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愛なんか、知らない。  作者: 凪
第2章 戻れない家
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一歩、一歩

 市原さんはすぐにミニチュアハウスをおばあさんに持って行ったみたい。

「ホラ、これ、おばあちゃん、すっごく感激してたの!」

 スマホの動画を見せてもらった。

 市原さんが車椅子に座っているおばあさんに「今日はお母さんにプレゼント。ジャジャーン」とミニチュアハウスを差し出す。おばあさんは、最初は怪訝な顔をしていたけど、だんだん「これ、うち?」と目を見開いていった。

「そう。お母さんが住んでた家」

「まあ……」

 おばあさんは目をパチクリさせながら、部屋を隅々まで見る。


「掛け軸まであるのねえ。ミケもいるじゃない。これ、この縁側にいるのって、もしかして」

「そう。お母さんとお父さん」

「まあまあまあ」

 おばあさんは眼鏡の奥の目を細めた。

「ここで、お茶を入れて、お父さんと一緒にテレビを観ていたわねえ。お父さんが定年退職してからは、再放送のドラマを一緒に観て、あの女優さんは昔はキレイだったとか、そんなたわいもない話をして」

 おばあさんはグスッと鼻をすすった。

「おばあちゃん、これで家のことをずっと覚えてられるね」

 男の子の声がする。市原さんの息子さんだろう。

「ホントにねえ。これを見てたら、家に帰ったつもりになれるわ」

 おばあさんはガーゼのハンカチで目を拭う。

「こんな素敵なプレゼント、ありがとねえ」

「これ、お母さんの知り合いの高校生の女の子が作ったんだよ」

「へえ、そうなの」

「その子ね、ほかにもこういうのをたくさん作ってるの! すごい才能なのよ」

「まあ、すごいわねえ。お礼を言っといてね。こんな素敵な贈り物、ありがとうって。長生きしてよかったって」

 そこで動画は終わった。


 私は、自分のミニチュアハウスでこんなに感激してもらえることに感激していた。今、鳥肌が立っている。

「よかったら、この動画は送るわね。記念にどうぞ」

「あり、ありがとうございます」

「こちらこそ。久しぶりにお母さんがあんなに喜ぶ姿を見られて、葵ちゃんに頼んでよかったって思ってる」

「そんな、そんな、私も嬉しいです」

「それでね、それを見ていたホームの入居者のご家族が、『うちのも作ってほしい』って言ってたのよ。どう? 勉強や部活で忙しいだろうから、ムリにとは言わないけど。もし作ってみる気があるなら、私が間に立って連絡するから、作ってみない? 料金も、伝えてあるから」

「えっえっえっ」

 思いがけない展開に、どう答えていいか分からない。


「葵ちゃんはここでバイトするより、ミニチュアでお金を稼いだほうがいいんじゃない? お節介かもしれないけど。これだけの才能があるんだし、自分の得意なことでお金をもらったほうが、やりがいがあるでしょ」

「ハ、ハイ、ええ、ええ」

「今はネットがあるから、高校生で起業してる人もいるんでしょ? 才能があれば、誰でもチャンスがあるってことよね。年齢も性別も肩書も関係ない。葵ちゃん、ポイッターとかミーチューブとかで自分の作品を公開したらいいんじゃない? 女子高生が作るミニチュアだったら、注文がいっぱい入るんじゃないかって、うちの息子たちが言ってた。息子たちは、ずっとスマホを見てるから、いろんなことを知ってんのよね」

 私は高鳴る胸を抑えられず、

「ありがとうございます。ミニチュアの仕事、やります!」

 と大声で言って頭を下げた。



 私のミニチュアで、お金をもらえる。

 そんなこと、考えてもみなかった。

 ミーチューブで顔を出すのはムリだけど、ポイッターで画像を投稿するぐらいなら、できるかも。

 その夜、私はさっそくアカウントを取ることにした。

 中学の時から、クラスメイトでポイッターを使ってる人はいた。でも、SNSはリア充の人しかやらないってイメージがあった。

 私なんて、つぶやくことが何もないし。

「美術部なう」とかつぶやいても、面白くもなんともないってことだけは、さすがに分かる。

 名前。何にしよう。本名を使うのはなあ……下の名前だけなら、バレないかな。

 ふとひらめいて、「あおい工房」と打ち込んでみた。うん。ちょっと本格的な感じ?

 プロフィールに「ミニチュアづくりが趣味の女子高生です。ミニチュアハウスやミニチュアフードづくりにハマってます」と打ち込む。うーん。面白くもなんともないなあ。まあ、後で変えればいいか。


 最初のつぶやきは何にしよう。

 しばらく迷ってから、市原さんのおばあちゃんのために作ったミニチュアハウスの画像を投稿することにした。

「知り合いのおばあさんのために作ったミニチュアハウスです。製作期間は約2か月。おばあさんが昔住んでいた家の和室です。ネコちゃんや床の間の掛け軸もリアルに再現してるって、とっても喜んでもらえました」

 こんな文章でいいのかな。まあ、いっか。投稿してみて、反応がなかったらアカウントを消せばいいし。

 思いきって投稿してみる。

 勢いでやっちゃったけど、おばあちゃんに相談してからのほうがよかったかな?


 そんなことを思っていると、おばあちゃんが帰って来て、夕飯の支度をすることになった。

 夕飯後、「そういえば、ポイッター、どうなってるんだろ」とスマホをつけると、「あなたの投稿にリツイートがありました」と表示が出た。

 慌ててポイッターを開けると、知らない人から、「すごい。細かいところまで作り込んであって、感動した。タンスの上の日本人形とか、懐かしい。うちのばあちゃん家にもあった」とコメントがついている。ほかにも、いいね!をつけてくれた人が7人、リツイートしてくれた人が3人。

 ええええっ。私のつぶやき、読んでくれた人、こんなにいるの⁉ ゼロかと思った……。

 信じられなくて、何度もコメントを読み返した。

「ありがとうございます。うちのおばあちゃんの家にも、日本人形あります」

 そんな簡単なコメントしか思いつかなかったけど、さっそく返信した。

 そのコメントにすぐに「いいね」がついて、「他の作品も見てみたいです」とリプがあった。


 えええええっ、嘘でしょ嘘でしょ!? こんなに早くリプをくれるなんてっ。しかも、他の作品も見たいとか、嬉しすぎる。

「ありがとうございます。これから、ちょっとずつ作品を公開していきます」

 そんなコメントと共に、幕の内弁当のミニチュアの画像をアップすると、瞬く間に「いいね!」がいくつかついた。

 嬉しい。嬉しい。嬉しすぎる。

 私はコメントを何度も読み返した。興奮のあまり、部屋の中をぐるぐる歩き回っていると、「お風呂入ったら?」と言いに来たおばあちゃんに、不思議な顔をされた。


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