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愛なんか、知らない。  作者: 凪
第2章 戻れない家
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女子高生のカバンの中身!

「え……私のカバンは、何も入ってないから」

「えー、自分が言い出しっぺなのに、それはずるいよ?」

「私のだって、お弁当とスマホと財布しか入ってないよ?」

 みんなで期待感100%の目で見てると、水木さんは渋々カバンの中を机に出した。

 水木さんは女の子っぽいものやゴテゴテしてるのが好きじゃないみたい。

 ノートもペンケースも何も模様がついてない、シンプルなデザインだ。お弁当を包んでいるのも、まるで男の子が使うような青いナプキン。ペンケースを開けてみると、中に入っているのもメタリックなシャーペンと定規だ。消しゴムも、「基本の消しゴムです」って感じの白い消しゴム。

 ほかに、ブックカバーがかけてある本が3冊入っていた。

 和田さんはそれを手に取り、パラパラとめくると目を丸くした。

「えっ、これ、洋書?」

 他の本も開いてみると、英語がずらずらと並んでいる。挿絵も何もない、味気ない本だ。ペーパーバックって呼ばれてる本かな。


「すごい、水木さん、いつも英語の本を読んでるの?」

「日本語訳は載ってないの、これ」

 水木さんは気まずそうに、「うん、まあ」とあいまいに答えた。

「これ、何の本?」

「アガサ・クリスティ」

「ええっ、アガサ・クリスティを原書で読むんだ。すごいねえ」

「うん、まあ」

「アガサ・クリスティの何?」

「それはオリエント急行殺人事件」

「オリエント、面白いよねえ~。私も、アガサ・クリスティで一番好き」

 二人で本の話で盛り上がってるというか、和田さんが一人で盛り上がって、水木さんは渋々答えてるって感じ。


「あ~、ワンちゃんの写真だあ。かわい~」

 学生カバンの取っ手についているパスケースに犬の写真が入っているのを、和田さんは目ざとく見つけた。

「ホントだ~、柴犬?」

「かわい~、ぬいぐるみみたい」

 水木さんは照れたような表情になった。

 えっ、何、もしかして、水木さんってツンデレだったりするの? 家ではワンちゃん相手に「ポチ、帰って来たよ~。一人で寂しかったでちゅか」とか言ってたり(←勝手な想像)。

「名前は?」

「……ゴン太」

「いきなり骨太感ある名前だね」

「あ~、もしかして。ネットで、ゴン太くんってキャラの動画を観たことあるけど、あのキャラから取ったとか? うほうほ鳴いててモフモフしたキャラ」

「……たぶん、それ。ママがつけた時、そんなこと言ってた」

「へえ~、そうなんだあ」

 水木さんの表情がだんだんゆるんでいく。普段の近寄りがたいオーラが消えていく感じ。


「でも、どうしよっか。あんまり女子高生っぽくないカバンの中身だけど」

「それはそれで、面白くない? 色気ねーなーって、ツッコミ入れられそうで」

「私は自分のカバンの中身、作ってみたいな」

「あっ、じゃあ、じゃあ」

 私は思わず手を挙げた。

「じゃあ、このカバンからダーッと出した感じのミニチュアを作るのはどうだろ? これを写真に撮って、それをそのままミニチュアで再現するの。カバンから出しましたって感じを出すために、カバンもミニチュアで作って」

「おお~、面白そう!」

「後藤さん、さすが、ナイスアイデア!」

 みんなから褒められて、私はエヘへと照れ笑いした。

「じゃ、じゃあ、ペンケースの中身やポーチの中身もミニチュアで作ってみる?」

「えっ、そんな細かいことできるの?」

「できる、できる。水木さんのパスケースも」

 水木さんはちょっとビックリしたような表情になった。

「いいね、いいね。話がどんどん進んでいく!」

 和田さんは興奮しながらメモを取っている。

 この班でミニチュアを作るのなら、楽しくできそう。なんだか、楽しみになってきた!



