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愛なんか、知らない。  作者: 凪
最終章 愛を知る家
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訣別の時

 それから、どれだけ時間が経ったのか。

 家の前で車が止まる音がしたと思ったら、チャイムが鳴った。

 インターホンの画面には、塚田さんの姿。

 すっかり泣き疲れて魂が抜けた状態の私は、フラフラしながら、なんとか玄関のドアを開ける。

 塚田さんは、私の顔を見てホッとした表情になった。


「大丈夫ですか?」

 私は力なく首を振る。

「とりあえず、入りましょう」

 塚田さんは暖かいお茶を淹れてくれた。

 二口、三口飲んで、ほっと息をつく。体中に、暖かいお茶が染みわたっていく感じ。


「お母さんが、お金を、全部持ってっちゃった」

 ポツリと言うと、塚田さんは大きくうなずく。

「銀行口座の暗証番号、知ってたから。まさか、こんなこと」

 そこまで言うと、枯れ果てていたはずの涙がホロリとこぼれた。


「こんなことを言うのは、残酷かもしれないけど」

 塚田さんは冷静な声音で言う。

「警察に行ってもいいんじゃないかな」

「えっ」

 そこまで考えてなかった。

「だって、これは窃盗でしょ? いくら親だからって、全額持ってくなんて、ひどすぎるよ。警察に被害届を出してもいいと思う」

「で、でも、そこまで」

「そこまでしたほうがいいことじゃないかな。だって、何年もかけて葵さんが働いて貯めて来たお金でしょ? それは葵さんのものだよ。お母さんが盗んでいいものじゃない」


「盗んだのかどうかも……何かトラブルに巻き込まれたとか」

「そうだとしても、葵さんに相談してお金を貸してもらうっていうのなら、分かるよ。でも、荷物も全部ないんでしょ? それは逃げたんだよね、葵さんのお金を盗って。それに、電話も通じないなんて、悪質だと思う。どういう事情だとしても、お金を勝手に持って行っていい理由にはならないから」


 確かに、そうかもしれないけど……。

「警察に言うほどの、悪者じゃないと思う」

 私が声を振り絞ると、塚田さんは黙り込んだ。

 やがて、「もう、いいんじゃないかな」とポツリと言う。

 その言葉に、私は首をかしげる。


「もう、お母さんを実の親だって思わなくていいんじゃないかな。今までも、葵さんからお母さんの話を聞いてきたけど、まだ学生の娘を置いて急にいなくなっちゃうとか、それも音沙汰なしで何年も帰ってこないなんて、ひどすぎるよ。だって、高校の時も、強引に海外に行っちゃったんでしょ? 普通、高校生の娘を置いて行こうとする親なんていないよ。挙句に、娘のお金を盗んで逃げるなんて。もう、絶縁していいレベルだよ。実の親だからって、受け入れる必要はないんだよ」


「でも、私が、お母さんの言うことを聞かなかったから……塚田さんと付き合うのをやめなさいって言われても拒んだからかもしれないし」

「いや、それって、娘のお金を盗む理由にならないでしょ? むしろ、そんな理由で盗んだんなら、相当ヤバイ人間だし。葵さんの親を悪く言って申し訳ないけど、もう縁を切ったほうがいいよ、そういう人とは」

「でも……」


 私の目から大粒の涙がこぼれる。

 一人になっちゃう。また一人になっちゃう。

 何もしてくれなくても、家にいてくれるだけで、どこか安心してたんだ。一人ぼっちではなくなるから。


「ホントは、あんまり言いたくなかったんだけど」

 塚田さんはそこで言葉を切る。

「オレが鈴とここに来てて、トイレを借りた時に、『うちの娘は騙されやすいから、ちょろいでしょ』って言われたことがあって」

「えっ、そ、そんなことを?」

 知らなかった。

「そんな、言ってくれれば」

「いや、言えないでしょ、これは。ひどすぎて」

 確かに……。


「オレは、お母さんは葵さんに憎しみをぶつけてる気がするんだけど。何というか、自分の人生がうまくいってない苛立ちをぶつけてるって言うか」

 憎しみ。

 そっか。私、お母さんの望み通りの娘じゃなかったしな。ミニチュアはやめなかったし、留学も行かなかったし、お弁当を作ってくれたことないって、会社の人の前で暴露しちゃったし。


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