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星降る国物語3 第一話 蒼い瞳の歌姫

「これから行く星の宮は正妃専用の宮だ。そこにシュリンもいる。しばらく女官の行儀見習いという名目で入ってもらう。品定め期間というところだ。カエムには正式に同盟を結ぶ折にあってもらおうと思っている。そなたには懐かしい顔ぶれがそろっているからしばらくは安心してもらえると思う」

アンテは早めに足を動かしながら隣にいる姫君に声をかけた。

アンテは普通に平和にしていたいのだが最近フレーザー国が簒奪をもくろんでいるという情報が流れてきている。手は早めに打っておきたい。そこ金色の髪色で青い瞳の姫君に半ば人質という形でこの国にいてもらうことになった。アンテは使いたい手ではなかったのだが。

「ネフェルがいない間、乙女の宮にいてもらってもいいのだが大して面白くないだろうから面白そうなところに来てもらった」

面白そうって・・・この王様、王様らしくないわね、とアフェラは観察しながら思う。

この国の一般的な風貌で俺様的な上から目線で来ると思いきやこの異国の人質をここまで気遣うとは。どこかの宮殿に放り込んで監視の目をつけるべきなのに。

私が祖国と通じていると知ったらどうするだろうか。もっともアフェラにはその気もない。

散々国々を回って旅をしてきたアフェラには国のためという名目はなかった。どこも同じ。裕福そうな国を見てはほしがって戦争を巻き起こす。自分の国も楽園の国という意味を持つすばらしい国なのに実際は領土拡大をもくろんでいるあやしい国だ。この星降る国はこの辺では一番安定しいてるだろう。ほかは内戦だったり戦争仕掛けたりされたりの殺伐な世界だ。

「ここが人馬宮だ」

一室の扉の前で止まってアンテがいう。

「まぁ。見てのお楽しみだな」

そういってアンテは扉を開けた。

「ミズキ、行儀見習いの女官をつれてきたぞ」

やっと安定期になって落ち着いたミズキの顔がアフェラの顔を見て驚きに変わった。

「ナナ!!」

「アフェラ様!」

シュリンからは異なった名前が出てミズキはシュリンを見つめた。

「ナナがアフェラってフレーザー国のお姫様じゃないの。どういうことなの?」

目を丸くして驚く二人の女性を指示してアンテがいう。

「ほら。面白いところだろう?」

「アンテ余興が乗りすぎですわ。この複雑な人間関係を知ってらしたのね」

ふぅっとナナことアフェラがため息をつく。

アフェラはミズキと同じ一座の歌姫をしていた。ミズキが星の宮に入るかはいらないぐらいに国から呼び戻された。そこで粛々と姫様業をしていたが外へ出たくてうずうずしているところにこの人質話が持ち上がったのだった。シュリンとは幼いころに会ったきりだがまだ面影が残っていた。こちらもそうなのだろう。そこそこ大人になったとはいえ自分の美しさがかわいいととられることも知っていた。年下と思われることもしょっちゅうだ。

