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個人制作のミリタリーロボで逃避行なお主人公はヒロインの股の間に搭乗(ボツ稿

作者: ロボの未来を憂う者なり

.

 第3次世界大戦は3日で終ったとされている。

 侵略者の兵器群に対し、アメリカをはじめとする世界各国の軍は抵抗虚しく壊滅。

 異形の兵器が空と地上を我が物顔で闊歩し、人類は沈黙した。

 耳慣れない音だけが、無人の街中に響いていた。


                      ◇


 クセっ毛が目の高さにまで被っている少年が、自宅倉庫のシャッターを上げていた。

 それほど大きな音は鳴らないものの、静かな街外れでは他に音を出すモノもなく、ガラガラという小さな駆動音すら目立って響く。

 これは多分感知されるな、と薪鳴千紘(マキナチヒロ)は思った。


「……アドニス、近くのエイリアンは?」


『やつがしら方面、距離13キロより円盤型Bタイプ接近中。数3。パトロールユニットと推定されます。0ポイント到達まで180秒。時速260キロメートル』


 ブルートゥースのイヤホンから合成の音声が聞こえる。

 千紘が組んだAI『アドニス』からの報告だ。

 多数のセンサーからの情報を収集、統合する同AIは、近付いてくる侵略者の飛行物体を正確に捉えていた。


 少年の旅立ちは、迷っている時間など無いようである。


「出がけはいっつもバタバタだな……。

 アドニス、リアクター起動。パワーサプライヤーから制御フレーム、各サーボモーターにオンライン」


『ブートアップシークエンス、スタート。モニタリング開始します。マスターパワー、アップ。リミッターは正常に稼働中。各サーボモーター、スタンバイ』


 倉庫の中に早足で戻る千紘は、そこに佇む金属のかたまりへと駆け上がった。

 前の部分が右左に分かれて無限軌道を備えたそこは、角ばった外観も相まって戦車に似ている。

 後部は少し車高があり、やはり装甲車のように無骨な形状だった。

 全長5メートル、全幅1.7メートル、全高1.5メートル。


 長いクセっ毛の少年は、車体後部の天井側を引き上げると、そこから内部へ入り込んでいく。

 

