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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第5章 ~小さな盗賊編~
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56.難航、そして語られる過去。

 二人は騎士から譲り受けた資料を読み漁る。そのときダイトはふと、積み上げられた紙の束から一枚の書類を抜き取り、それを胸の前へ引き寄せた。

 「レーナさん。どうやらこの資料、盗賊団の被害にあった店舗の一覧表みたいです」

玲奈はそれを受け取ると、その店の売り物の分類欄へ指を滑らす。

 「ええっと……宝石店に骨董品店。それから魔法具店……」

ダイトは玲奈が列挙した幾つかのデータを考察し、一言で端的に纏め上げた。

 「おおよそ高価な物が並んでいそうな店に目を付けて襲撃する、といった傾向ですね」

 「まあ、これが無難な盗賊って感じなのかな。知らんけど」

受付の騎士は助言する。

 「彼らは容姿を見るに、恐らくは王都貧困集落・ポンド街の生まれの子供たちです。子供であろうと、どうか気を緩めずに。彼らは子供ながらに、世界の不条理へ触れた者たちです。生きる為となれば、何をしてくるか分かりません」

玲奈は小さな声で絶望した。

 「……やっぱどんな依頼でも命懸けなのね……簡単そうなの選んだつもりが」

ダイトは臆さない。むしろ彼はまじまじと資料へ眺めるているうちに、少しづつ手がかりを掴み始めた。

 「見たところ、どうやら盗みの被害はほぼ全てがここピリック通りで起こっているようですね。ポンド街から最も距離が近い商店街ですし、何よりギルド・ギノバスからそこそこの距離がある。彼らを捕えようとやってくる魔導師たちも、比較的少ないのでしょう」

 「な、なるほど……とにかくピリック通りで粘り続けて、そこで遭遇するまで待つしかないのね」




 頭の切れる年下に感心したのも束の間、二人は詰所を後にした。闇雲であろうとも、まずはピリック通りを進む。

 乱立する店を横切っていくなか、ダイトはふと呟いた。

 「見たところ、ギルド魔導師を用心棒に置いているお店もありますね。それだけ盗みが頻発しているのでしょう」

 「え、ギルド魔導師が居るっての?」

 「はい。例えば、あの魔法具店に立ってるあの男性。彼は明らかに、相応のギルド魔導師ですね。商人に近しい装いで紛れ込もうとしていますが、周囲の警戒が徹底しています。目の動きが、洗練されています」

