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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第6章 ~泥中の狩人編~
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79.結ばれる狩人と導者 ***

 「おいアンヤ!! 今日は負けねぇ。俺の相手になりやがれ!!」

 「ええと、お前は確か……ユーニだっけか。瞬殺されといてまた来るとは、良い度胸じゃねーの」

 ギルドで出くわした二人は、また強気な言葉を交わす。男は威勢良く鳴いた。

 「俺が上だと教えてやる」

 「ばーか、諦めな。どっからそんな自信が湧いてくるんだか」

一触即発のムードの中そこに割って入ったのは、ギルドマスター・フェルマ。年齢のそぐわない派手な装飾品とサングラスが目立つその男は、自身の胸のあたりにさげたギターのフレットを握り、それで容赦なく一撃ずつお見舞いした。二人は壁まで吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。木造の壁は激しい音を立てて砕けた。

 フェルマはギターを降ろすと低い声で激昂する。

 「おいガキ共!! 前ギルドを滅茶苦茶にしたのはお前たちらしいな? 修繕費はお前らの今月の取り分からしっかり引いておく! 破産したくねぇならギルド壊すな!!」

 (マスター。今まさに自分の手でギルド壊してます……)

ギルドに居る誰もがそう思ったが、それを言葉に出す者はいなかった。

 フェルマはふつふつと湧き出る怒りに震える。

 「ったく。うちみたいな地方の魔導師ギルドは、どこも結構カツカツで運営してんだ。こっちの苦労も知りやがれアホ」

そう愚痴を零せば、ようやく気の済んだフェルマは奥の部屋へと消えてゆく。ギルドに張り詰めた緊張感は徐々に緩みだした。

 ユーニとアンヤはマスターが去ったことを悟り、ゆっくりと起き上がる。立ち上がって顔を合わせたとき、二人は出会って初めて意見が一致した。

 「……街の外でやろう」

 「……ああ。賢明だ」




 気づけば二人の手合わせは習慣になっていた。適当な依頼書を握れば、それを切符に検問を抜けて都外へと繰り出す。開けた場所で魔力駆動車を止めると、そこが二人の戦場だった。二人はそこで存分に暴れ、負ければ受諾した依頼を一人でこなす。取り分は折半されるので、二人は全力で戦った。なお、延々とユーニがその罰ゲームを受け続けているのは言うまでも無い。




 「……あ、起きた?」

 この日も結果は同じだった。耳に差し込むのはアンヤの声。ユーニはいつも通り目を覚ます。視界には青空を背景にこちらを覗き込む想い人。ここでようやく自分が敗北したことを知るのも、もう慣れたものだ。

 「またか……」

 「ほら、約束通りコレ依頼な。いつもどおり、取り分は折半だから」

依頼書を投げつけると、アンヤはユーニを煽るように笑う。ユーニは悔しさを噛みしめながらも、胸へ落ちてきた依頼書の内容を確認した。

 「ええと今回は……王都マフィア下部組織の捕縛任務? おいおい、また面倒なの持ってきやがって」

 「んあれ、そんなんだった? てっきり地味で面倒な車両警護で嫌がらせしようかなと……」

二人はしばしその依頼書を呆然と見つめる。申し訳なさに耐えきれず、切り出したのはアンヤだった。

 「あ、あたし……あたしが着いてく。その……悪いのはあたしだから」

 「……いいのか? 別に一人でも――」

 「……駄目。捕縛任務は魔法戦闘が絡む事案が多い。だからその、一人では……行かせない」

アンヤは口早に付け足した。

 「あたしもいつも仕事は一人だし……あんたもそうでしょ? ならさ、その……たまには二人の仕事もいいじゃん?」

その照れ隠しのようなような呟きに、ユーニは呆然とする。

 「じゃ……行くか。一緒に」

 「……うん」




 共にパーティーも組まずに一匹狼であった二人の魔導師は、そんな些細な契機から愛を育んだ。

 とあるギルド魔導師が依頼掲示板の前で呟く。

 「あれ? 最近妙に必要人数二人以上の依頼書が消えるな……」

それがきっと彼らのせいであることは、まだ誰も知らない。罰ゲームは、互いの密かな喜びへと変わっていた。




 長い月日が経った。彼らの不器用ながらも、順風満帆な日々は続く。

 依頼先で訪れた王都・ギノバス。男は決意を固める。安い宿屋から二人で夜月を眺めていたとき、ただ自然に、優しく。零すように呟いた。

 「アンヤ、俺と結婚してくれ」

普段は強情なアンヤでも、この瞬間だけはただ穏やかな笑みで頷いた。少し恥ずかしそうな表情のまま呟く。男勝りな彼女に、乙女が垣間見えた。

 「……い、いいの? 私で」

 「聞くな。当たり前だ」

涙声を恥じらったような囁きだった。

 「……う、嬉しい。もう死ぬほど、嬉しい」




 数週間も経てば、ウィザーデンにて式典が執り行われた。音の都には普段以上の音楽が賑わい、同じ運命を誓った二人を祝福する。

 式典に訪れたギルド魔導師たちは、まるでいつもの様子で騒ぎ立てた。

 「アンヤ、ユーニ! おめでとう!!」

 「破天荒夫婦! お幸せにな!!」

ギルドマスター・フェルマは酒を片手に、隣のギルド魔導師へと話しかける。

 「あのバケモノ魔導師が夫婦だ。どんなガキが生まれてくるかねぇ」

 「きっととんでもなく強情で、破天荒なのが出てきますよ」

 「ひぇーおっそろしぃ。もうギルド壊されんのは勘弁だ」

酒の入った二人は、お淑やかとは無縁に笑う。アンヤはその笑い声に振り返り、遠くから様子を窺った。

 「んだよあいつら、あたしの晴れ着がそんなおかしいか……?」

 「あのじじい共のことだ。どうせろくでもねぇ話してんだろうよ」

 「なら追い出して貰うか。品が無ぇ」

 「一応うちのマスターだ。勘弁してやれ」

二人は互いを向き合って微笑み。その会話はそれで途切れた。流れる続けるのは色彩に溢れた賑やかな音楽。そこからの二人は、ただそれにじっと耳を傾けた。この人生最良の瞬間を、決して忘れることのないように。

 ふとユーニは口を開く。

 「んでさ、その、大丈夫なのか? た、体調とか」

 「んぁ? ああ、大丈夫だぜ」

アンヤはそっと自身の下腹部を撫でる。ユーニは気恥ずかしそうに呟いた。

 「なんかその、分かんねぇな。俺みたいなろくでなしが、父親だっての」

 「いいじゃねぇか。あたしだってあんたと同じ。ちょっと魔法ができるろくでなしさ」

二人は目を合わせると幸せを噛みしめるように笑った。ユーニは涙声を隠そうとする。王都で夜月を見た日とは、逆の立場になっていた。

 「なんか、幸せってのはこういうこと言うんだろうな」

 「なんだよ急に? きもちわり」

アンヤは突然声を震わせるユーニを笑った。

 「あたしらは結婚してもギルド魔導師だ。この世界に生きるからには、絶対もっと大きな存在になる。そんでその背中を、この子に見せるんだ。だからユーニ、もっともっと上り詰めよう。そんでもっともっと……幸せになろう」

ユーニは涙を拭い払うと笑った。

 「ああ……もちろんだ……」

No.79 フェルマ=?


ギルド・ウィザーデンのマスター。色の入った眼鏡に入れ墨、派手に染めた髪が若々しいが、実年齢は四六歳(登場時)。副業はバンドマン。

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