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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第3章 ~革命の塔編①~
27/203

25.囮作戦

 「即日の依頼なら、あのリーゼント野郎はこれから直ぐに依頼主と合流するはずだ。レーナ、あいつ尾行すんぞ」

 「は、はいっ!」

 フェイバルは慌ただしく腰を上げる。男は続けざまに、ワイルとケティへ指示を下した。

 「お前ら、掲示板に怪しい依頼が出回ってることを受付の嬢ちゃんたちに伝えといてくれ。車両警護、即日、一人。こういうクセーのは、一旦全部取り下げだ」




 ギルド・ギノバス近辺。ゼストルは飄々とした態度のまま、王都の中心から離れた地区へと進み始めた。

 車両警護依頼というものはその特性上、王都と都外を繋ぐ検問付近がたびたび依頼主と魔導師の合流地点として活用される。故に尾行目標の男もまたその近くを目指すわけだが、どうも彼は徒歩でそこへ向かうようだ。

 ゼストルから数メートル背後。フェイバルは、ふと愚痴を零した。

 「なんだ、歩いて行くのかよこいつ」

 「……みたいですね」

 「旅客車の代金くらい払えっての。俺が払ってやるからさ……」

 「フェイバルさん、真面目に尾行してください」




 そこからゼストルは、相当の距離を歩んだ。賑わったギルド近辺からは随分と離れ、街行く人も比較的少なくなってくる。

 貧弱な玲奈はふらふらと歩きながらも、なんとかフェイバルの背中を追った。

 「うぅ……そろそろ死ぬ……私は生粋のインドア派なんですから、もう許して」

 「おいレーナ、真面目に尾行しろ」

 「……はい」

 取り留めも無い小言を零しているそんな最中(さなか)で、ついに目標は動き出す。フェイバルの足は寸暇のうちに止まり、男は瞬く間に側方へ踏み出した。気が緩んでいた玲奈は一歩遅れながらも、彼と同じ物陰へ潜む。

 「止まったな」

 「……ですね」

 フェイバルはちらりと顔を出し、ゼストルの様子を伺った。ゼストルは立ち止まったまま懐中時計で時間を確認する。どうやらこの辺りが目的地らしい。

 「ここが待ち合わせの場所みてーだ」

 「ほうほう」

玲奈も物陰から顔を出して男を確認してみる。フェイバルはそれをぐっと押し戻した。

 「ぐふっ……な、何するんですか……」

 「いや、お前それすると、何かバレそうだ」

 「……わ、分かりました。なら、お任せしますよ」

 玲奈は少しだけ不貞腐れてその場に座り込む。物陰にもたれかかると、自然と来た道の方角を眺めることとなった。

 魔力駆動車がすれ違うには、そこそこの神経をすり減らすくらいに細い道。やや古びた煉瓦調の建物が割合を占める町並み。ここでふと玲奈は、どこか妙な既視感を覚えた。

 「……あれ、この景色どこかで……どこだったかな。流石にこんなとこ歩いたのは初めてなはずだけど……」




 暫くの時間が流たとき、遂にゼストルは動いた。フェイバルはそれに反応し、小さく声を漏らす。

 「おっ」

 「なになに? 何かありました?」

玲奈はフェイバルの反応に気付くと腰を上げた。本当は何が起こってるのかこの目で確かめたいところだが、フェイバルの足を引っ張るわけにはいかない。だから彼女は、大人しくフェイバルから現場の実況を求めた。

 「実況……実況……!」

 「んーと、妙な男と話し始めたな。貴族みてーに着飾った、小太りの奴。話の内容までは聞き取れねーけど、恐らくは依頼人だ」

フェイバルの実況は続く。

 「近くには貨物車もある。あれで移動するみてーだ」

そのときフェイバルは視線を男たちから逸らし、玲奈の方へと顔を引っ込める。そして男は、玲奈へ指令を託した。

 「もしあの車が検問を抜けて王都外に出ちまえば、こっちも車が無いと追えなくなる。あいつらが依頼内容の打ち合わせしてる間に俺は車を探してくっから、代わりに見張っといてくれ」

 「え、いいんです? 私で」

 「嫌だけどいい。でもあんま凝視するなよ。何かやましいこと企んでる奴ってのは、驚くほど視線ってのに敏感だ」

 「分かりました。けど、今ここで捕まえたら駄目なんです?」

 「出来ることなら、奴の本拠地を炙り出したい。そこにギルドの奴らの捜し人が居るかもだろ」

 「な、なるほど。分かりました……!」

 フェイバルは玲奈の元を離れると、ゼストルから視認出来ない方向に伸びた路地を使い、巧妙に来た道を引き返した。玲奈はフェイバルから代わるようにして、物陰から顔を出す。するとそのとき、玲奈は今まで感じていた既視感の正体にとうとう気付いた。