『ブートアップ完了、機体システム自己診断完了、オールグリーン』


「……MH-03、発進。エイリアンと出くわさないコースで堀田基地に行こう。アドニス、コントロール開始」


『了解』


 上部の外装を閉じると、間もなく無限軌道がその車体を前へと押し出し始めた。

 見た目と違い、静かでスムーズな走り出し。

 目的地は、多くの住民が避難しているとされる、陸上自衛隊堀田基地である。


                      ◇


 侵略者との戦闘が早期に収束したのは、人類側の苦渋の決断による部分もあった。

 あまりにも、戦力差があり過ぎた為だ。

 それこそ、早々に勝てないと判断せざるを得なかったほどに。

 侵略者の兵器は多く、早く、小型で、高い攻撃能力を有する。

 戦車、戦闘機、携行火器といった既存の人類の兵器では、戦いにならなかったのだ。


 各国の政府が一般市民の保護を優先としたのは、ここ50年で唯一にして最大の英断だったと言える。


 自衛隊も例外ではなく、防衛活動はごく短い戦闘の後に打ち切られ、国民の保護と避難誘導に人員と物資を集中する事となる。

 そして神奈川の堀田基地でも、ありったけの兵器、食料、そして周辺住民を施設内に収容し、見つからないようひたすら息を潜めていた。


「北柴山前哨監視所、応答無し!」

「東門警備部隊損耗により後退します!」

「東門の警備はどうなった!?」

「11訓練場棟に着弾確認! 西側地上階が崩れたとの報告が――――!!」

「装備倉庫に一般人を避難させろ! 回せる人員は全て回せ!!」


 それも、今日までだったが。


 堀田基地は侵略者に襲撃されていた。

 海岸と山に挟まれた平地の基地に、空と地上と海から大量の兵器群が押し寄せている。

 自衛隊も陸海空の垣根を超えて総力を挙げ迎撃しているが、被害は増え続けジリ貧の状態だった。


「ほ、堀田は放棄……住民は他に移す! すぐに移動準備に入れ!!」


「この状況でですか!?」


 基地指令、吉本健一二佐の判断は迅速ではあったが、具体的なプランは何も無かった。

 基地内は敵と味方と一般人が入り乱れて滅茶苦茶だ。

 こんな中で秩序だった脱出などできるワケがない、という加持三佐の意見はもっともだが、一刻も早い避難が必要だと言う点では、吉本司令のセリフに理があった。


 いずれにせよ、軍組織というものは上の意見が絶対。

 その方針に基づき、速やかに堀田基地の放棄と一斉避難が決まる。


                     ◇


 カマボコ型をした陸上自衛隊の格納庫内には、偵察ヘリRH-01『シノビ』が駐機してあった。

 外の喧騒に対して、内部は薄膜一枚を隔てかのように音が遠い。

 まるで事態に置いていかれているようだ


 そこに駆け込んできたのが、髪をポニーテールにした真面目そうな女性隊員、『矢島紗枝(やじまさえ)』である。


「岩槻さん! 猪瀬二尉は――――!?」


「わからん! 通信指令室はまともに機能しとらん! もうどこも自己の判断で動いているような有様だ! まるで総動員だよ!!」


「ならシノビ出します!!」


「『出します』って、矢島はまだ機長無しで出られないだろ!? 第一シノビはまだ庫内に――――おい!?」


 矢島紗枝(やじまさえ)三尉は防衛大卒の後、すぐに幹部候補生過程に進み、それから堀田基地へ配属。ヘリパイロットとして養成を受けている最中だった。

 そして、整備長である寸胴のおっさん、猪瀬仁(いのせじん)の言う通り、ひとりでヘリを飛ばす資格は持ち合わせていない。

 ついでに、通常ならば(・・・・・)ヘリを飛ばす前には、まず格納庫の外に引っ張り出さなければならなかった。


「今すぐ住民を基地から脱出させるそうです! 先行偵察にも敵を防ぐにもヘリは必要です! 猪瀬さん武装は!?」


「あぁもう平時なら大問題だぞぉ! ATファイア! ヒュドラ! あるだけ持ってこい!!」


 これが平和な時なら二度と操縦資格を得られないどころか自衛隊をクビになってもおかしくない越権行為と暴挙であるが、今はそれら全てを脇に置けるほどの緊急事態。

 猪瀬整備長にもそれが理解できるからこそ、ヘリに爆装を施すことに一も二もなく応じていた。


 その間、パイロットの待機室に飛び込む矢島三尉は、飛行服に着替えてヘルメットを引っ張り出し飛行準備を整える。

 確かにまだひとりでヘリを飛ばす資格はなかった。

 だが、自信はあった。


 通常ならばヘリを格納庫の外に出してから離陸するところを、矢島三尉は格納庫の中から地面を擦るような低空飛行で発進して見せる。

 格納庫の外では、侵略者の兵器が暴れ回っていた。のんびり離陸などしていれば、そのまま撃墜されかねない。

 だからこその、庫内からの直接離陸。

 矢島紗枝は、指導教官に「生意気だ」と言わせるほど、腕の良いパイロット候補生だった。


 しかしそれも、所詮は通常訓練での話だったのだろう。


 矢島三尉のRH-01シノビは、侵略者の円盤型飛行物体を実弾にて攻撃。

 直後の反撃により撃墜された。


                       ◇


 クセっ毛が目にかかっている小さな少年、薪鳴千紘(まきなちひろ)の装甲車は、堀田基地まで1キロという地点で停車する。

 アテが外れた為だ。


(やっぱ撃退は無理かぁ。結局ガチの戦闘になると逃げるしかないんだよなぁ……。なら、どこに逃げても同じなのかな)


 スーパーの立体駐車場内に潜む、特殊車両。

 その中では、千尋がレーダー画面をぼんやりとした顔で眺めていた。

 これで、堀田基地周辺のおおよその状況が分かる。

 一方的だ。

 自衛隊側の戦闘車両は、12.7ミリ機関銃を載せた装甲車を最大戦力として、50台程度。

 空と地上、それに海から上がってくる侵略者側の機動兵器は、1000機を超える。

 勝負にならない。


 数、質、何もかもが人類は劣っているのだ。

 有史以来初めての、自分達より優れた種との遭遇。

 そして結果はというと、自分たちが遅れた文明に対してしてきた過去を、そのままやられているのである。


 ここで、自分の作り出した避難用(・・・)車両について考えてみた。

 蒔鳴千紘は天才である。

 工学、数学、物理学、エネルギー、理数系において並ぶ者の無い天才科学者だ。

 学位は某工科大学のオンライン審査で一発合格だった。

 以降も、若過ぎるなどの理由で世間の表に出ないまま、多数の研究成果を世に送り出している。


 そんな少年が作り出したこの車両は、現代科学の水準から言っても、隔絶した性能を持っていた。

 部分的には侵略者の技術を上回ってさえいる。


 だがそれでも、これ一機で大勢を覆せるとは思っていない。


 せめて自分が後10も歳を取っていれば、もう少し早く事態を察知していれば、と悔いは募るが、それよりまずは生き残りと合流しなければならないと考えていた。

 それも、人類の存亡を託せるほど、なるべく大きな勢力と、だ。


(そんなヒト達いるのかねぇ……?)


