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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第9章 ~魔導師と侍編~
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189.天の理 *

 天理魔法。その魔法の行使に失敗したとき、術者の生命には重大な損害が及ぼされる。それゆえ魔導書にその魔法の子細を記すことは許されず、検閲によって発禁処分が決定されるほどの要素ともなり得る。行使することで一時的に自我を失い、精神と肉体その全てを魔力そのものへ委ねることとなる誘惑魔法秘技・自律(コントロルフ)もまた、先述した魔法の一類型であった。

 それでもヴァレンは、自らの鍛錬でその魔法を築き上げた。危険を承知で、その魔法に手を伸ばした。それだけの覚悟が、魔導師たる彼女にはあった。

 束の間、ヴァレンは左手を無防備に差し出す。それは明らかなる隙。忍は見逃すことなく、握った暗器を差し向けた。

 鋭い刃はヴァレンの掌を真っ直ぐに穿つ。忽ちにして鮮血が白い肌を染めた。しかしながらそれもまた、彼女を操る魔法の描いた一幕。彼女は自律的に治癒魔法を行使することで、直ぐに止血へと至る。

 素早く修復された筋繊維は、暗器を強力に絡め取った。それを強引に引き抜くか、はたまた手放すか。一人の忍は、判断を迫られる。そしてその選択の(いとま)こそ、ヴァレンが形勢を傾けるに足る起算点。彼女の銃は、真っ直ぐに忍の腹を撃ち抜いた。

 直後ヴァレンを背後から襲うのは、もう一人の忍の魔の手。男は手にした暗器を振り下ろし、彼女の背中を引き裂いた。

 ただ噴き出す血は、やはり直ぐに鎮まる。裂傷が修復されるのは、そこから数秒も経たない頃だった。

 そして束の間にして、ヴァレンは反撃の一手へと踏み出す。彼女は愛銃の銃口を自らへ向けると、躊躇うことなくその引き金を引いた。

 魔法弾はヴァレンの肩を貫通する。しかしそこで弾丸の勢いは止まらず、凶弾は背後に残る忍の胸部へと飛び込んだ。

 自傷すら躊躇わぬ一撃。常軌を逸した攻撃に、忍は反応出来ない。二人の忍は、瞬く間にして誘惑魔法秘技・自律(コントロルフ)へと屈した。

 肩に空いた風穴は、早急に修復される。桃色の魔法陣を宿した瞳は、一瞥した敵を直ぐに葬る。魔に堕ちた者たちは、魔に委ねた者の狂気に震撼した。

 そして魔に堕ちた侍もまた、刃を交える。火花を散らしたのは、メイの太刀とアズマの防御魔法陣。アズマが太刀を抜かずに対応したのは、明らかなる挑発であった。

 束の間、メイはその防御魔法陣によって弾き飛ばされる。そのまま彼の体は宙を舞った。

 刹那、襲い来るは砂塵魔法・放射(ラディエート)。変幻自在の砂嵐は、その身を捩って真っ直ぐにメイを狙う。

 しかしながらその砂嵐は、側方から差し込んだ火炎の一薙ぎによって相殺された。それを成した者こそ、雅鳳(がほう)組副長・リオ=リュウゼン。煌々と燃える炎を纏った太刀は、鳳凰の片翼すら想起させる。

 「……炎魔法・装甲(アーマー)

 そしてリオはメイと入れ替わるようにして、敵前へと駆け出す。太刀に纏った炎は雄大に揺れ、その刀身を最大限に膨らませた。

 まだ刃それ自体は届かずとも、滾る炎は敵を射程に捉える。振り放った一振りは、さながら灼熱の鞭と化した。

 迫真の太刀筋を前にして、アズマは遂に太刀を抜く。流れるような抜刀から、強烈な一閃へ。男の剣技は、易々とリオの炎を両断した。

 ただ一振りに費やした寸暇こそ、リオが前進する為の猶予となる。彼は畏れずに太刀を切り返し、互いの刃が交じる至近距離へと足を踏み入った。

 アズマは直ぐにそれへ反応し、剣戟へと応じる。代償魔法の衝突は、双方の太刀を軋ませた。

 甲高い金属音から僅か、互いの愛剣は同時にその刃を(こぼ)す。そこからそう経たぬうち、二本の剣先はその両方が一斉に弾け飛んだ。

 刀を重んじる侍だからこそ、彼らにとってそれを損なうことへの動揺は大きい。ただその渦中でも怯まず行動したのは、アズマ=サカフジ。男は咄嗟に太刀を捨てて脇差しを抜くと、その刃をリオの顔面へと突き放った。

 リオは遅れて反応し、必死に身を捻る。しかしながら脇差しの刀身は、リオの頬を大きく抉った。

 頬は裂け、多量の血液が滴る。ただリオはそんな負傷をもろともせず、次なる手を仕掛ける。身を捻った動作のままに繰り出すは、薙ぎ払うような一蹴り。炎魔法・装甲(アーマー)を宿したその一撃は、生身で防御するアズマの腕を焼き尽くす。顔面の大怪我を許容したからこその、僅かながらの報いになる。そのはずだった。

 砂塵魔法・装甲(アーマー)は風圧と砂の遮断性をもってして、効果的に炎を消し去る。結果アズマの腕に残ったのは、リオが生身で繰り出した一発の蹴りのみ。片腕でそれを防ぎきるには、あまりに容易い攻撃だった。

 絶体絶命。そのときアズマの背後からは、鉄魔法・弾丸(バレット)が飛来した。正面を向いたままの男は、それを視界に捉えられない。ただそれでもなお、男の無動作魔法陣はその背を守り、容易く奇襲を制する。

 奇襲は潰えようとも、それはリオを近距離戦の土俵から離脱させるだけの猶予を与えた。

 顔に大怪我を負ったリオの選択は、悔しくも一度後方へと退却する。メイに救われた命だからこそ、無碍には出来ない。

 ただその後退の過程でも、リオの執念だけは煌々と盛る。速攻魔法陣から繰り出された炎魔法・放射(ラディエート)は、瞬く間してアズマを業火へ陥れた。

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