 「へー。私には全くだわ……」

 「でも残念ながら、用心棒に気づいているのは強盗団も同じでしょう。だから彼らはずっと捕えられずに、盗みを働き続けている」

 「……なるほど。じゃあ魔導師も舐められちゃってるわけか」

 「正直そう思います。でも逆を返すなら、奴らは同じ店を二度狙わずに、別の店を標的にするということでしょう」

 「まだ被害を受けていなくて、ちょっと高めの売り物を扱うお店が、最有力候補ってとこね」

 「そうですね。ただそれでもまだ店数は多いので、結局は片っ端から見て回るしかないのでしょう」

 「ひー。足で稼ぐとは、よく言ったものねぇ」 




 二人は商店街を歩きながらも、標的として有力な店へ目星を付け始めた。

 「ええっと、ここも魔法具店か。用心棒も居ないし、かつて被害にあったという情報も無い。候補だけど、もうこれで六つ目……私たちの目ん玉じゃ数が足りないわ……」

 「そうですね。どこかの店に目星を付けて待ち伏せするのは、流石に望みが薄そうです」

 「大通りを歩き回って、盗みが起こる前に見つけるしかないのかなー」

 「それが理想ですね。でもとりあえず、有力なお店の把握だけはやっておきましょう。こういう地道なのが、必ず生きて来るはずです」

 「そうね。些細な事象を観測出来る者だけが、真実に至れる。大抵のミステリー小説はそういうふうに出来てるのだから……!」




 ただし王都一の商店街・ピリック通りは伊達ではない。気付けば二人は、現地調査に相当な時間を費やしていた。

 「――ふう、やっとこれで一通りチェックできたわね!」

 「――ええ、ですが……」

二人が空を見上げたとき、そこへ広がるのは茜色。夕日はもうその体を隠し始めている。

 「資料によると、奴らが盗みをしでかす時間はおおむね午前中から昼下がりにかけて。この通りが特に賑わう時間帯です。今の時間では、条件的に厳しそうですね」

 「うーん、じゃあ本格的に動くのは明日からかなぁ。明日からの仕事に向けて、ギルドでご飯にしましょうか。私年上だし、奢ったげる」

 「いえ、魔導師としては自分が先輩ですし、ここは自分が」

二人は黙ったまま見つめ合った。玲奈はひっそりと地球のノリを感じてノスタルジーに浸りながらも、恐らく平和な提案をしておく。

 「普通に別で払おっか」

 「そうですね」

二人は初日の調査に終止符を打つ。ピリック通りを後にして、ギルド・ギノバスへ帰還した。




 カウンター席に腰掛けると、二人は各々に注文した夕食を口にする。

 「レーナさん、そういえば先のマフィア掃討作戦に参加したって聞きましたよ。もう大仕事こなしちゃうなんて、流石ですね」

 「い、いえいえ! そんなにたいしたことは……」

謙遜してみせるが、玲奈のニヤけは止まらない。

 「ガルドシリアン・ファミリーは長い歴史を持つ犯罪組織でした。自分が生まれるずっと前から存在していたと聞きます。それほど大きな組織を一日にして壊滅に追い込むなんて、本当に凄いですよ!」

 「え、えへへへ」

 (ほ、ほとんどフェイバルさんとツィーニアさんがやってのけたことなんだけどなぁ……)

恐らくはダイトもそれを理解した上で褒めてくれたのだろう。年下であるはずの彼が、先輩らしく映った。

 そしてダイトに感心しているうちに、ふと純然たる疑問が湧き出る。これほどにも誠実そうな青年が、どのような道を経て魔導師の世界へ飛び込んだのだろうか。今なら、それとなく聞いてみてもバチは当たらないはずだ。

 「……ところでさ、ダイトくんはどうしてギルド魔導師に? 憧れてた、とか?」

 「ええっと、それはですね……」

ダイトは誤魔化すように濁した。察した玲奈は言葉を付け足す。ただの出来心なので無理強いするつもりは無いのだ。

 「ああ、ごめんね。言いたくなかったらいいの。ほんの思いつきで聞いただけ」

 「……いいえ。この際です。お話ししますよ。それに明日からの仕事とも、少しだけ関係ありますので」

 「関係がある? 今日の依頼と?」

ダイトはその問いに頷き、ゆらりと身の上話を始めた。




 時は数年前。王都・ギノバスの貴族街にて。

 「――いってらっしゃいませ、お父様!」

一角に佇む、とある屋敷の玄関口。幼くも朗らかな声が響き渡った。

 「――ああ、行ってくるよダイト。家庭教師さんとお勉強頑張るんだよ」

 「はい!」

 「あぁ、そうだった。今日も母さんが体調を崩してるんだ。だから当分は、自室から動けない。感染症ではないから、暇なときにでも部屋に行って顔を見せてやりなさい。きっと喜ぶ」

 「分かりました!」

貴族の子として生を受けたダイトは、九歳にして勉強に追われる忙しい毎日を送っていた。




 「――次は歴史をおさらいしますよ。歴史への深い見知は、貴族として当然に持ち合わせなければならな教養です。決して怠らぬように」

女性の専属家庭教師は眼鏡を上げ直す。

 「は、はい……」

ダイトは机に山積みにされた書物から分厚い歴史書を抜き取った。慣れた様子で付箋の差し込まれたページを開く。

 「今日は、大陸戦争直前期からです。この時代のギノバス王国は――」




 そうして一日の授業が全て終わる頃になれば、もう夕日が部屋を暖色の光で満たしていた。貴族の血を継ぐということは、決して安泰の道ではないのだ。

 「――坊ちゃん、今日もお疲れ様でした。復習を忘れないように」

 家庭教師の女性は部屋を後にする。部屋に一人残されたダイトは、ただ呆然と窓の外を眺めた。怒濤の勉強量で忘れてしまっていたが、ようやくここで父の言葉を思い出す。

 「あ……お母様に会わなきゃ!」

少年は疲れを忘れたかのように、勢いよく飛び出した。行く先は、母の自室。

No.56 駐在騎士団の情報提供業務


駐在騎士団は警察組織であるが、ギルド魔導師が依頼を介して罪人の確保を請け負う機会も想定される。よって駐在騎士団は、ギルド魔導師の要望に応じて罪人の情報提供を行う業務を担っている。

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