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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第3章 ~革命の塔編①~
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28.岩魔法

 ジェーマは貨物車の荷台から飛び降りる。フェイバルはどこか恍惚に微笑む男から不穏な気配を感じつつも、ゼストルを指差して躊躇わず尋ねた。

 「こいつは、お前が自由に操れる人形ってことで間違いないんだな」

 「ああそうだとも。私の従順な配下さ」

想像通りの回答を手にしたフェイバルは、ふと機転を利かせて挑発する。

 「一つアドバイスだ。お前の最終楽章(フィナーレ)なるものが一小節で終演したくねーなら、その魔導師も使って俺に立ち向かうことだな」

その大胆な発言に、ジェーマはまた微笑んだ。

 「まったく君は面白い男だねぇ。忠告痛み入るよ」

そしてジェーマは余裕を見せるフェイバルに張り合うべく、すかさず配下へ指令を送る。ゼストルと運転手の男は、真っ直ぐにフェイバルへ狙いを定めた。

 フェイバルはジェーマが口車に乗ったことでふと安堵し、玲奈の方へと振り返る。彼は遙か後方で忽然と完成した岩山を指差すと、彼女へ指示した。

 「レーナ。とりあえずこいつら片付けるまで、あの岩山で待っとけ。俺が三人纏めて相手するから、お前がこいつらのヘイト買うことはねーだろうけど、あんま動き回るなよ。ここは一応都外だから、魔獣だって出てくる」

己の無力を理解していながらも、玲奈は持ち合せた良心からか言葉を紡いだ。

 「で、でもそれじゃフェイバルさんが……」

男は凜として返答する。

 「国選魔導師を、甘く見ないことだな」

その頼れる言葉に、玲奈が言い返せる余地は無かった。

 「わ、分かりました……」

そして玲奈は後方へと走り去る。普段は怠惰ながらも、戦場に立てば誰よりも頼れるその男を残して。




 フェイバルはジェーマに目を合わせると、いつもの緩い声色で合図を送る。

 「んよーし。いいぞ。どこからでも来いや」

ジェーマはフェイバルの思惑を見透かして語った。

 「やっぱりその女を逃がしたんだね。そんな回りくどいことしなくとも、私の狙いは君だけだというのに」

 「あーそうかよ」

 「それに私が騎士を殺したことで、殺生は禁忌とされるギルド魔導師の君にも、敵を殺すだけの理由が出来たことになる」

 「あーそうだな。そうそう」

適当に返答するフェイバルに対し、ジェーマは更に言葉を綴った。そこにはありったけのアイロニーを詰め込んで。

 「まったく魔導師というのは、随分とおかしな生き物だよ。殺しを禁忌としながらも、建前で殺しを是認する。正義とは都合の良いものなんだねぇ」

 「随分とひねくれた解釈だか、部外者にはそう見えるもんか。まあ今回ばかりは間違ってねーよ。お前らに私怨があるのは確かだ」

 「醜いものだね。本音、すなわちは明確な目的を元に人を殺す我々とは、全く別の生き物だよ」

 「安心しろよ。お前も俺も同じ人間で、同じ人殺しだ」

 「まあいい、初めから分かり合えるとは思っていないから」

そして皮肉めいた言葉が連鎖した中、ジェーマはそれを遮るようにして呟いた。

 「革命の塔よ……天を穿ち……世を導け……」

男はすかさずフェイバルを指差す。それを合図に、また二人の魔導師は動き出した。

 運転手の男は二丁の魔法銃で弾幕を張る。ただしその攻撃はあまりに無造作で、国選魔導師を討ち取るには至らない。無論フェイバルは、軽い身のこなしでそれらを易々と回避した。しかし回避を続けて辿り着いた先、立ち塞がるのはゼストル=ドレイクニル。男の繰り出した素早い剣戟は、フェイバルの腕を僅かながらも掠めた。先の弾幕は計算の上に放たれており、フェイバルを着実に追い詰めていたのだった。

 連携攻撃はフェイバルの想像以上に精密で狡猾に仕掛けられる。彼の知識に拠れば、例え誘惑魔法を行使しようとも、その対象をこれほど細やかに操作することは、困難を極めるはずだった。そして彼は確信する。ここで男たちを制御している魔法は、誘惑魔法よりも更に強力な効果を持つ、自身がまだ知らない何かであるということを。

 いまだ間合いから離れないゼストルは、流れるような剣戟を繰り出した。研鑽の痕跡が残る剣捌きが続く中、フェイバルは冷静に立ち回る。

 フェイバルは小さく後方へ踏み出すと、少しばかりの距離を作り出した。そしてその僅かに開いた距離こそが、本能的に剣士へ大振りを誘う。彼の培った戦闘の堪は例にも漏れず、この局面でも敵を容易く誘導した。

 大振りを繰り出したゼストルは、再び前傾したフェイバルに懐への侵入を許す。そのままフェイバルは男の伸びた腕を掴み、単純ながらもそのまま男を大きく投げ飛ばした。

 魔法を度外視した単純な格闘もまた、フェイバルの得手。体勢を崩したはずみで魔法剣を手放したゼストルは、あえなく攻撃手段を失った。

 そのときフェイバルは、すかさず鋭い蹴りを叩き込む。腹に一撃をもらったゼストルは、その場で小さくうずくまった。

 前衛と後衛に分かれた陣形を崩されたが為に、運転手の男は接近戦へと切り替える。男は二丁の拳銃を投げ捨てると、腰に携えていた短剣を手にした。フェイバルはその接近に気が付くや否や、咄嗟にゼストルの手放した剣を拾い上げる。