 道具は美術の先生に相談すると、「全部買いそろえるわけにはいかないだろうから、美術室にあるものは使っていいわよ」ということになった。その後で岩田先生にも相談すると、「それじゃあ、うちのクラスとしては粘土を買うだけでいいってことか?」と、あまり興味なさそうに言う。

「あ、あと、ミニ、ミニチュアの家をつくる班は、ぼぼボードとか木材とかは買わないといけないかも」

「あー、消耗品は買うってことね。じゃあ、それぞれの班で何が必要になりそうなのか、大体いくらぐらいの予算になりそうなのか、オレに報告するように言っといてくれる?」

 えっ、それを私がみんなに言わなきゃいけないの? 先生じゃなくて?

「よよ予算って、どんなふうに、その」

「そんなのネットで調べたら、すぐに分かるでしょ? 児玉だったら、オレが言わなくても自分から、そういうの提案してくるよ。後藤も、文化祭の実行委員になったんならさ、それぐらい」

「いいいいえっ、わた、私は実行委員じゃありませんっ。実行委員は児玉さんと滝沢さんです。私はミニチュアをみんなに教える係で」

「あー、そうだっけ。まあ、どっちでもいいんだけど。オレは吹奏楽部にかかりきりになるから、児玉たちと話し合いながら、うまくやってよ」

 うまくやってよって、何を?


「岩田先生、いきなり学生に予算を出すように言っても、分からないんじゃないですか? うちのクラスはこういうシートを作って、記入してもらうようにしてますよ」

 隣の席の国語の尾野先生が、助け船を出してくれる。

「これでいいのなら、使っていいわよ。コピーして持って行って」

「あ、ハイ。ありがとうございます」

 岩田先生はあきらかに面白くなさそうな顔をして、職員室から出て行ってしまった。

「何か分からないことがあったら、いつでも聞きに来てね。私でよければ、相談に乗るから」

「えっ、いいいんですか?」

「もちろん。ミニチュア、楽しそうね。うちのクラスはみんな面倒くさがって、模擬店にするって。去年やってた先輩たちに聞いて、それをそのままマネするだけだって。みんなで決めたことだから、私も強く言えないんだけど。高校生活はたった3年間しかないから、今しかできないことをやったほうがいいと思うんだけどねえ」

 尾野先生はため息をついた。

「ごめんなさいね、こんなグチを聞かせちゃって。とにかく、私はそんなにすることがないから、いつでも頼ってね」

「ありがとうございます」

 何度も頭を下げて、職員室を出た。



「……って感じで、結局、どんな材料を使えばいいとか、お金がどれぐらいかかるかみんな分からないから、私がそれぞれの班の予算を調べなきゃならなくなって。その作業が大変。やっと2つの班の分が終わって」

「あらあら、大変ねえ。私が手伝えるのなら、手伝うけど。計算とか」

 最近、夕飯を食べながらおばあちゃんに文化祭の話をするのが日課になってる。

 ダイニングのテーブルの上には、おばあちゃんと一緒に作ったクロワッサンとおにぎりが豆皿に乗せて飾ってある。おばあちゃんはよっぽどミニチュア作りが楽しかったみたいで、天むすをキーホルダーにして職場のみんなに「孫と一緒に作ったの」って見せて回ったみたい。


「今のところ100円ショップで買えるものばかりだから、計算は大丈夫。どんな材料を使うかを考えるのが、一番大変かな」

「それは葵ちゃんしか分からないものねえ」

「もう自分のミニチュアを作ってられないから、老人ホームのおばあさんの家は、しばらく待ってもらうことにした」

「そうなの。相手はそれほど急がないから大丈夫って言ってくれてたんでしょ?」

「うん。でも、何もしないで待っててもらうのって、なんか悪い気がする。土日にちょっとずつでも進めたいなあ」

 おばあちゃんは嬉しそうに目を細める。


「葵ちゃん、すっかりプロのミニチュア作家って感じねえ」

「えっ、さすがに、そんなことないよ」

「それに、毎日学校の話もしてくれるから、嬉しい。文化祭は大変そうだけど、葵ちゃんがいろんなことを考えて成長していってるのが分かるから、おばあちゃんとしては嬉しい」

 私は照れくさくなって、お茶をずずずと飲んだ。

 おばあちゃんは、いつも私を喜ばせることばかり言ってくれる。

 もし、お母さんやお父さんにこんなことを言ってもらえてたら。私、もっとのびのび生きられた気がする。


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