4話
「黒い霧の中で、巨大な龍に見下ろされる夢……声が、妙に優しくて……」
「なるほど。お前は、人間の中でも魔力の量が多い。だから、それは未来に起こる出来事を啓示している、予知夢かもしれない!」
「予知夢……?」
「ああ。ちょうど、お前に関する啓示が出たところだ。お前の運命を揺るがす、“二つの影”が近づいている。女の姿をしてはいるが、その本性は──人に非ず」
「二人の女ですか……?」
「ああ。いつ現れるまではわからないが……近い将来、ナギの目の前に必ず現れる。用心することだな!」
「……わかりました!」
祈りを捧げ終わると、神殿を出るナギ。
「やっと、見つけましたよ……ナギお姉様!」
すると、見知らぬ女の子に話かけられた。
ナギは二人の少女の姿に一瞬、息を呑んだ。
一人は無邪気な笑みを浮かべ、もう一人は伏し目がちに隠れている。
けれどそのどちらにも、どこか“人間離れした静けさ”があった。
「あなたたちは……(まさか、彼女たちが黄龍様が言っていた……女?)」
「いきなり話しかけてすみません! この度、新たに巫女に就任したイルルと言います。こっちは、妹のカンナと言います!」
後ろに隠れてる女の子が軽く会釈した。
「お父様の名で、先輩であるナギお姉様の元で修行してくるように言われまして……」
「そう……なんだ……。ちなみに、誰を信仰しているの?」
「ここを統治している黄龍様に比べたらまだまだひよっこの龍ですが……白宙龍様を信仰させていただいてます!」
確かに、その名に聞き覚えはなかった。
「その白宙龍が統治する村はどこにあるの?」
「ちょうど、ここより北に進んだ――ちょうど、あの山のふもとの村です!」
そう言うと、イルルは一箇所の山を指差した。
「(確かに、あの山のふもとに村はあるが……あそこは無宗教だったはず。最近、龍信仰を始めたのか?)なるほど。とりあえず、村長に挨拶しに行きますか(警戒は必要だけど……ここで突っぱねるのは得策じゃない)」
「はい!」
ナギに連れて来られたのは村長の家。
さすがは村長家だ……村の中で一番、大きな家に住んでいる。
「村長……いますか?」
「その声は、ナギ様! また、黄龍様の啓示を伝えにきてくださったのですか?」
「今日は違います! 村長に紹介したい人物たちがいまして……それが、この子たちなのですが……」
ナギは気まずそうにイルルとカンナのことを紹介した。
「ちょっと、村長と話したいことがあるから席を外してもらえるかしら?」
そう言って、二人を外で待たせ村長と家の中に入るナギ。
外では、イルルが静かにこちらを見送っていた。
その瞳には──ほんの一瞬、“笑っていない”微かな影が走った。