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星降る国物語3 第二話 星読み様

 女三人の後宮暮らしは楽しかった。アフェラはこの国の風習が面白くシュリンに何度も質問して困らせた。それに乗じてミズキも質問攻めにする。彼女は王妃としての責務があり仕方なく覚える必要があったのだがアフェラはたんに好奇心から質問しては困らせていた。

「もう。お二人とも質問じゃなくて仕事をしてください! また夕餉を自分たちで作る羽目になりますよ」

「だって~。こっちのほうが面白いもの。夕餉つくりは歓迎するわ」

ミズキがじゃじゃ馬ぶりを発揮するとアフェラも負けじとじゃじゃ馬性格を発揮する。

「じゃぁ。今日の献立を考えましょう。妊婦用と痩身用と健康用と」

「痩身ってどういうことですか。アフェ・・・ナナには痩身の必要はありません」

「えー。花嫁修業の一環としてきれいになる必要があるじゃないの。痩せて美人になるのはおかしいかしら?」

「ナナはもともと美人ですからその必要はありません。みんなで栄養たっぷりの夕餉にします。ってお二人分だけですよ。私は家で旦那様たちと夕餉ですからね」

相変わらず嫁ぎ先に義理立てするシュリンである。

「こうなったら指南役も右大臣も呼びましょうよ。アンテも」

「賛成。宴会しましょ」

「ご自分たちの身分を考えてください! わがままは許しません!」

シュリンンの雷が落ちたところに男性がやってきた。

見覚えのない男性である。シュリンはとっさに身構える。その後ろからアンテが顔を出す。

「気にするな。カエムの大男ぶりに驚くのはいいがちゃんとした奴だ」

「ちゃんとって・・・」

シュリンの顔色がさーっとひく。

「そのサークレットはもしや星読み様?」

「あたりだ。カエム。自己紹介ぐらいしろ。と先に中に入れ。こんなところに私を置いておくな」

後ろからの抗議にやっとカエムは身を動かした。長身でさらりとしたアンテと似た髪色の長髪を額からサークレットで分けて落としている。そのサークレットこそ星読みのあかし。

とっさにミズキの声がする。

「お初にお目にかかります。ミズキです。このようなところにおいでいただき光栄です。身重ゆえこのまま座ったあいさつをお許しください」

その言葉に手をかざして了承する。威圧感がたまらない。

ようやく中に入ったカエムが紹介する。

「異母兄のカエムだ。見てのとおり我が国の星読みだ。このたびのアフェラ姫のこともこの兄が予見しての策を作らせていただいた。許せ。アフェラ殿」

「私は全然かまいませんわ。この国の風習はとても興味深く勉強になります」

アフェラも軽く頭を下げる。

「で。アフェラ殿にはこの星読みと式を挙げていただく。身内が少ないのでな。

王家ではあとは年下ばかりで役に立たない」

ずばりと切り捨てる。

「アンテ。弟君をそんなに悪く言うべきではないわ」

「ミズキはしらないからいいんだ。遊び倒してるからな。ほかの連中は。私の仕事の半分は弟たちの分もはいっているんだよ。もちろんミズキのもな。ちゃんと仕事さえしてくれれば安泰なんだが」

「アフェラ姫はそちらの方か? すまない。このような役に立たない人間に嫁がせるのは。式は形だけゆえあとは自由になさるといい。式の後は星読みの宮にお越しいただくからこのような楽しい生活が変わるかもしれない。許せ」

「あ・・・。いえ。わたくしの方もここでは悪ふざけが過ぎるのですわ。知り合いがいるので。自由というのはどういうことですか? 形ばかりの夫婦となる、ということ?」

「察しがよろしい。星読みに嫁いだ妻は過去に一例もない。私もそなたを縛る気はないのでな。お互い自由に暮らせればよい。子をもうける必要もない。星読みは適任者が事前に選ばれる。王家も庶民もない。星読みの魂が降りた人間が選ばれ役目を果たす。王家から星読みが出たこと自体が珍しいのだ。少し顔を見せただけだ。あと三か月はここで暮らすといい。

逃げたければ逃げてもよい。ただ星はこう告げている。異国の星が新たに煌めく・・・と。

恐らくその金の髪のそなたのことだろう。星読みは覆らない。好きにしてくれたらよい」

言うだけ言ってカエムは去って行った。

「なによ。形だけの夫婦って。私だってミズキみたいに新婚生活したいのに」

怒り爆発とでもいきそうなアフェラにアンテが慰めの声をかける。

「無作法な兄ですまない。だが星読みの実力はすばらしい。三か月かけて花嫁の衣装をこしらえるといい。この国の最初の一枚にそでを通せば私たちの家族だ。楽しみにまっている。明日より乙女の宮に移ってもらう。ナナの名前は封印してもらわないといけないがそなたの歌の才能まで奪うつもりはない。こちらで私とまた合わせてもよい。乙女の宮にミズキとシュリンを呼んで花嫁衣装を作ってもよい。自由な時間をめいいっぱいつくってほしい。そのためなら私もミズキも力を惜しまない。ではミズキまたあとで」

そう言ってアンテも去って行った。

「あなたの夫も偉そうなのね。やっぱり」

最初の印象は消え伝説の王らしく威厳を醸し出したのを目の当たりするとさすがに印象を変えざるを得なかった。

「偉そうなんてものじゃないわよ。勝手気まま上から目線当たり前。でも優しくて少しさみしがり屋なのよ」

柔らかなミズキの声から愛情がにじみ出ててアフェラは人は外見によらないのかもね、と思った。もしかしてカエムもそうかもしれない。孤独を愛してやまない感じを受けたが愛を知らないのかもしれない。アンテの異母兄なら嫡出子とは違う待遇を受けてきたのかもしれない。この王家にはさみしい人が多いのだろう。アンテが正妃しかとらないと決めたのもなんだかわかったような気がした。いたずらに兄弟がいても争い、画策が生じたり愛情がいきわたらないのかもしれない。