「久しぶりミズキ。いえ正妃様。本当に星の宮にいたのね」

ナナの発言にミズキが苦笑いする。

「いろいろあってね」

「の割には幸せそうじゃない?」

おなかの子を指して言う。

「まぁね。正妃はちょっと釣り合わないけど」

その答えにアフェラは鈴を転がしたような声で笑う。

「十分じゃない? 仕事もしてるみたいだし。舞はしてないの?」

「安定期に入っては少しね。感が鈍ると行けないから。でもアンテの命令で安静第一ね」

「愛妻家ね」

アフェラとミズキが同等の話をしてる間シュリンはひたすらアフェラの顔を穴が開きそうな顔で見つめていた。

「アフェラ様。アフェラ様ですよね? なぜ星降る国に・・・。王位継承第三位という高位にいらっしゃるのに」

「それがねー。放蕩姫はいらんとこの国に売り飛ばされかかってるのよ」

「失礼な。いつ売り飛ばした」

アンテが横から茶々を入れる。

「人質ってそういうことでしょ?」

あっけらかんというアフェラにアンテは驚きを隠せない。

「同盟の件では迷惑をかけているが冷遇するつもりはない」

「でも嫁がされるんでしょ? 誰かに。確かカエムといったかしら。そのお方は」

ううむとアンテはうなるだけだ。

ミズキが抗議の声を上げる。

「ナナを政争道具にするだなんて聞いてないわよ」

「私もですわ」

「これには大人の事情が・・・」

「私たち全員大人よ!!」

ミズキがむっとして言う。

「まだ二十歳になったばかりでで大人扱いできるか」

「そっちがそうならこっちも手段に出るわよ」

「何ができる」

「たとえば。正妃命令で王は星の宮に入れなくする、とか・・」

「ミズキ。それだけはやめてくれ。お前とこの子に会えないと思うと仕事に手がつかない」

情けなさそうに言っているアンテにアフェラはびっくりする。あの大国の王が妻に頭がさがらないとは。

「ミズキ・・・。いいのよ。自分で決めたことだから。姫ってそんなもんなのよ。おのれの国の道具になるのは幼いころからいい聞かされたことだから。それに私もそうとう放浪して勝手しまくったからね」

「ナナ・・・」

ミズキの瞳に涙が浮かぶ。

「ミズキ!」

アフェラはミズキを抱きしめる。妊娠で感情が揺さぶられやすいのだ。

「大丈夫。私ならなんでもできるわ。知ってるでしょう?」

「ミズキ。悪かった。なんとかするから待ってくれ」

アンテがアフェラに次いで抱きしめる。ぐすっと鼻を鳴らしてミズキはいう。

「きっとよ」

「ああ」

「シュリンも悪かったな。アフェラ姫を連れてきてしまって。祖国が恋しいか?」

「私の家はユリアスの家ですから気になさないでください。それよりもアフェラ様に無体なことはしないでください。私もミズキ様も思っていることは同じです」

「場が暗くなったわね。お詫びに一曲きいていかない?」

アフェラが茶目っ気たっぷりに言う。

「歌姫ナナは有名だからな。私の笛も僭越ながら付け加えよう。フレーザー国の歌でよいか?」

アンテが笛をとりだす。

「いいわね。でもさすがにミズキは舞えないわね。次回のお楽しみにしてね」

「しかたないわ。この子に何かあったら困るもの。ゆっくり聞くわ」

「ではシュリンとミズキはこちらへ」

庭に面したところに椅子を置いて二人は座る。

即席の楽団だ。

アンテが笛を吹きだすとアフェラが合わせて声高らかに歌い上げる。

祖国の歌を真剣に歌ってアフェラは祖国をまだ嫌ってないことに気付いた。

人質そして政略結婚は覚悟していたのにフレーザー国が恋しかった。

「星の宮ではナナということにしておこう。ナナという名前からアフェラ姫を連想する女官は少なそうだからな。毎日楽しくすごせばいい。私はもう少しアフェラ姫の待遇をよくすることに専念する。ミズキ。あまり来れないが、日に一度は来る。待っていてくれ」

