2話
ここは、黒龍の棲まう深紅の洞窟。
二人の赤子を抱え、黒龍は満足げに喉を鳴らした。
「さて……」
黒龍が赤子を拐ってきたのは、自分の眷属を作るため。
あの赤子たちはそれに適してると判断されたのだ。
まず、赤子たちのご飯。
通常の赤子なら、母乳やミルクを口にするところだろう。
だが黒龍が与えたのは、己の血――龍の力そのものだった。
龍の血には、生命力アップの効果があり成長スピードを早めてくれる。
現に、龍の血を飲み始めて数分で赤子たちの口には歯が生えてきていた。
そうなれば、固形な物を食べさせることができる。
じゃあ、次は何を食べさせるのか?
それは、龍の肉である。
これは、黒龍の尻尾を切り落として食べやすいサイズに切ってから赤子たちに与える。
龍の肉には、魔力が多く含まれていてそれを食べるということは、含まれてる魔力を得るということ。
だが、そんな単純な話ではない。
龍の魔力は人間にとって猛毒。
よっぽど、耐性がないと龍に魔力に適正する人間などいない。
そんな、危険物を赤子たちに与えたってことは……黒龍は赤子たちが龍の魔力に耐えれると信じていた。
魔力を取り込んだその瞬間、二人の腹部に灼けつくような痛みが走る。
次の瞬間、黒龍の紋章が赤く輝きながら刻まれていた――まるで、生まれながらの刻印のように。
「やはりな……」
こうして黒龍は、血と肉による“育成”を数日にわたって繰り返した。
数日後。
赤子たちの肉体は、人間でありながら龍に近い肉体へと変わり果てていた。
一番の変化は身長と胸。
生まれたばかりの赤子のはずなのに、すでに背丈はその辺の子供と変わらないくらいの背丈になっている。
胸の方だが……人間の肉体的に考えれば巨乳ではあるがそれには理由がある。
龍には魔力を貯めておく魔力袋という器官が存在する。
龍の種類によるが、黒龍のメスの場合は胸の部分にその器官が作られる。
つまり、大きい=魔力が多いということになる。
その頃、神蛇村では……
「八岐大蛇様……どうか、お怒りを鎮めてください……!」
生贄を用意できなかった――その事実により、八岐大蛇の“災い”が村を襲った。
翌朝、村の八人の若い女性に異変が生じる。
腹部が、不自然に膨れ上がっていた……まるで妊婦のように。
だが、誰も男と交わった記憶などない。
「……動いてる!? お腹の中で……生きてる!」
日を追うごとに膨張していく腹。
出産の気配はなく、ただ、災厄の気配だけが濃くなっていった。
やがて、限界を超えた腹が“破裂”した。
そこから現れたのは、疫病をもたらす霧、飢餓を招く瘴気、地を割る雷――
八体の災いが村に放たれ、神蛇村は一日で壊滅したのだった。