 実際には、幼くして世間というものを多少は知る故に、難しいという事も分かっているのだが。


「さて、堀田基地がダメならぁ……いよいよ東京の方か。大阪も抵抗運動が活発とか言うけどなぁ」


 独り言ちるが、聞いてるのはAIのアドニスのみ。それも、命令されるまでは余計なことを言わないよう学習している。よってリアクション無し。

 千紘は空気中に飛び交う情報を片っ端から拾い集め、次の行動を決めようとしていた。


『偵察ヘリRH-01接近中。テールムーブ破損、高度低下中、墜落まで約30秒と予測』


 そんな時に入る、AIアドニスからの緊急報告。

 すぐさまレーダー画面を見ると、確かに基地を離れて蛇行しながら近付いてくる光点(ブリップ)が確認できた。

 アドニスの計算では、僅か50メートルの範囲内に落ちる可能性が高い。


 機体が制御されているという事は、パイロットはまだ生きているだろう。

 千紘は短絡的な思考しかできない幼い子供ではない。助けに行けば、付随する問題を即座に予測できる知能があった。

 大人びた思案顔で、トントンと操縦スティックの肘を叩く天才少年。

 光点は止まっていた。高度計では海抜13メートル。既に墜落している。


「……アドニス、RH-01の地点をポイントアルファに設定。最短ルート出して」


『警告、RH-01と交戦したエイリアンの機動兵器が戦果確認を行う可能性があります。発見された場合に攻撃を受ける可能性は、不確定要素を考慮しない場合100%です』


「パイロットが生きているかいないかだけ確認したらすぐ逃げるよ……」


 千紘は天才だが、英雄的な思考の持ち主ではない。死にたくないし危険は避けたい、という真っ当な意識も持ち合わせる。

 基地の上空で侵略者と戦い撃墜されたヘリなど、厄介の種だと容易に予想できた。


 一方で、困っている人は助けなければという、善良な倫理観も持っている。

 そもそも、『科学は人類の生存と発展に資するべき学問体系だ』というのが、天才少年が教師から受け継いだ信念だ。

 千紘も、その為に自分の科学力を使おうと決めている。


 急いで様子を見に行きすぐ逃げる、というのは、妥当な判断であっただろう。


                       ◇


 フィッ! フィッ! という耳にうるさい警告音も、落ちるか落ちないかという瀬戸際にあっては、気にする余裕すらなかった。

 ただ訓練通り、機体の水平を保ちオートローテーションで落下速度を落とす。落着直前に機首を上げ、揚力を使い衝撃を緩和する。

 土壇場において、全ては上手くいった。

 ただそれでも、コクピット内への衝撃は凄まじいものだった。


「――――つぅ……ん゛ぅう~~!」


 ぐらつく視界を、矢島三尉は頭を振って無理やり正そうとする。

 計器類からキャノピーの方へ視線を移すと、駐機中よりも更に地面が近くに見えた。胴体着陸したなら、当然だ。

 無断に出撃した上に無許可で搭載した爆装を独断で使用し、挙句に墜落。機体を喪失。キャリアどころの話ではない。


 そんな考えが頭に浮かび、矢島は妙におかしくなった。自衛隊の上層部が、そんな当たり前の判断をする日が再び来るのだろうか、と。


 無線機で墜落を報告するが、基地の航空管制部から応答は無い。僅かな時間、自衛官として途方に暮れる。

 自衛隊の規則の中でも、特殊項目を思い出さねばならない状況だった。

 何にしても上官の指示を受けねばならないが、そもそも指導教官の猪瀬二尉とは連絡が付かずに飛び出してきている。

 堀田基地とは通信が繋がらない。出てきた際の状況を考えれば、戻るのは自殺行為だろう。

 RH-01シノビは偵察ヘリという事でそれなりの機密に属するのだが、爆破なり機密保持をするのも難しい。


(こうなったらもう、どこでもいいか。他の隊に合流しないと。いや……他に生き残りなんて、いる?)


 結局できることは限られたが、できる事をやるしかない。

 矢島三尉はキャノピーの側面を押し上げ、転がり出るようにそこから脱出した。


 それから、近くに移動の足がないかと見回したところで、爆発するヘリに吹き飛ばされた。


「はグ――――――ッ!!?」


 生死を分けたのは、僅かにヘリから離れていた為だ。

 それでも、身を守る事も出来ずに矢島三尉は地面を転がり、身体のそこら中をすりおろすハメとなる。

 仰向けに倒れていると、その真上を矢のような速度で駆け抜けていく物体があった。

 侵略者の飛行型機動兵器。円盤タイプと呼称される機だ。ここまで追尾していたらしい。


 当然の可能性を失念していたのは、この若い陸上自衛官のミスだ。

 しかし、全ては手遅れなのだろう。

 撃墜されてからすぐに身を隠さなかったのも、身の程知らずにもヘリで飛び出したのも、上官の存在を蔑ろにして緊急時を理由に自分の判断を押し通したのも、自衛隊が組織としての抵抗を諦めた時に隊を離れなかったのも。

