行など・・・」

アフェラが顔をしかめる。

「しわがはりつくぞ。アフェラ姫。私がいる限りこの国は安泰だ。信じてほしい。お互い

親睦を深めれば平和になるはずだ」

「王は平和ボケしてますわ。そんな簡単なことで平和はやってこないわ」

「ほう。アフェラ姫も嫁ぐとつんつん病がでるのだな。さっそく恋をしてるのか?」

「誰に?」

「カエムだろう?」

「まさか!」

本当にびっくりしてアフェラが言うとカエムがぼそりという。

「それはさすがに驚きすぎだ」

「カエムはまんざらでもないようだな」

「アンテ!」

「アンテ様!」

二人の声が重なる。

「ゆっくりしてくればいい。準備は今週中にしておく」

じゃぁな、とアンテは手を振って星読みの宮を出て行った。

「新婚旅行ねぇ~」

アフェラがため息をつく。

「行きたくないのか?」

「行きたいけどなんせ放蕩娘だったからお叱りが痛いのよ。おとなしくしてるかとか散々いわれるんだから」

「まぁ。再び祖国の土を踏めるのだからいいと私は思う。フレーザー国は先住民族の言葉で楽園というらしいな。その楽園を私も見てみたい」

「知ってて? 変わった川があるのよ」

なに?とカエムが尋ねる。

「見えない川。行ってみたらわかるわ」

「なるほど。それは楽しみだ。そういえばフレーザー国のしきたりはどうなのだ? 星読みの勉強ばかりでしきたりには疎いのだ。そなたからしか聞けない。教えてくれるか?」

低姿勢のカエムにアフェラはびっくりして目を丸くした。

「そんなに驚くことはなかろう。失敗してこの国を低評価してもらいたくないのでな」

「それもそうね。じゃ、フレーザー国の成り立ちから話しましょうか・・・」

「お願いする」

真正面から見られて恥ずかしくなったアフェラは少し斜めに座りなおして吟遊詩人の歌を歌いだした。低くゆったりとした歌でフレーザー国の成り立ちを歌っていく。カエムはいつのまにか瞼を閉じその楽園の歌に酔いしれていく。何刻たっただろうか。西日が差しこんでいた。

まぶしい陽の光でカエムは瞼を開けた。

「長いのだな。この歌は」

歌はまだ続いていた。

「そうよ。そのあとに世界を巻き込んだ大戦争があるのよ」

歌をとめてアフェラが言う。

「今日はもうお開き。また続きから明日歌うわ」

「そんなに歌ってのどがおかしくならないのか?」

気遣わしげに問いかけるカエムにアフェラが首を振る。

「ちゃんとのどの手当てをしてのどの油をとる食事をしなければ大丈夫よ」

「そうなのか。シュリンならよく知っているだろう。よこそう」

「シュリンならもう右大臣家よ」

「呼び戻す」

「そんな無理したらかわいそうよ」

「いっそユリアスと先代右大臣がくればよい。星の宮の女主人のことだ。最優先事項当たる」

過保護な扱にアフェラは笑いがでそうになったがあえてこらえた。

「じゃ、アンテとミズキもね」

「わかった」

そう言ってカエムはあわただしくアフェラの部屋を出て行った。


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