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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第3章 ~革命の塔編①~
26/203

24.不穏な依頼

 ――気が付くとそこは、ずいぶんと人気(ひとけ)の少ない細まった路地だった。建物の雰囲気と街全体を包む見慣れた高い塀が見える点から察するに、所在地は王都・ギノバスで間違いないだろう。

 少し離れたところには、名も知らぬ男の姿があった。男は腰に剣を携えているが、形式ばらない身なりからして、騎士ではなさそうだ。そうとなれば、恐らくはギルド魔道師だろうか。

 その男の傍には、貴族のような風貌の男が近付く。眼鏡の奥の鋭い目が特徴的な小太りの男は、物腰柔らかに言葉を交わしているようだった。そしてそこからそう掛からぬうちに話を終えた彼らは、そのまま近くに停めてあった魔力貨物車の荷台へと乗り込んでゆく。

 突然にも、そこで記憶は途絶えた。




 景色は突如として一変する。目の前に広がるのは、見慣れた自室の天井。ここで玲奈は自分が妙な夢を見ていたことに気が付いた。

 「何か、嫌にリアルだったなぁ……」

 魔法銃を購入して数日後のこと。玲奈は目を擦りながらも、どうにかベッドから体を起こした。時計は朝八時を指している。

 ベッドから出れば、まずは窓際のデスクへ向かった。ふと窓の外の相変わらずな快晴を見れば、ここ最近どんどん暑くなっているのにも納得出来る。

 玲奈はデスクにある水の張った桶を持ち上げた。昨晩に、魔法の練習と避暑対策を兼ねて作ってみた氷の塊は、一晩を越した末に溶けてしまっている。

 「……エアコンとか、無いですよね」




 玲奈は一階の居間へと降りた。そこではいつも通り、フェイバルがソファーですやすやと惰眠を貪る。彼女はだらしない男を横目にバルコニーに出ると、桶の水を勢いよく撒いた。古典的な猛暑対策を施して室内に戻れば、その水の音のせいか、そこでちょうどフェイバルが目を覚ます。

 玲奈は先手を打って挨拶した。

 「あ、フェイバルさん。どうもおはようございます」

 「おう」

ぐっと体を伸ばす男の快眠ぶりを見て、そこで玲奈は一階が妙に涼しいことへ気が付いた。

 「……あれ。何か私の部屋と快適さが違うんですけど」

 「あれ? 使ってねえの、空調魔法具。部屋に備え付けてあんだろ」

エアコン、ほんとにあった。




 二人は朝食を摂るべく、ギルド・ギノバスへ赴いた。

 カウンター席に腰掛け、コーヒーと一緒にパンを頬張る。この世界でパンは主要な炭水化物らしく、ギルド食堂でもかなり安価な部類だ。社畜の彼女がかつて愛した惣菜パンより少し固くてパサつくが、それでも十分に美味しい。

