婚約破棄から初恋を叶えて幸せになります♡
婚約破棄のテンプレストーリー!!
久しぶりに執筆しました。
よろしくお願いします♥︎︎∗︎*゜
2022.12.03日間 異世界恋愛13位!
「アイリス・フランディール!お前との婚約を破棄するっ!!」
友人と楽しく談笑していたアイリスは名前を叫ばれ、さらに突然に婚約破棄を宣言されて驚き声の主を見るために振り返る。
声高らかに宣言したのはアイリスの婚約者で侯爵令息のフィリップ・モントレーだ。ピンク色の髪に豊満な身体つきをした令嬢の腰を抱いている婚約者を視界におさめ、アイリスは扇子を開き口元を隠してため息を溢す。
学園の卒業式の後に開かれた夜会であり、卒業したことで成人したとみなされ、自身の発言や振る舞いに責任を問われる。貴族の一員となったその日に婚約者が突拍子もないことを宣言すれば、アイリスでなくても彼に嫌悪を抱くだろう。
(ご自身の立場も理解せずによくもまぁ...ここまで愚かな人だとは思いませんでしたわ。せめて個室で発言されるのでしたら、まだ、ご自身を守ることもできましたでしょうに)
呆れているアイリスには気づかず、フィリップは宣言したことで他の卒業生の動きが止まり自身が注目されていることに気を良くしている。
「アイリス!」
いまこの時だ。
そう思ったであろうフィリップが名前を叫ぶ。
「何か?」
公爵令嬢が大きな声を出して返事をする姿は見苦しい、淑女のすることではないと考えアイリスはフィリップの側へと近寄り、ゆっくりと、優しい声音で言葉を返す。
「婚約破棄だと言っているんだ!」
「それが何か?」
わざとだ。
わざと聞き返す。
「ア...アイリス様!そんな態度あんまりですっ!」
フィリップに腰を抱かれている、名も知らない、名を呼ぶことを許したこともない令嬢に呼ばれてもアイリスは応えない。
名を呼ぶことを許していると周りに思わせないためだ。
この場の主役を気取っている二人は忘れているのだ。既に貴族の一員として小さな社交界となる卒業式の後の夜会にいることを。
「リリカを無視するなっ!」
「まぁ!わたくし、彼女とは知り合いではございませんし名を呼ぶことを許したこともありませんの。なぜ、見ず知らずの他人に馴れ馴れしく呼ばれて応えなくてはいけませんの?」
当たり前に思う疑問を問う。
「そんなはずはない!!お前はリリカに嫌がらせをしていただろ!全て知っているぞ!」
全くの想定外の発言に驚きアイリスは大きな瞳をぱちくりさせる。
何もしていないのに何を知れるというのだろうか。
はて?と考えを巡らせるが全く思い当たるところがない。
(嫌がらせをする必要もない相手になぜ労力を割くと思っているのかしら。不思議な人だわ)
「そんな顔をしても無駄だぞ!」
この会場の者は全員、アイリスとフィリップに注目している。
「フィリップ様の仰っている嫌がらせというのがわかりませんの。私、リリカ様?という女性を見たのは初めてですもの。突然、妾候補を紹介されても困りますわ」
フィリップが妾を持てる立場でないことを知りながら『困ったわぁ』と頬に手を当てる。
「お前はリリカを噴水に突き落としたり教科書を破って捨てただろう。怯えながらもリリカが証言してくれたのだぞ!」
その他にもお茶会に招待しない、ドレスに紅茶をかけた、男爵令嬢で元平民だと見下したと、チッポケな嫌がらせを大罪かのように言いフィリップはアイリスを断罪する。
皆が注目していることに気をよくしたフィリップはこれでもか!と、ペラペラとアイリスの罪とやらを話している。
(うーん、舞台の脚本にもならないお粗末な出来だわ)
フィリップのつまらない話は今に始まった事ではないが、三流以下の物語に退屈したアイリスは扇子の下で欠伸をするほどだ。
「おい!アイリス!聞いているのか!!」
「アイリス様!フィリップ様を愛していないのでしたら解放してください!!」
「解放?」
「そうです!!アイリス様はフィリップ様を愛していないのでしょう!?次期公爵となるフィリップ様のお心を癒すこともできない方が公爵夫人だなんて気持ちが休まらないじゃないですか!!」