 あるいは侵略者が現れた時点で、何かできただろうか。


 侵略者の円盤が頭上で滞空し、腹からアームを出してきた。

 機動兵器にさらわれた人間がどうなるかは、誰も知らない。

 矢島紗枝もそれを回避する術を持たず、下りて来る節足のようなアームを、ただ呆然と眺めるほかなかった。



「アドニス! 左制御板だけ攻撃! 真上に落とすなよ!!」

『リニアレールガン、コンデンサ50%チャージ、ターゲットマーク、3、2、1、コンタクト』



 その円盤を光の筋が貫いたかと思うと、片側のエラのような部分が弾け飛んだ。

 バランスを崩し、水分が蒸発するのに似た騒音を立てながら、ひっくり返る円盤は近くのマンションに突っ込む。

 まもなく内側から爆発し、外壁のコンクリートやガラスやアルミ片が無数に降り注いだ。


 しかし矢島がそれらを浴びる前に、滑り込んできた装甲車がアスファルトを削りながら急停車。

 盾になり、全てを受け止めた。


「クソッ! ふたり乗り用に作ってないのに!!」


 などと毒づきながら、上部装甲を押し上げ天才少年が顔を出す。

 倒れている自衛隊服の女性を見てやや怯むが、すぐに降車し傍にしゃがみこんだ。


「ヤバい治療とかあんまできない……。あ、アドニス! 応急処置のデータ!!」


『スキャナーを使い脈拍と呼吸を確認、声をかけ意識レベルの確認をしてください。

 警告、円盤型が3機接近中。友軍機の撃墜を感知したと推測されます。速度600キロメートル、距離690キロメートル、戦闘フォーメーション』


「うわヤベぇ……!!」


 とりあえずファーストエイドを、と常識的な判断をしたのも束の間、そんな暇はないとAIから警告が。 

 考え得る限りいちばん面倒な事態になった、でも見捨てるというのも出来なかったしなぁ。

 焦りと苛立ちが胸の中に沸く。


 とはいえ、それに囚われ現実を忘れるほど幼くはなれない千紘。

 倒れた女性をこの場から離し、自身も侵略者の円盤に捕捉される前に逃げなければならない。


「よッ……クッ……!? あ、アドニス? 持ち上げ方ってこれでいいの??」


『腕で引き上げようとせず、身体、または腰に密着させ、背筋を使い抱え上げてください』


 千紘は身長140センチに届かないほど、女性は160を超える上に自衛隊員だけあって、細見に見えて筋肉もしっかり付いている。

 AIアドニスに介護技術を表示してもらうが、それでも幼い子供が大の大人を1メートル以上ある装甲車の上に持ち上げるのは大仕事だ。


 しかしここで、多少身体を動かせる程度に回復した矢島三尉が、少年に寄りかかりながらも装甲車の上に這い上がる。

 コクピットは広く取ってあるのだが、それはひとり乗りを想定した場合。

 パイロットシートを前にして、どうしようかなぁ、と千紘は改めて悩むことになった。


『円盤型、ポイントゼロまで30秒。既に射程範囲内です』


「分かってる分かってる分かってる! と、とりあえず中に入ってください! シートには、座らないでほしいんだけど……そうなるとスペースねぇな」


「待って……これ(・・)は、なに? キミは……??」


『円盤型散開、包囲射撃体勢』


「クソッ!? アドニス、MH-03全速前進! 電磁シールドフルパワー! 攻撃にオートリアクションで回避!!」


『警告、パイロット及び同乗者の固定が確認できません。回避運動の際、横G発生により車体から脱落する可能性があります』


「だから今乗るんだよ! マスター権限! 安全装置解除! コマンド実行!!」


『マスター、マキナチヒロの最上位権限を確認。セーフティーアンロック、コマンドを強制実行します』


 未だ弱弱しい矢島紗枝が疑問を口にするも、答えはなく上部から機体内に放り込まれる。そのまま自然と、中央のシートに収まる形となった。

 大人の女性らしい豊かな尻がぴったりとハマり込んでしまう。

 是非もなく千紘も中に滑り込むが、既に定員1名のパイロットシートは自衛隊員により占有済み。

 千紘はそのフトモモの間に小さくなって座り込むほかなかった。

 操縦自体はAIアドニスが出来るとはいえ、なぜこんなことに。


 装甲車は無限軌道をぶん回し、車道を軽快に駆け抜けていた。重々しい外観に反して、あっさりと時速100キロを超える。

 だが、時速600キロを軽々超えて来る侵略者の飛行物体からは、到底逃げ切れない速度差だった。

 アッと言う間に斜め後ろに付かれ、機体側面の砲口を向けられる。

 幾多の地球製兵器を一撃の元に沈めて来た、プラズマ兵器だ。


『円盤型が攻撃態勢に入ります』


「ダメッ……! 物陰に入って! 建物を盾にしなさい!!」


 コクピット内に無感動に響く、AIのアナウンス。

 ワケが分からないまま、女性自衛官は誰へともなく訴える。

 股ぐらの間の少年は、座り込んだまま腕に着けた機械の液晶パネルを叩いていた。


 明るい炎の色をしたエネルギー弾が、千紘と矢島三尉の乗る装甲車へと放たれる。

 これを、装甲車は非常に高い反応速度で進路を変えて回避。円盤形の攻撃は路面にあたり、弾けて超高温の膜を広げた。


「ッ……やられ、た!?」


 頑丈な自衛隊の装甲車すら、至近弾で表面がドロドロに溶かされたのを矢島は見ている。

 同様に喰らったかと思ったが、今乗っている車両は全く速度が衰える様子がない。


「これは……なんなの!?」


 混乱しながらも、矢島紗枝は改めてコクピットを見まわしていた。

 正面は未だに開けっ放しで、外の景色が猛スピードで流れている。

 左右には液晶画面が据え付けてあり、側面の景色の上に何かしらのステータスが表示されていた。

 シートの手元には、操縦桿らしきグリップとキーパッドがある。

 自衛隊のパイロットとして何種類かのヘリに触れて来た矢島三尉は、それが非常に高度な機械だと察する事が出来た。


『ソーサー02が右側面を並走。攻撃態勢。03は正面に回ります。30秒以内に直撃を受ける可能性があります。円盤型3機から集中攻撃を受けた場合、電磁シールドは3秒で負荷限界を超えます。装甲は10秒持ちません』


「撃墜して数を減らす、しかないか……! アドニス、戦闘シミュレーション。勝率は!?」


『25%。機体を放棄し、本機による交戦の間に離脱する事を、お勧めします。ですが、この勝率を担保する上でコクピットの閉鎖は必須となります。機能を100%発揮できません』


 この車両は、侵略者の円盤型兵器に追われているらしい。

 しかも機械音声が言うには、旗色は良くない。勝率25%というのが正確な予測値ならば、勝利はほぼ絶望的だ。

 自分がヘリで全く抵抗できなかったことを考えると、25%はずいぶん高い数値にも思えたが。


「んえー……ごめんなさい狭いんですけどコクピットを完全に閉じます! ベルトして!