物思いにふけっているとシュリンが声をかけた。はっと我に返る。

「花嫁衣装の衣はなににいたしましょう」

「そうねぇ。でもシュリンそろそろ右大臣のお迎えが来るようよ」

夢想にふけっているシュリンにアフェラは逆に声をかける。

「まぁ。そんな時刻ですか? 市に行かないと」

あたふたと身支度を整えるシュリンをうらやましげにアフェラはみていたのだった。

形ばかりの夫婦。自分の母親と父親のようだ。王には溺愛する妃がいて自分はあまり愛されたこともなかった。それゆえ王家の暮らしが息に詰まって家でしていろんな国で歌の勉強をしてきた。いまやアーランド地方で歌姫ナナを知らない人間はいない。

結局王家の生活に戻らされてしまったが。

少なくとも花嫁衣装を作って気を紛らわせることはできそうだ。

この国の衣装はどんなものだろうか。

興味が少しわいたアフェラだった。

次の日さっそくアフェラは都の外から輿に乗って乙女の宮に入るというたいそうなことを演じなければなかった。

慣れた暮らしなのにと思うのだが国民は知らない。知らしめるためにも必要なのだ。

半日も形式ばった行事を得て乙女の宮に入ったのだった。

入った部屋にはさっそくミズキとシュリンが待ち受けていた。

「おかえりなさい」

「おかえりなさいませ」

ミズキとシュリンが山盛りの果実と菓子を用意して待っていた。

「女官の中にシュリンがいてくれたらよかったのに」

慣れない儀式でいらついていたアフェラはそういう。

「実はそうしたかったのですがミズキ様とここにいるようにとのお達しが。疲れるだろうから休養が取れるようにとの星読み様の指示がありまして」

「星読み? アンテ王の言葉じゃなくて?」

「そうよ。この国の祭事をつかさどるのは星読み。そのカエムは偉そうだけど実際は優しいんやないかしら? こんな計らいをとるなんてね。人名指定付きだったもの」

「さぁ。ゆっくり休んで。食べたいもの食べてゆっくり休みましょう」

ミズキが冷たい飲み物を差し出す。

「以前の反対ね。ミズキがこんなにやさしいなんて雨が降るわ」

「ひどいわね。私もアンテと会って変わったんだから。それともふくれっ面の私がいい?」

茶目っ気たっぷりにミズキが言う。

「そうねぇ。久しぶりのふくれっ面も見たいわね。あの時ミズキはほんとつんつんと誰にもしてたから。こんなに変わるとは愛の力は偉大ね」

「もう。アフェラも茶化すんだから」

ふふ、と二人で笑う。

「あ。アフェラ様。今宵は宴会。アフェラ様の歌声を披露とのことも聞いてます。

今のうちに英気を養ってください」

とシュリン。

「えんかいー? いらないわよ。そんなもの」

「私も出たいといったら却下されたわ」

沈み込んだミズキが言う。

「そりゃ当たり前でしょ。身重の王妃が宴会なんて無理よ」

「ならみんなで星の宮に隠れる?」

ミズキの誘いにアフェラは乗る。

「すぐ見つかるような気もしますが・・・」

シュリンが止めても勢いついた思いつきは止まらない。

「こうなったらやるしかないですかね」

シュリンが折れて今夜の女子会の計画は始まった。


その夜、こっそり乙女の宮をでた三人はこっそりまた人馬宮に戻ってきた。

例の抜け穴を使って。

だがそこにはカエムとアンテが待ち受けていた。

「そんなことだろうと思ったよ」

アンテが叱るように言う。

「だって宴会なんてアフェラだけしかでれないじゃない」

ミズキが抗議する。

「大臣たちとの顔合わせもあるんだよ。抜けさせたいがそういうわけにはいかないんだ」

「私も出る。しばし我慢してくれないか?」

カエムの優しい言葉にアフェラは唖然とした。

「口が開いているが何か問題でも?」

カエムがそっとアフェラの顎をとじてやる。ひんやりとしたその手先が印象的だった。

「いえ。責務なら出るわ。ちょっと悪ふざけしただけなの。この二人は許してあげて」

アフェラがそういうとアンテがうなずく。

「どうせミズキがたきつけたのだろう? あとで叱っておくからカエムと一緒に宴にでてくれ」

アンテが頭を下げる。

やっぱりこの王様、王様らしくないわね。

いつの日か思ったことを思い出す。

「いいわ。シュリンの夫も出るんでしょ? シュリンの話をたくさん聞いてくるわ。どんな生活をしてるかアツアツぶりを聞いてくるわ」

「もう。アフェラ様ってば」

シュリンが真っ赤になってるが無視してアフェラはカエムに手を差し出した。

「連れて行ってくれるのでしょう?」

「そなたが望めば」

「もちろんよ。花嫁としていくのだから夫の手は必要よ」

わかった、と言ってカエムが手を差し出す。

優雅な手つきでアフェラは手を乗せると誘導されて星の宮を出ていく。

「案外、お似合いの組み合わせかもね」

後に続いて出ていくアンテにそっとミズキは言う。

「かもしれない。幸せを祈ってるよ」

そう言ってアフェラとカエムは宴の席に行くのだった。


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