ぷんぷんといった効果音でも放たれているかのように頬を膨らませて怒りを表現するリリカと、ウンウンと頷くフィリップ。
その二人の様子にアイリスは驚いて何も言えない。周りに集まっている卒業生と貴族たちはヒソヒソと話し始めている。
「フィリップ様、婚約破棄は受け入れますわ」
「ふんっ!やはりな!リリカへの嫌がらせを認めるんだな!」
「いいえ、してもいないことを認めるなんて致しませんわ」
「なっ...今なら謝れば許してやるぞ!!」
「理由はともかく、このような場で婚約破棄などと仰る方とは関係を続けていくことは難しいと思いますの。ですから、婚約を破棄、いえ、白紙撤回の方向で進めさせていただきますわ」
「何を言っているんだ!お前がリリカへ嫌がらせをしたのに白紙撤回になるんだ。強がるな、今なら許してやる」
「いいえ、許していたいただく必要はありません。後ほど当家の当主からモントレー侯爵家へ申し入れさせていただきます」
見事なカーテーシーをしたアイリスは、その場から退場しようとした。が、手首を掴まれた。
驚いて見上げると怒りに満ちたフィリップの顔があった。手を振り上げているフィリップの、その姿を視界に捉えて反射的にぎゅっと目を閉じた。が、痛みを感じることはなかった。
代わりにぬくもりを感じられた。
暖かい、懐かしいぬくもり。
(あれ?いま、なにが?)
恐る恐る瞼を開けて見上げると、視界に映るのは金色の髪。
「モントレー侯爵令息だったかな?」
低い怒りに満ちた声音にハッとさせられる。
「な、な、なぜ貴方様がここに!?」
声の主に手首を掴まれたフィリップと思わぬ人物の登場に頬を赤らめるリリカの姿は対照的だ。
「なぜ?君はここをモントレー侯爵家の邸だと思っていたのか?」
「いや...あの...その...アイリスがリリカに嫌がらせをしていたので、自分の立場をわからせようと...その...」
モゴモゴと消え入りそうな声になるフィリップ。
「公爵令嬢であるという立場をわからせるためか?」
「アラン様!そうではありませんわ!アイリス様は公爵夫人に相応しくないということをフィリップ様がお教えて差し上げたのです」
悪びれることもなく発言するリリカを止めようとしたがフィリップは間に合わなかった。このままではまずいと思ったのか、リリカの腕を引くが、振り払われる。
「私はお前に名を許した覚えはない」
怒りに満ちたその声音に周りは静まり返る。
抱き留められているアイリスはなぜか安心している。
ヴィスタ王国の第二王子であるアラン・ヴィスタは、ただ静かに当事者である二人を睨みつける。
「モントレー侯爵令息と隣の女、何か間違えていないか?君はフランディール公爵家へ婿入りする予定なのだろう?」
アランの指摘通りだ。
公爵家の令嬢でありフィリップを婿として迎える側であるアイリスと侯爵家三男のフィリップでは立場が違う。
入婿のフィリップは跡継ぎとなる次代をつくるためだけに迎え入れられる予定であった。
爵位は一代飛びでアイリスの産んだ子供が継ぐ。必要ならばアイリスが代理公爵になる予定だったのだ。
「え?でもフィリップ様が次期公爵でしょう?」
「それはない。我が国の法では血を継いでない者は爵位を継ぐことはできない。入婿となるモントレー侯爵令息に爵位継承はあり得ない」
「なんでよ!フィリップ様は公爵になるって言ってたじゃない!!だから!!」
「リリカ?」
「もう!私を公爵夫人にしてくれるって言ったじゃない!!」
リリカはフィリップが公爵家を継げる立場であると勘違いしていたのだ。
その勘違いから自分が公爵夫人になるべく画策していた。
「もう!!公爵夫人になれないならフィリップ様なんていらないっ!!」
まるで幼子が駄々を捏ねているような姿に取り囲んでいる貴族たちは呆れている。
「リリカが公爵夫人になれるわけないだろ!アイリスをちょっと脅して愛人を認めさせて一緒に邸に住まわせてやろうと思ってたのに!アイリスを愛するつもりはないからリリカが子を産めばアイリスも後継にと泣いて頼んでくるだろうと思ってだな」
「何よそれっ!子供を産むまで公爵家で好き勝手できないじゃない!!」