 アドニス、マスターコマンド、フルコントロールを許可! 戦闘管制スタート!」


『AIアドニスはマスターコマンドにより本機MH-03のフルコントロールを開始。戦闘管制に入ります』


 股の間の少年が謝ったかと思うと、開放されっぱなしだった正面が下りてきて、完全に閉ざされる。直後に正面モニターが機外を映し出した。

 装甲車は大通りの交差点をノーブレーキで右折。それに留まらず、車体後部を流しドリフトをはじめ前後を入れ替えた。

 強烈な横慣性に、寸でのところでシートベルトを絞めた矢島三尉の口から苦悶の声が漏れる。千紘は振り回されるがままにされていた。


 後退する形になった上で、車両は更に加速。背中から慣性重量が圧し掛かる。

 更に、シートの下から突き上げるかのような振動。正面と左右のモニタの風景が、急激に下に落ち始めた。

 実際には、自分の乗っている部分が上昇しているのだと矢島は気が付く。


 右手のモニタ、機体の状況を示す表示によれば、装甲車だと思っていた機体は、変形している最中だった。

 車体前部の無限軌道が直立し、後部は水平を保ったままその上に乗る。

 左右の兵器を固定していた部分が可動し、腕のようなマニュピレーターに。

 中央にあった円形のセンサーがせり上がり、頭部に似たタレットとなった。


「ひと、がた……ロボット!? ウソ冗談でしょう!!?」


「そんな趣味みたいに言わないでください。ホイルベースに依存しない小さな運動半径を実現するには接地面の縮小化が合理的だったというだけです」


『オービタル・ラディウスモードへ変形。FCS・スタンバイ、イルミネーター・スタンバイ、リニアレールガン、スタンバイ、プラズマキャノン、スタンバイ、CIWRS、スタンバイ。ターゲットマーク、インゲージ』


 装甲車だと思った乗り物が、ヒト型ロボットに変形していた。

 理解を超えた事態に直面し、裏返った声を上げる自衛隊員のお姉さん。

 その脚の間で膝を抱えている天才少年は、拗ねたように言いわけじみた意見を述べていた。別にロボットを作りたかったワケじゃないもん。


 足裏の無限軌道で後ろ向きな高速移動を維持したまま、ロボットと化した装甲車は腕の兵器を斜め上に向ける。

 ちょうどその正面に飛び込んでくる侵略者の円盤型兵器。

 予測軌道を完全に読み切ったAIアドニスは、その鼻先に向け実弾兵器を叩き込んだ。

 通常兵器に倍する速度まで加速された弾頭は、一直線に薙ぎ払うように円盤を直撃。

 跳ね飛ばし、追い撃つ次弾で完全に破壊した。


「やった……!」


 ガンカメラの中央に捉えられる、憎むべき侵略者の尖兵と、その破壊。

 自身、円盤の一機にミサイルを叩き込んで撃墜し損ねている。

 快挙が目の前で起こった。

 この漫画かアニメのようなロボットは、侵略者の機動兵器に対抗できるだけの性能を持っている。


 どうしようもないどん詰まりの事態を、打開できるかもしれない。

 驚愕と共に、抑え切れない期待が込み上げてくる。

 これはまさしく、人類を救うロボットだった。


 だと思った。


『ソーサ―3、マニューバパターン変更。弾道予測を超えます。修正中』


「たった一射で対応して来る!? アドニス、ダイナミクスの割り当てを5割まで増やせ! シミュレーションのパターン解析を20ラインに増設! ミキサーにリアルタイムでかけて相手のパターンに合わせて最適値で出力!!」


『進行中のプロジェクトの計算能力を圧迫します。ダイナミクスのパターン増設は現在のシステムの能力を超えます。シミュレーションパターンのフレーム数に応じてミキサーのパターンは等比数列的――――』