そうミズキの額に口づけするとアフェラとシュリンとミズキを残して去って行った。

「少しきつく言いすぎたかしら?」

不安げにミズキが言う。

「アンテが無理しないといいけど」

難しい顔でミズキが言う。

「無理な条件付きつけたけどアンテはやるといったら必ずするわ。どんな犠牲も払ってでも。そういうひとだから」

いつの日かミズキの幸せだけを祈って異次元の国へ返してもらったことを思い出す。

「大丈夫。星降りの王様は伝説の王様じゃない。気にしすぎるのは胎教によくないわ。さぁ。子守歌を歌ってあげるから少しやすみなさい。あなたも仕事のしすぎよ」

ミズキのもっている書類をとりあげると寝台へ連れて行く。ミズキの頭をなでながら小さな声で子守歌を歌う。

「どこかで聞いたことがあるわ」

眠りにつこうとするミズキがつぶやく。

「あなたが昔一座に来たときに歌っていた子守歌よ」

「そんなこともあったわね・・・」

つぶやきながらミズキは眠りに落ちて行った。

安らかな顔に満足してからアフェラはシュリンに向き直った。

「王位継承権を放棄したというのは本当なの?」

「ええ。母と父が別れた折にしたためた書類があります。父と母が片方ずつもっていました。今は私が持っています」

「本来ならあなたが第一位なのではなかったかしら? 第一妃様の娘でしょう?」

「昔の話です」

穏やかに話すシュリンにもう王位などいらないのは明白だった。

「セスが先日来ましたがそうそうに帰国していただきました。星の石を目当てに来たので」

「知ってるわ。セスもそこそこの順位だものね。今は何か画策してるようよ。懲りないい人ね」

「そうですね。でも婚約が破棄されてほっとしてます。私はユリアスを愛していますから」

「ユリアスってあなたの夫?」

はい、とシュリンが答える。

「右大臣を務めています。こちらにもたまに来るのですよ。私は彼と王と正妃さまさえよければいいのです」

「自分の幸せも考えなさいよ」

アフェラが諭す。その言葉にシュリンが首を振る。

「私はしてはいけないことをしています。いくらミズキ様が許しても自分が許せません。ユリアスはそっとしてくれちるので今は毎日その罪を思い出すことはありませが・・・」

「シュリン・・・。お互い苦労するわね」

そうですね。女官二人は小さく微笑あった。


暗い一室にアンテが入ってくる。

「失礼。兄上。星読みは変わらないか?」

「星の指し示す言葉はそう変わらない」

星降る国の星読み。その人こそカエムであった。薄暗い一室に大きな水晶のたまを持って未来を予見していた。アンテとは異母兄にあたる。

「煌めく異国の星が輝かんとき星降りの国は救われる」

「それがアフェラ姫と本当に関係するのか?」

「名前まではわからぬ。だが、今この国を脅かしている国はフレーザーだ。その姫が一番予測される」

「そのアフェラ姫なのだが・・・嫁ぎ先がないのだ。この国には。同盟を結ぶには婚姻がいい。それで兄上に託したいと思っていた。それはどうだ?」

その嫁ぎ先という言葉にカエムが驚く。

「この私と? 適任者はほかにいるだろう。私は星に身をささげている。無理な話だ」

「その適任者がいない。アフェラ姫に弟たちをあてるのは無理だろう。子供すぎる。年長者は兄上しかいないのだ」

「それならお前が娶るといい。先代は三人妃がいた。いまさら正妃一人にこだわる必要はないだろう」

その指摘にアンテが困った顔をする。

「法を改正して正妃のみとしてある。嫡出も。そうでないと兄上や弟たちの苦労が水の泡だ。正妃ではないというだけで冷遇されているのはどうかと思う。おまけに政局にも影響している。太政大臣は弟たちを擁立しようとして失敗した。いつ、また同じことが起こるかわからない。兄上が一番たよれるのだよ」

「の割には偉そうに話してるが?」

「兄上までいじめないでくれ。ミズキにそうとうやられてるのだから。少しは変わったと思ってほしい」

「まぁ。正妃の教育の成果は見て取れるがな。アフェラ姫は歌姫でもあったな。一度聞いてみたいものだ。星の宮から歌声が聞こえてきた。とても切ない歌だった」

ぼそっとカエムが言う。

「ああ。そのアフェラ姫を救うと思って表側で式を挙げてほしい。まぁ三か月はフレーザー国の様子を見るが。この際星降りがあれば幸運ということにしておきたい。政略結婚で降ったということは聞いていないからな。兄上も星読みの責任としてしばらくアフェラ姫との生活を視野に入れておいてくれ」

「星読み次第で決めよう」

「今はそれでいい。今はフレーザーをなんとかしないと。邪魔をした兄上。またくる」

そういってアンテは星読みカエムの部屋を後にした。


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