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愛なんか、知らない。  作者: 凪
最終章 愛を知る家
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邪魔しないで

「そこから急に壺を出して売ってくることはなかったよ」

「葵、警戒しすぎだってば……」

「でも、よかった。二人で会いたいって言えてよかった」

「よく勇気出せたね。葵、エライ!」

 電話の向こうで、心は嬉しそうだ。駅から家までの帰り道で、心にさっそく報告したんだ。


「実はね、僕も報告があって」

 心は一拍置いた。

「僕、彼女ができるかも」

「えっ。彼女? ホントに? え? そんな話、聞いてたっけ?」

「ううん、言ってない。うちによく買いに来るお客さんで、話すうちに親しくなって、食のイベントに誘われて一緒に行ったりして、プライベートでも会うようになって。友達としてかなって思ってたら、この間、向こうから告られた」


「そうなの!? そんな人がいるなんて、教えてよお」

「ごめん、なんか言いづらくて。葵はその塚田さんって人のことで盛り上がってたし」

「う、うん、まあ、そうなんだけど……それで、その人とつきあうの?」

「うーん、ホント言うと、好きかどうかは分からないんだ。でも、一緒にいると楽しいし、告られて嬉しかったし。つきあってみようかなって思ってて」

「そうなんだ、おめでとう! 心に彼女ができるなんて、嬉しい。今度、紹介してね」

「うん。向こうも葵に会いたがってるし」


 でも、彼女ができたら、その人と過ごす時間が増えるんだろうな。こっちに帰ってくることは減ってくんだろうな……。

 それは寂しいけど、心には心の人生がある。私たちの道は、そうやって自然と分かれたり一緒になったりするものなんだろう。

 

 ちょっと寂しい気持ちになっていた時、玄関に入ったところで、お母さんとバッタリ会った。たぶん、今日は夜間のシフトなんだろう。24時間営業のフィットネスクラブだから。

 お母さんはバッチリメイクを決めてて、なぜか体のラインがクッキリ出ている袖なしのニットにタイトスカートを履いている。受付の仕事なのに、ずいぶん派手な気がする……。向こうで制服に着替えるのかもしれないけど。

 久しぶりにマトモな仕事をして、刺激になってるのかな。


 お母さんは、それこそ頭のてっぺんからつま先まで、私のことをジロジロと見た。

「……ただいま」

 テンションが一気に下がっちゃって、目を合わせないように家に上がる。

「なあに、そのカッコ。もしかして、デート?」

「えっ」

 驚いて振り返ると、お母さんは腕組みをして睨んでいる。


「相手は、あの子連れの父親?」

「えっ、なんで、なんで」

「それぐらい、分かるわよ。あんたのまわりの男の影なんて、あの人ぐらいしかいないでしょ」

 ぐぬ。す、鋭いな。

「子連れの男なんて、やめときなさい。あんた、あの子の母親になる覚悟はあるの?」

「え?」


「子連れの男とつきあうってことは、そういうことでしょ? 血がつながってない子供の親になるって、そんなに簡単なことじゃないってことぐらい、あんたも分かってるんじゃない? 世の中にはいくらでも男はいるんだから、独身で自分の年齢に近い人を探せばいいじゃない。それとも、ミニチュアの世界では出会いはないの?」

 お母さんの言葉を聞きながら、心がドンドン冷えていくのを感じた。

 久しぶりにまともに会話を交わせたと思ったら、いきなり私の恋愛を否定?


「そ、そんな、大変だってことぐらい分かってるよ。だって、うちなんて血はつながってても、いきなり家を出て行っちゃって、何年も音信不通の親がいるもん。血がつながっていても仲がいいわけじゃないし、平気で娘のことを見捨てる親がいるぐらいだもんね」

 お母さんは明らかにムッとした。


「私だって、実の娘を全然、愛せなかったんだから。だから、親子になるのは簡単じゃないって言ってんの! 血がつながってても親子としてやってけないぐらいなんだから、血がつながっていなかったら、子供として愛せるわけないでしょって話」

「そんなの分かんないよ。少なくとも、お母さんよりはまともに愛せると思う」


 自分でも驚くぐらいに、冷静に反論できた。

 お母さんは「ふんっ」と吐き捨てると、ドアを勢いよく閉めて去って行った。

 せっかく、幸せな気持ちでいっぱいだったのに、一瞬で台無しになった。

 そういう人だ、お母さんは。昔からそうだった。

 涙がジワッと浮かぶ。悔しい。悔しい。

 こんなことで泣くなんて、イヤだ。忘れよう。楽しいことだけ覚えておこう。

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