「QF2を開放して処理に回せ! アドニス2と同期!!」


『アドニス2は緊急用予備量子フレームです。バックアップを失う事になります。よろしいですか?』


「こいつら倒さないと予備があっても意味ないだろ!」


 円盤形の残り2機は、続くロボットからの射撃を簡単にかわして見せた。

 それが人工知能同士の高度な予測戦だと、優秀なヘリパイロットである矢島は感じ取る。

 人類はドローンによる無人航空爆撃を実現させたところだ。高速の格闘戦が可能な無人戦闘機など存在しないし、作る事も出来ない。

 仮に作れても、物量の前に押し潰されるだろう。


 少年は通信先らしきAIとコンピューターシステムに無理をさせているらしい。それに、脚の間で転げ回りながらも、腕のキーパッドを叩き続けている。

 目に見えるほど、ロボットの動きは変わっていた。異星人の円盤に喰らい付いている。

 それを、短時間で敵機は突き放していた。


「アドニス、戦術アルゴリズム変更! REV1.6から2.5をランダムチェンジ!!」


『エイリアンに解析されているものと予想されます。アルゴリズム変更における戦術構築にタイムラグが発生。戦闘優勢指数の上昇は見込めません』


「計算能力はあっちが上……! 有機的に予測を上回るしかない!!」


 幼いとさえ言える少年が、漢の声で怒鳴っている。大人顔負けの覇気。

 ロボットは商業ビルのカフェテリアをブチ抜き、二本足なではの機敏さでターンしながら急停止すると、ビルの陰から飛び出してくる円盤を狙い撃った。

 完璧なタイミングに見えたが、弾道がビルの角を抉り、射撃を外す。


『センサーデータに不正侵入。イルミネーター再起動』

「今度はECMかこのやろー! オートエイムをオフ! 光学センサーと環境データだけ弾道予測に反映させ――――!!」


 射撃システムに妨害が入り、円盤を追うのが一層難しくなった。

 ロボットのマニュピレーターは敵を狙うが、常に数テンポ遅い。

 しかし、ここまでただ流されるままだった矢島紗枝には、そこで頭に電流が走る思いだった。


 今までの戦闘は、全てがロボットのAIが実行していたモノらしい。脚の中の少年は、機体のシステム制御に集中しているようだ。

 AIアドニスは極めて高度な情報戦闘を展開している。


 ただ矢島には、侵略者の円盤による妨害を受け、複雑な弾道予測をしなくなった今にこそ、このロボットに魅力(・・)を感じるのだ。


「これはどうやって操縦するの!?」

「オレの視覚システムに連動させろ! 計算式にランダム要素を加えてやる!!」

『マスターの視覚システムはインターフェイス連動を目的とします。照準システムとの連動はFPS値が足りません』

「計算式を狂わせるのが目的だから精度は要しない! FPS誤差は――――!!」

「だから! これはどうやって操縦するのかを聞いてるのよキミ!!」

「ぐあっ!?」


 天才頭脳をフル回転させていた少年の頭を、ムチムチな大人のお姉さんのフトモモが襲った。

 同時にロボットをプラズマ弾が直撃し、電磁シールドが激しい反発を生む。

 コクピット内は揉みくちゃだった。


「なッ、なに!? なに!? ごめん今忙しいから後で!!」


「これは手動じゃ動かないの!? 火器くらいはマニュアルで動かせるでしょう!!?」


「『マニュアル』!? そんなんでエイリアンのマニューバをつかまえられるなら世話ねーですよ! 何のためにオレがクソ面倒な予測シミュレーターを作ったと――――!!」


「キミとアドニス! それにエイリアンの戦闘機はバカ正直に尻尾の喰い合いをしているのよ! 間合いをハズしタイミングをズラし裏返って流れを立つ! それが対機動戦よ!!」


「シミュレーターがリアルタイムで予測値を修正してくれるんですー! マニュアルなんて1,000回やって1,000回かわされるだけ!!」


「いいからガンナーをやらせなさい!!」


「むぎゃー!!!?」


 左右をフトモモに挟まれ上からは頭突きを喰らう理不尽の極み。天才とて我慢ならぬ。

 かといって現役自衛隊員に力で勝てるとは思わず、このままでは解放されそうにもないので、ここは引き下がる事とした。

 この間に円盤型の機動限界洗い出して射撃シミュレーターを再設定するのだが、それはそうとこの屈辱忘れぬぞ。


「あーもーお姉さんヘリのパイロットでしょ!? なるべくそっちに寄せるから、それ以外に必要になったら口で言って! 直感操作だ!

 アドニス! トリガーはグリップを優先! オートエイムはキャリブレーションマイナス80パーセントでスティックのパラメータを補正!

 回避マニューバ―も敵のパターン変わるだろうから組み直し!!」


「火器は機関砲プラズマ砲レーザー機銃でいいのね!? 機体の軸と射撃方向はどうやって分けるの!?」


「頭の向きをマニュピレーターと選択火器に連動させますから! 機体方向は左スティックで制御してください! 出力調整は口でお願いします! リアクターの電力の振り分けに関わるんでお姉さんじゃ無理でしょ!!」


『電磁シールド出力限界。緊急冷却開始。回避を優先し対G限界を引き上げます』


 特急で矢島三尉に合わせてコントロールスティックを設定し直す蒔鳴千紘。ヘリの操縦方式もだいたい把握している。

 当然ながら四肢を持つヒト型ロボットとヘリでは全く違うのだが、そこは少年がリアルタイムでフォローする事とした。


 コクピット内で少年とお姉さんが揉めている間にも、円盤は容赦なく攻撃を続けていた。

 そのプラズマ弾がロボットの電磁シールドを打ち消したと同時に、矢島紗枝は左スティックを思いっきり引く。

 足裏の無限軌道が全力で逆回転し、ロボットを高速で後退させた。

 結果として次の攻撃は回避したが、パイロットのお姉さんはひどく不満だった。


「ねぇちょっと逆行くんだけど!?」


「そりゃサイクリックスティックと同じように扱えと言いましたけど基本二次元機動の陸戦兵器とヘリの三次元機動じゃ違うんですから操縦桿で機体姿勢を変えてスティックでエンジン出力調整するのとは違ってきますよ!

 左スティックは押し込んで前進、引っ張って後退、捻って旋回、持ち上げてジャンプ、空中姿勢制御はレーザーブラスト方式ですが自動でやります! あと傾けて重心移動だ!!」