 「ま、待って。これ、今朝私が見た夢じゃん……!」

玲奈は驚きのあまり、そこで呆然とする。それほどまでに、その光景が夢と酷似していたから。

 「予知夢……ってやつ……? でも、なんで……?」

 その混乱の渦中に、男たちは次の行動へ移る。会話を終えた二人は、フェイバルの帰還を待たずして車両へと歩み出した。

 男はゼストルを貨物車の荷台部分へと誘導する。ゼストルは言われるがまま、男に連れられ荷台へと乗り込んでしまった。

 「や、やばい! 発進しちゃう――!」

魔力駆動貨物車からは、駆動音が鳴り始める。運転手が車を走らせるべく、魔力充填を開始した証であった。

 「フェイバルさん……! 早く……!!」

 魔力駆動車というのは優秀で、その大きな車両は間もなくして発進を始めた。それでもここが細い道であることが功を奏したようで、まだ速度は遅い。しかしそれでも着実に、貨物車は玲奈の視界から小さくなってゆく。

 そのとき、車に乗ったフェイバルはようやく帰還した。しかし既に目標の貨物車は道を曲がり始め、大きな道へ出ようとしている。ここを追いつく前に曲がり切ってしまわれれば、また見つけ出すのは困難だろう。

 そして更に、問題がもう一つ。フェイバルが運転している車に刻まれたのは、もう見慣れつつある騎士団の紋章。それは言うなれば、きっとパトカーのようなものだろう。

 「フェイバルさん! それ、絶対騎士団の車ですよね!? 勝手に持ってきちゃったんですか!?」

 「か、借りてるだけだ(嘘)! 速く乗れ!」

玲奈は少し憚られるが、仕方なく車に乗り込む。フェイバルは車に魔力を急装填し、直ぐに速度を上げた。



 

 結局目標の車両は先に道を曲がり切り、大通りへと出てしまった。車両の多い検問近くの道となれば、似た形状の大型車両も増える。

 紛れ込まれてしまえば、もはや探し出す術は無い。助手席に乗る玲奈は、恐る恐るドライバーへ尋ねた。

 「……見失っちゃいましたけど、見当付いてるんですか? さっきの車がどこへ向かったのか」

 「どこって、検問だろ」

 「とはいえ検問を出てしまえば、そこからは無数に行き先があるんですよね?」

そこでフェイバルはふと見解を述べる。彼はこう見えて、仕事なら頭が切れるのだ。

 「こっち側の検問を抜ける車は、ほとんどが貨物車だ。工業が盛んなダストリンの方角だからな。あいつらが普通の駆動車じゃなくて貨物車に乗ってるのは、目立つこと無く検問を突破する為。それほどの理由が無けりゃ、わざわざ図体のでかい貨物車なんて使わねえ」

 「な、なるほど……じゃあ、あの車はダストリンに向かっているんですね」

玲奈は聡明なフェイバルに感心する。ただそのとき男の表情は、少しばかり曇った。

 「……だが、一つだけ問題がある」

玲奈は伝染したように眉をひそめた。

 「それは一体……?」

 「生憎だか。盗難車じゃあ検問は抜けられない。騎士団の車両だから、一目瞭然ってやつだ」

 「や、やっぱ勝手に持ってきたんじゃないですか!!」

 事態は最悪。後先の事は、もはや考えたくない。全ての責任をフェイバルが負ってくれるものと信じながら、結局フェイバルと玲奈はそのままの車両で検問へと並んだ。

 ダストリン方面の検問は多くの貨物車が利用するためたびたび渋滞が発生する。それが好転してか、フェイバルたちの車の前に並んだのは、見覚えのある例の貨物車だった。

 「……意外と何とかなるもんだな」

 「……ですね」

そのときフェイバルはハンドルから手を離してリラックスしながらも、ふとして真剣な声色で呟く。

 「レーナ、検問を抜けたら銃を出しておけ。俺の勘だけど、多分戦闘になる」

 「んえ? え、えっと……分かりました……でもその戦闘の前に、私たち逮捕されませんかね?」

No.25 フェイバル=リートハイト2


基本的にモラルが欠如している。特に騎士へ迷惑が掛かる行為についてはその傾向が強く、師団長のロベリアという存在に甘えている節がある。天は二物を与えなかった。むしろモラルという一物を奪い去っている。

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