 「……ガラじゃねーけど、使ってみるかぁ」

 運転手の男は畏れもせずに接近し、瞬く間にフェイバルをその間合いに入れた。忽ちにして、刃は力強く振り下ろされる、しかしフェイバルは、握った剣でそれを容易く受け止めた。

 運転手の男は短剣を力任せに押し込もうとするが、フェイバルはそれに真っ向から抗う。得物の長さからも、フェイバルが圧倒的に優勢だった。

 そんな応酬の最中(さなか)、二人の側方から飛来するのは無数の岩塊たち。フェイバルは空いていた腕で防御魔法陣を展開すると、運転手の男もろとも岩の弾丸から身を守った。ただそれと時を同じくして、彼は運転手の男の足を大きく払うと、一挙に体勢を崩させる。剣を握った手を踏み付けてしまえば、易々と制圧が完了した。

 岩の弾幕が収まったと同時、フェイバルは防御魔法陣を解除する。砂埃が開けたとき、彼の瞳はジェーマ=チューヘルを捉えていた。

 岩塊を操った主であるジェーマは、顎に手を当てて興味深そうに呟く。

 「いやはや、面白いなぁ。己の命を狙うその男を見捨てないとは……国選魔道師とは慈悲深い生き物だねぇ」

 「こいつもどうせ、お前が一方的に操ってる魔導師なんだろう。見殺す理由は無い。まあ邪魔だし、暫くは動けないようになってもらうがな」

 フェイバルは押さえ込んだ男の手を蹴り上げ、握った短剣を吹き飛ばす。そして彼は、手にした魔法剣で男の足の腱を浅く斬り付けた。

 「……悪いな兄ちゃん、後から治癒魔法で治してもらってくれ」

 しかし運転手の男は足の腱が切られてもなお、まだフェイバルのへ交戦を試みる。周囲へ血を撒き散らしながらもこちらを睨むその姿は、異様とも思える執念だった。

 フェイバルは下げた視線をジェーマへと戻す。

 「……これだけ執念深く緻密な戦闘が出来て、なおかつさっきの奴との連携攻撃まで出来ちまう。どうやら誘惑魔法とは違う、もっと上位種の魔法らしいな」

 「ああ、そうだとも。まだ図鑑にも載っていない、言うなれば大陸未発見の魔法だね」

 「……それに妙だな。俺はこの魔法を見るの、もう二回目だ。しかも一回目のときも、確か俺はお前らの組織の名を聞いた」

 「さあ、そのへんは君が勝手に調べてくれ」

 「そうかよ。なら、当事者から聞き出すのが早いだろ」

そしてフェイバルは右腕を正面に突き出し、魔法陣を展開した。

 (光熱魔法・烈線(レーザー)――!)

 放たれた熱線はジェーマに向かって一直線に進む。その不意を突く一撃はあまりの速さ。一筋の光は、容易くジェーマの心臓に風穴を開けた。

 しかしジェーマの肉体がそのまま地面に伏すことはない。開かれた風穴から血を噴き出すこともなく、そこにはただ人間の形をした石像に、亀裂がほとばしるだけだった。

 「……岩魔法・偶像(スケープゴート)。身代わりを作る魔法は、汎用性に優れるね」

フェイバルの少し後方には、不敵に笑うジェーマの姿。そして男は、早くも次の手段に出た。

  「恒帝殿や、流星メテオは何どでも降りますよ……!」

 フェイバルの遙か頭上に出現したのは、またしても巨大な魔法陣。無数の巨大な岩の塊が降り注ぐのは、まだ記憶に新しい。

 「……同じ手か」

 フェイバルは終始冷静に空を仰いだ。雨の如く降り注ぐ大岩の回避など、並の魔導師には不可能だろう。ただそれをやってのけるのが、国選魔道師の格の違いというものだ。

 「光魔法秘技・神速(ライトニング)

 束の間フェイバルの足下に山吹色の重複魔法陣が現れると、彼は眩い閃光に包まれた。光が完全に肉体を包んだとき、フェイバルは目にも留まらぬ速度へと加速してゆく。

 光魔法秘技・神速(ライトニング)は術者の肉体を光へと変質させる。つまるところこの状態にある彼は、光速での移動を可能とする。また光は実体を持たないが為に、彼がこの魔法を行使しているときは、あらゆる物理攻撃を無効化することとなる。彼を国選魔導師たらしめるのは、こういった無敵とも思える魔法の手数があってのことだった。

 フェイバルは光速をもって、墜落する岩塊を瞬く間に回避した。その光景はジェーマに純然たる驚きをもたらす。

 「おお、久しく見たぞ! これが魔法の極地!! こりゃあいいものを見た!!」

しかしその驚愕は決して絶望によるものではなく、単なる好奇心から噴き出した興奮に過ぎない。男の瞳は、再び狡猾なものへと回帰する。

 「……秘技魔法というものは、魔力消費が激しい。持続時間も長くはないだろう」

 二度目の岩塊の雨が収まり、立ち込めた砂埃も静まりつつある頃。フェイバルの体を纏う光は役目を終えて消失する。

 フェイバル秘技魔法をもってして、岩の下敷きになる運命を回避した。それでも気付いたとき、彼が立つのは最凶の悪路。ジェーマの計算高い魔法は、精密にフェイバルを包囲していた。

 ジェーマはフェイバルから相当の距離を保ちながらも、その精密な魔法を成功させた。男は悦に浸り、独り言を零す。

 「そろそろだろう、フェイバル=リートハイト殿。秘技魔法には至れぬとも、私が人生を賭け磨き上げてきた岩魔法の神髄を、とくと見てもらおうじゃないか」

No.28 光魔法


眩い光を操る発現魔法。魔法陣の色は山吹色。単に光源を生むだけの魔法である為に殺傷力は無いが、戦闘では目眩ましの手段として活躍する。

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