 文句を言いながら、矢島は説明された通り左スティックで機体を動かし始める。

 やってみれば、確かに直感的な操作が可能だった。

 スティックを前へ押すと、ロボットは力強くも滑らかに路上を飛ばす。

 モニターには円盤型の攻撃予想表示が映し出され、矢島がスティックを左右に引っ張りかつ逆側に傾ければ、ロボットは敏感に反応してこれを回避した。

 そして、回避運動をしながら右のスティックで腕を動かし、抱えている大型火器を発砲。

 リニアレールガンが弾頭を連続で発射し、円盤のすぐ近くを突き抜ける。


「っぱり当たらないですって! 常に相手の運動パターンを予測しないと……!」


「余計なことしないで! 追い込みかけるのはこっから!!」


 千紘は、自身に戦闘のセンスがない事を理解している。専門も機械設計だ。

 だからこそ、実戦に関わる部分はAI に任せる設計にしていた。

 敵は高度な無人兵器なのだ。人間の能力では追い付けない。


 だと思ったのに、続く射撃で自衛隊のお姉さんは直撃を出した。


「は!? なん――――いや落ちてないか!?」


「ギリ逸らされた! プラズマ砲!!」


 リニアレールガン、秒速3000メートルの21.2ミリ弾で撥ね飛ばされる円盤。

 だが、直撃の瞬間に機体を傾けだんちゃくの角度を浅くしていた。やはり恐るべき性能。

 だが、すぐさまロボットは追い討ち叩き込む。

 右腕部マニピュレーターが抱える長筒。プラズマランチャーだ。

 青白い摂氏3万度を超える光弾は、弾かれて制御が効かなくなった一瞬を完璧に捉える。

 侵略者の円盤に大穴が開き、直後に内側から爆発した。


「よし慣れてきた!」


「慣れでどうにかなるなら科学はいらねーんですよ!!」


『ソーサー3が高度を落とします。グラウンドモードへの変形を確認、センサースキャンを感知。警告、攻撃体勢』


 快哉を叫ぶお姉さん。

 若き天才工学師は声を大にして意義を唱えたいが、敵がそんな暇をくれなかった。


「殴り合いにきたか!」


 円盤型兵器は、通常時は飛行して巡回活動などを行っているが、敵拠点の攻撃に際しては、腕と脚を出して地上に降り立つ事があった。

 またこの形態では、腕に備えた細い盾のような部分がエネルギーシールドを発生させる。

 機動力は落ちるが、投射火力と防御力は跳ね上がる。


「電磁シールド? があるから大丈夫なのよね!?」


「標準的な円盤形のプラズマ砲なら秒間5発程度までなら耐えられます! でもシステムの冷却に10秒――――!?」


「少なくとも一発撃墜はないって事ね了解!」


 真横に走り出すロボット。一瞬陰になったワゴンにプラズマ弾が大穴を穿つ。

 爆炎の中から飛び出しながら、矢島が発砲。

 機関砲が豪快に弾を吐き出し、円盤に叩き付ける。


 しかし円盤は気にした様子もなく、弾丸も届いていなかった。

 直前で、ぼんやりとした陽炎のような膜に止められている。


「っ……!? 抜けない!」


「ファイアレートは落ちるけど荷電量を上げれば威力は上がる!でもプラズマ砲はどうしても弾道が不安定になるし再充填前に相手のシールドが回復する!」


『CIRWSはソーサー型のシールド及び装甲を突破できません』


「了解! マシンガンの威力を最大に上げて!」


 円盤からプラズマ弾の連射がきた。

 すぐ近くにあった電車のそうしゃじょうに突っ込み、車両を盾にする矢島。

 溶解した穴だらけにされる電車。

 ロボットも被弾するが、連続して喰らうのは辛うじて避け、


『リニアレールガン、マキシマムチャージ。トリガーホールド』


「撃って!」


 矢島がグリップの引き金を絞り込み、秒速1万メートルにまで加速された弾丸か円盤を直撃した。


 しかし、円盤は大きく仰け反るに留まる。


『ソーサー3のシールド消失』


「ビームは!?」


「プラズマランチャー! 撃てるけど射程外! さっきみたいにはいかないよ!!」


「じゃ近づけばいいんでしょお!!!」


 武骨なロボットは姿勢を低く、足裏の無限軌道で地面の砂利を蹴散らしながら突進。

 円盤がプラズマ弾を放つが、矢島はスケートにも似た挙動で左右に鋭く切り返す挙動で回避。


「もっと早く!」

「アドニス! プースター10パーセント点火0.5秒! ベクトル0度!!」

『オートバランサー補正値最大へ設定、機体の水平を維持します』


 背面の可動式ノズルから真っ白な炎を吹くと、腕の大砲を突きだし、


「っけぇえええい!」

「ちょとまって近すぎ――――!?」

衝突警報(コリジョンアラート)衝突警報(コリジョンアラート)衝突警報(コリジョンアラート)