ここが何処なのかを忘れているのか二人は醜く言い合いを始めている。
公爵家のこと、婚約のことを軽んじている二人の発言に呆れつつも第二王子の御前でこれ以上の醜態を晒す訳にはいかないとアイリスが動き出そうとするがアランの腕に力が入り動くことができなくなった。
「そうか、君たちはお家乗っ取りを計画していたということだな」
その言葉で我に返った二人はアランの方へと顔を向ける。
それでも互いに相手が悪いと言い出す始末だ。
「衛兵、この二人を連れていけ。フランディール公爵家の乗っ取りを企てた。モントレー侯爵令息は暴行未遂も追加しておけ」
アランの指示により二人は兵に連れて行かれるが、自分は悪くない、相手が決めたことなのだと最後まで悪足掻いている。
「アラン様...」
「アイリス、久しぶりの再会がこんな形になり申し訳ない」
「アラン様が謝られることではありませんわ!婚約者であったモントレー侯爵令息の暴走を止めることができなかったのは私の責任です」
フィリップに婚約破棄を突きつけられて前へと出たあの瞬間からアイリスは今後のフランディール公爵家について考えていた。
この瞬間の言動で社交界での立ち位置が決まってしまう。
卒業したのだから親を頼らず自身で解決せねばならなかった。
フィリップはフランディール公爵家当主であるアイリスの父親が会場から離れたタイミングを見計らって行動に出たのだ。
「ちょうどフランディール公爵と別室で話していたんだ。最近、モントレー侯爵令息が男爵令嬢と懇意であるから婚約の白紙撤回をしてはどうか、とね。そうしたら彼自身が婚約を望んでおらず破棄したいと言い出して驚いたよ」
アランは最近のフィリップとリリカの逢瀬を把握していた。親密であることからフランディール公爵家にとっては甲斐があり、王国のためにも代わりの婿を探した方が良いと伝えていたのだ。
「アイリス」
アランはアイリスから身体を離し膝をつく。
「アラン様?」
「私の妻になってほしい」
手の甲に口付けられていることに気づきアイリスは顔を真っ赤にする。
「あ...あの」
「アイリスの伴侶となりフランディール公爵家を盛り立てていきたい。代わりの婿を探してはいたのだが、どうにも、私以上の男が見つからなかった」
幼い頃から交流のあったアランはアイリスへの恋心を抱いていた。婚約者にと望む前にアイリスがフィリップと婚約したのだ。
誰と婚約するのか、それは婿を取るフランディール公爵家側に決定権がある。アランの恋心を知っていたフランディール公爵も一度は婿にと考えていたが爵位継承をさせることのできない公爵家への婿入りなど王家への侮辱と考えて打診をしていなかった。
「ですが...爵位は...」
「いらない、必要ない。アイリスの夫になりたいんだ。第二王子である私なら公爵位を賜ることはできる。だが私はアイリス・フランディールの夫になりたいんだ」
「アラン様...私でよろしければぜひ、妻としてください」
その瞬間、会場が沸き立った。
婚約破棄の断罪が行われた重苦しかった会場の雰囲気が第二王子からの求婚によって一変した。
(勝手に決めてしまったけど...お父様に報告を...)
アイリスが辺りを見渡すと父親であるフランディール公爵が友人である国王と乾杯していた。
(え????)
仲良さげにお酒を飲み交わす二人に内心突っ込みつつ、大嫌いな男との結婚を回避できて初恋の相手り望まれた幸せを噛み締める。
「すでに陛下にも許可は取ってあるから、私はいつでも婿入りできるぞ!」
どやっ!とした顔でアイリスを見るアランは幼い頃のままだ。
クスッと笑ってしまうが、幼い頃に夢見た未来を手に入れられて幸せを確信する。
11月30日に発売される『悪役令嬢が婚約破棄されたので、いまから俺が幸せにします。 アンソロジーコミック』に「記憶を失くした悪役令嬢」が掲載されています。
憧れのアンソロジー!コミカライズです!
ぜひ、お手に取っていただけると嬉しいです。
「記憶を失くした悪役令嬢」
https://ncode.syosetu.com/n8552gm/