 食事には満足ながらも、やはり横に座る男は目立つ存在らしい。遠くからは、度々にして見知らぬ声が掛けられた。

 「――おおっ、恒帝様だ」

 「――本物見たの初めてかも」

フェイバルはそれを構わず、ただパンに食らい付く。ただその視線に不慣れな玲奈は、ふと男へ尋ねてみた。

 「フェイバルさんってあんまりギルドに顔出さないんです? 相当レアキャラ扱いされてますよね」

 「……まー、少し前までは国選依頼で弟子と待ち合わせるくらいの用途だったからな。お前に会ってからは、来る頻度増えたかも」

 「へー。まあ国選依頼は、結構がっぽり貰えるって話でしたもんね」

男はあえてそれを肯定せず、またパンを食らう。

 玲奈はここぞとばかりに話を聞き出そうと思い立ち、また別の話題を持ち出してみた。

 「フェイバルさん。確か現役の国選魔道師は、三人いるって話でしたよね?」

 「ああ、そうだな」

 「フェイバルさんと……あとツィーニアさんで二人。もう一人はどんな人なんです?」

 「もう一人は、俺よりずっと前から国選魔道師として働いてる男だ。今は長期の仕事で、ここ何年か王都を離れてるらしい」

 「ああ、だからメディナルの緊急召集にも応じてなかったんですね」

 「……そうだな」

 「それで、どんな魔法を使うんです?」

 「……興味津々なとこ悪いが、そいつに興味を持つのはあんまり――」

フェイバルが肝心なことを話そうとした矢先、突如現れた男性魔導師は玲奈の話し相手を奪い去る。

 「――恒帝様! あの、うちのパーティメンバー見てませんか? 一昨日からずっと戻らなくて!!」

あまりギルドに顔を出さないフェイバルに、そんなことを尋ねようとも意味は無い。どうやら突如現れた男は、随分と取り乱しているらしい。

 フェイバルは突き放すように応じた。

 「知らねーよ。てか逆に、何で俺が知ってると思ったんだよ?」

 「だ、だって恒帝様は休日になると、だいだい街中をふらついてるって聞いたので……!」

 「いやまぁ、そりゃそうだけども……」

そのとき近くで二人の会話を耳にしていた女性の魔道師もまた、二人の話へと割り込んだ。行方不明者の捜索という共通点に反応したようだった。

 「私の恋人も帰って来ないの……依頼を受けたっきり、連絡が途絶えて……!」

時を同じくした行方不明者ともなれば、フェイバルには嫌な予感が走る。彼は遂に聞く耳を持ち、女へと尋ねた。

 「……依頼って、どんな依頼だ?」

 「た、確か……大型貨物魔力駆動車の護衛任務だって……」

すると男の魔道師は、女の言葉に反応を示した。

 「ねえ君、それ本当か!? 俺のパーティメンバーも同じような依頼を受けたっきり、帰って来なくなったんだ!!」

 ここまで事の背景が揃ってしまえば、それが偶然でないことは明らかだった。フェイバルは厄介事を前にして頭を掻く。

 「……こりゃどうもクセぇな。お前ら、居なくなった奴が受諾した依頼書は、複製されて受付の嬢ちゃんが預かってるはずだ。事情説明して借りてこい」




 暫し経てば、フェイバルの前には二つの複製された依頼書が並んだ。男はそれを読み上げる。

 「至急、王都ギノバスから特別自治区ミヤビまでの護衛任務。人数は一人。指定の場所で落ち合った後、そのまま移動を開始。即日の依頼か」

 「こっちの依頼書は目的地が違うだけで、他の内容は全く同じです!」

 ワイルと名乗った男性魔道師は、少しばかり震えた声で呟いた。フェイバルはそれに共感し、そこで難色を示す。

 「大型車両の護衛任務に一人ってのは、どうも不自然だ。それにミヤビなんて超僻地までの護衛を、即日で依頼するなんてかなり無茶苦茶だな。報酬も相場より随分と高い。無茶苦茶な目的地と条件は、きっと高い報酬と辻褄を合わせる為に設定したんだろーな。駆け出しの魔導師は入れ食いだろーよ」

そしてフェイバルは指示を飛ばす。

 「レーナとそこの女魔道師、ケティって言ったか。まだ依頼ボードに、これと似たような内容の依頼があるかもしれん。探してくれ」




 玲奈はようやく落ち着いたケティと共に、依頼ボードに貼られた依頼書の内容を片っ端から確認し始めた。

 「……えーと。ダストリンまで。魔法貨物車の護衛依頼で魔道師三人。違う……」

 「魔獣討伐依頼……違う……」

 そしてしばらく読み進めていれば、フェイバルの読み通りに目的物が見つかった。

 「……急募、ダストリンまでの車両護衛任務。人数は一人。指定の場所で落ち合った後に、そのまま移動を開始。これは……!」

そして玲奈は、その怪しい依頼書をボードから剥がそうとする。しかし偶然にも、玲奈より僅か先に伸びる手が一つ。

 「あ……」

 「ん……? 何だチビ女。この依頼は俺が受けるんだ。どいたどいた!」

現れたのは、金髪のリーゼントが特徴的な男。腰にまだ新しい剣を備えているあたり、若手の魔導師だろう。

 玲奈は咄嗟に言い返した。

 「チビって言うな、この昭和ヤンキー崩れが! ……じゃなくて、その依頼は受けないでください! それと似た内容の依頼を受けた人が、行方不明になってるんです……!」

ケティも微力ながらそこへ加勢する。

 「わ、私の恋人もそれで……!」

しかしその男は厄介にも、かなり横暴であった。二人の主張は虚しくも一蹴される。

 「知るか。俺はギルド魔道師をもう五年やってる。護衛依頼ごときでヘマするような間抜ねじゃねーんだわ」

そして男は自信満々に言葉を重ねる。

 「おい女ども、ゼストル=ドレイクニルの名を覚えとけ。俺はいずれ国選魔道師になる。媚び売っとくなら、今のうちだぜ? まあお前ら弱そうだし、パーティには入れねーけど!」

 そうして乱暴な男魔道師は、玲奈よりも一歩早く依頼書をボードから剥がす。男はそのままカウンターへ向かい、受諾の手続へと進んでしまった。

 玲奈は己だけで男を止めるのは難しいと判断し、すぐさまフェイバルのもとへ駆け付ける。焦りながらも、どうにか事情を説明した。

 「フェイバルさん! あいつウザいです……じゃなくて、依頼書持ってかれちゃいました!! どうしましょう!?」

男はそのリーゼント頭をちらりと一瞥し、特に焦らす返答する。

 「大丈夫だ。というかむしろ、都合が良いじゃねえーの」

 「ええ!? あの人見捨てるってことですか!? あいつあまりにもウザいですけど、流石にそれは……」

 「違ぇよ。尾行すんだよ。あいつには悪いが、餌になってもらおう」

No.24 依頼受諾システム


ギルド魔導師は、依頼掲示板に添付された依頼書から依頼を自由に選択することが出来る。受諾する際は掲示板から任意の依頼書を剥がし、それを受付へと提出する。このとき依頼書はギルドの事務担当者によって複製・保管され、原本はギルド魔導師へ返却される。このとき原本にはギルド事務から押印が施され、ここでようやく受諾が成立する。なおこのとき、依頼人には受諾がなされた旨が通知される。

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