 一切減速せず、槍のように砲の先端から突っ込むと、その瞬間にプラズマ弾を撃ち放った。


                      ◇


 堀田基地の混乱は続いていた。

 吉本基地司令の命令で退避は決まった。

 ところが、侵略者の攻撃のただ中で、組織だった動きが出来ないのだ。


「訓練した経験があれば整備でもいい! どうにか護衛の班を編成して送り出すんだ!!」


「三佐、先行偵察し脱出路を確保します」前哨狙撃兵兵ヒロイン2


「前哨狙撃兵ひとりで何ができる!? 脱出の時は何人いても足りない状況だ! それまで出入り口の警戒でもしていろ!」


 被害状況の報告を受け、その対処を指示する。今できるのはそれだけだった。

 しかし、侵略者の手勢に囲まれたこの基地から一般市民を避難させる目途は、全く立つ見込みがない。

 このままでは全滅だ。基地施設も大分崩れている。いずれ隠れる場所すら無くなるだろう。

 その前に、ひとりでも脱出させられる可能性にかけて、犠牲覚悟の行動を取るべきか。

 加持三佐が決断を迫られていた、その時、


『RH-01、3212矢島より第5ヘリコプター団本部へ! 現在、陸戦車両(・・・・)にてキャンプ南側で待機中!!』


 通信既定も何もない錯綜した交信の中で、その声はやけにハッキリ聞こえてきた。


「矢島か!? 生きていたか!」


 偵察ヘリ、RH-01(シノビ)が撃墜されたのは、隊長も報告を受けていた。

 パイロット候補生も殉職したと思っていたが。


『敵の包囲厚くキャンプ内への帰還不能! こちらから脱出を援護します!!』


「なに!? 陸戦車両だ!? 何を言っている矢島!!?」


 そのサバイバー候補生、矢島だが、鉄火場故に仕方ないとはいえ、ロクな説明もなくワケの分からないことを言い出す。

 矢島三尉はヘリパイロットだ。それが陸戦車両とはどういう話か。


 答えは、現状が示すこととなった。

 基地中央に居座っていた円盤が派手に吹き飛ばされたのだ。

 すぐさま反応する他の円盤が、一方へ向かい移動している。


「エイリアンの戦闘機が……!? 何だ!!?」


「加持三佐! 南側の土盛りに未確認機!!」


 ミドルヘア姫カットのクールな自衛官が、半地下司令部の細い覗き窓から何かを見付けていた。

 基地施設を隔てる土の壁の上に、歪なヒト型のシルエットが。

 それは、腕部に装備した重火器で空を薙ぎ払い、円盤を次々と打ち据える。


「アレのことか!?」


 思い当たるのは、ひとつしかなかった。

 ヘリパイロット、矢島三尉の言う『陸戦車両』。

 それがまさかロボットなどという冗談のような産物だとは想像もしなかったが、こうなった以上は使えるモノを使うほかなかった。


「矢島! 状況を報告しろ!!」


『21.2ミリリニアレールガン機関砲は残弾1500発、充電量によりますが50斉射が限界です! プラズマ砲は改修により射程距離は10メートル以下! 冷却時間は必要ですが弾数制限なし!

 本機は地上走破力に優れエイリアンの兵器に対しても極めて高い防御能力を有します!!』


「南西側に敵を誘導しろ! だが後方に注意! 回り込まれるなよ!

 北門前の隊舎に全員集めろ! 国道を避け裏通りを隠れながら脱出する!!」


 これが唯一最後の機会、という確信があった加持三佐は、基地を空っぽにする勢いで全員を動かす命令を出す。

 同時に、矢島三尉は命令通り、移動しながらの陽動を開始。

 実弾やプラズマ弾をばら撒き、派手に暴れて見せた。

 なお時間が無かった事もあり、安全な場所におろす事も出来なかった為、ふとももの間に天才を搭載したままになっていた。


                      ◇


 この後、陸上自衛隊堀田基地からの避難住民の脱出は成功した。

 矢島紗枝と薪鳴千紘、そしてロボットは一時孤立するが、基地に最後まで残り脱出が遅れた加持三佐ら若干名と合流。

 侵略者に制圧された日本の中を、味方との合流を求めて旅をすることになる。


「N2リアクター……窒素融合炉とかAI制御システムは設備が無いと量産できないから手作りになりますよ?

 交換パーツとかも作るのを考えると3機くらいが限界だと思います」


「できれば2機で一班として二班、4機は欲しいが……」


「千紘くん、プラズマ打突機構はアレで完成なの?」


「砲身内に電磁シールド組み込むのすごく大変なんですよ? それを棍棒みたいにさぁ……。ストライクユニットのガワを作るんでもうちょっと待ってください」


「薪鳴、支援火器の30ミリを早く仕上げてほしい。例のインターなんとか弾も併せて」


「インテークスタビライザー弾、ですね。適当に付けた名前だからそこはどうでもいいです。アレ試作機はできてますけど、素材と強度がちょっと低いんで連射に制限ができますよ?」


 破壊されず残った武器兵器は希少、侵略者に有効なモノは更に希少ということで、天才少年のロボット、マシンヘッドはその後数を増やしていた。


 3機編成。

 ヘリパロットのポニテお姉さん、矢島紗枝。

 パッツンミドルヘアの前哨狙撃兵、檜川舞夏。

 ノリは軽いが実戦で気負う事もない、陣内拓肋。

 これらを、避難の集団を一時的に取り仕切るゴリゴリの堅物自衛官、加持三佐が指揮する。


 逃げ遅れた少数の民間人を守りながらの移動で、マシンヘッドは大きな役割を果たす事となる。

 そして天才少年の手で進化を重ね、やがて人類解放の大きな戦力となるのだ。


「こら千紘くん!? だからキミは乗り込まないの! 危ないから!!」


「だってニューロリンクはまだ調整中だって言ってるのに出そうとするからぁ……。

 今はサブだからないと思うけど、インターフェイスがバトル中にバグったら死にますよ? いいんですか??」


 そんな薪鳴千紘、子供だてらにプロ意識は高いので、緊急出撃のマシンヘッドにも平気で同乗しようとする。主に矢島紗枝の機体に。

 これも、侵略者との遭遇戦がいつ起こるかわからない上に、常に整備と改修をしなければならない、という時間の無さ的にやむを得ない事態ではあった。

 流石にサブシートは増設したが、そもそもお姉さんは小さな男の子を危険なところに連れて行きたくない。

 そんな土壇場での押し問答も、定番になりつつあった。


「ああもう! MH-0311『カササギ』矢島、発進します! なおコパイとして千紘くんが搭乗中!!」


『ポジションを変更する。0355が先行、0311は中盤に付け0377は全体支援。敵部隊は2機、哨戒機と思われる。速やかに確実に排除せよ』


『うげー、ポイントマンかよぉ。向きじゃねーなー』


『自慢のペット(・・・)を先行させればいいだろう。多少火力を散らしても、相手の足を止めれば私が仕留める』


 歩き出したロボット3機が、腰を落として脚を前に出し、装甲車形態となり順次走り出す。

 砂煙を上げ、高い機動力を発揮する機動兵器。

 それはやがて、人類にとり象徴的な存在となるのであった。





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[良い点] ボツでも新作やったー! [気になる点] 大好きな要素の組み合わせって感じです。仮だからでしょうけどすごく聞き覚えのある主人公名なので、まさか二週目なのか世界移動しちゃったのか異世界同位体な…
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