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93.師匠の仕事 ***

 「――よく参った、フェイバル。我が息子、とはもう呼べないか」

 「だな。俺はあんたと血の繋がりもなけりゃ、あんたの理想の息子でもねえ」

 「そうだな。我々は決別したのだった」

 どこか悲しそうな表情を浮かべるのは総督・タクティス=リートハイト。フェイバルはその男のその顔色をちらりと目にしたが、相変わらずの冷たい態度で佇んだ。

 「んで、俺がここに呼ばれたのは今から怒られるからか? そんだけ?? 個人的にはそんだけだと嬉しいんだが」

 「そうか、それな良かったじゃないか。私は総督として厳重注意をするだけだ。別に罷免するつもりは無い。おまえはただ怒られる為にここへ呼ばれた」

タクティスは続ける。

 「ロベリア師団長にはまだ何も言っていないが、今回の作戦の報告書は明らかに改竄されていたな。それはお前が第三師団にそうさせたのだろう?」

 「……ああ、そうだ。俺が弟子に国選依頼を委託した。親父止めんのは、息子の仕事だ」

 「国選依頼の標的というは、概ねが危険度の高い熟練した魔法の使い手だ。おまえは無謀にも、そんな危険な相手と弟子を戦わせた。弟子を守るのが、師匠の仕事だろう?」

 「……いーや違うね。そもそもギルド魔導師でもないあんたが、ギルド魔導師を語るんじゃねえ」

 「父親の居ないおまえが息子を語るのもおかしな話だろう」

フェイバルは押し黙る。タクティスは一つ息を吐き、そのまま話を戻した。

 「もう少しだけ、大人になるんだ」

 「大人……ねぇ」

 「フェイバル、お前はあの日から騎士道を捨て魔導師としての道を選んだ。それなのに国選魔道師となって再び騎士と協力関係を持ったのは、お前自身の選択であろう」

 「お前は魔導師としての誇りを騎士へ押し付けた。結果はどうであれ、作戦の失敗率を上げたのだ。そして師匠と慕われるお前は、同時に愛すべき弟子を死の淵へとおいやった。お前は己の信条の為に弟子や街の人々を危険に晒し、騎士の矜持を小さく見た幼稚な男だ」

フェイバルはタクティスの長い話を聞き流し、分かりやすく適当な返答をした。

 「ああ、そうだ。俺は昔からそういう残念な人間だから」

そしてそのままタクティスへ背を向ける。

 「だが、あんたの言い分は一つだけ間違ってる。師匠の仕事は、弟子を守ることじゃねえ。魔導師と騎士の語る道が違うように、俺と俺の弟子たちの目指す道もまた違う」

 「師匠の仕事は、弟子が己の道を歩けるように支えてやることだ。例えそれがどれほど危険な道だろうと、己の犠牲をもって何かを成すような道だろうと、師匠が着いて行ってやる。俺はその仕事を全うした」

 「……それは随分と格好の良い師匠様だな。お前は我々騎士をいいように利用したということか」

 「こんな俺でも、生きてりゃ譲れねぇ選択肢くらいある。それがここだった。騎士を貶めたつもりはねぇ」

 「……分からんな」

 「騎士と魔導師は違う生き物だ。無理もねぇよ」

フェイバルは扉の方へと歩き始める。

 「もう十分怒られた。帰っていいか?」

 「……好きにしろ。だが忠告しておく。国選魔道師として仕事を続けるなら――」

 「それはもうこっぴどく聞いた。第三師団長様からな」




 日暮れ。ようやく玲奈とヴァレンは目的地・ミヤビに到着した。長かった車両警護任務は終わったものの、報酬の受け取りが明日になる為に今晩は宿で一泊する段取りである。

 「疲れたわねぇ……」

 「ふう。温泉久しぶりだ。もう一生入れないかとおもたわー」

 二人は備え付けの大浴場に足を運んでいた。露天風呂に浸かった二人は顔をとろけさせ、心地良い湯を堪能する。

 「……あれ? レーナさん温泉来たことあったの? ミヤビは初めてだって言ってたのに……?」

 「まあまあ。細かいことはいいじゃないのぉ」

 「……そうねぇ」

自然と語尾が緩む。玲奈は慣れ親しんだ文化を持つこの街に、ある種の懐かしさすら感じていた。

 石畳に竹製の仕切り。ほのかな湯の香りは、昔ながらの小さな銭湯を思い出させる。もはやどう考えても、辺りの環境は玲奈の知る日本だった。

 (なんか、戻ってきたみたい。時代はちょっとだけ古いけど)

玲奈は夜空を眺める。

 (そういえばこの宿に入るまでも……)

 幼き日に夏祭りで見たような、昔ながらの露店。温かみのある木造の家屋群。街行く人々の衣服も、そういえば一昔前の日本そのものだった。

 「レーナさん! レーナさんてば!」

ヴァレンのあまりに唐突な大声で、玲奈はぎょっとする。

 「うわぁ! なに?」

 「夜ご飯、海産物食べに行こ! この街は珍しく海に面してるから、安くて美味しいのが食べられるの!」

気付けばホームシックに陥りそうだった。でもそんな些細な心の曇りは、隣に居る友が振り払ってくれる。

 「うん。行こっか」

ヴァレンは腰を上げた。あまり発育の良さに少し嫉妬しながら玲奈も続く。

 (年下のくせに。いやぁ気づいてはいたけどね……何食ったらそんな凶器みたいな体型になるの?)

ヴァレンは訳も分からず玲奈を見下ろす。




 王国騎士団本部・第三師団棟。ロベリアは一冊の調査書の前で頭を抱える。そこに刻まれた文字、それは”革命の塔に関する調査報告書”。

 革命の塔、それは政権の転覆を目論むと噂される反政府組織の名。数ヶ月前に発生した革命の塔事件を契機に、未知の魔法を保有している可能性が示唆され、現在までずっと調査が進められていた。そして何よりもその組織は、フェイバルにとっては煌めきの理想郷(ステトピア)の一員・クアナ=ロビッツの死に関与した因縁の敵。

 「……現時点で所在の確認された支部が三カ所。それら全てに洗脳魔法を備えた子供が配備されているとしたら……さすがに第三師団(うち)だけじゃ手に負えないなー」

 ロベリアら第三師団は、着実にこの謎多き組織の全貌を掴みつつあった。間もなく、新たな国選依頼が始まる。

No.93 革命の塔事件


ギルド・ギノバスの依頼掲示板に偽の依頼書が掲示されたことを発端とする、ギルド魔導師無差別拉致事件の名称。また革命の塔とは、当該事件の犯人とされたジェーマ=チューヘルが所属する反政府組織の名称である。第3章~革命の塔編①~を参照。

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