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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第9章 ~魔導師と侍編~
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184.堕天の導き *

 リオの宣言に、メイはうろたえた。

 「ふ、副長!」

 雅鳳組組長・アズマ=サカフジとは、組内において突出した豪傑。それ故に男は、その地位にある。そして更に言えば、敵は未知なる魔法を宿したことで、その実力を何倍にも増幅した。そんな怪物と一騎打ちをしたとき、きっと待ち受けるのは命を散らす結末だろう。それはもはや場の誰にでも想像に容易い未来だった。

 ただリオは、メイの弱音を断ち切る。

 「言うな、メイ。片腕ぐらいは奪ってみせる」

メイは折れない。彼はただひたすらに、上司であるリオの身を案じた。

 「だ、駄目です組長! この期に及んで一騎打ちだなんて、そんな綺麗事よしてください!!」

 「いかん。ここで侍であることを辞めれば、わしは奴らと同じ獣だ。侍として生きたのだから、侍として死んでゆく」

 死をも受容する男の固い意志に、居合わせるヴァレンもまた、邪な感情を抱いた。その男に、生きていて欲しい。その願いは愛でありながらも、届けることは叶わない。男の選んだ道を尊重する為に、届けてはならない。

 そのとき口を開いたのは、アズマ=サカフジ。男はリオの覚悟を受け取ったうえで、ふと問い掛けた。

 「その感じだと、やはりまだ刀は抜いていないようだな」

突拍子も無い言葉に、リオは若干の動揺を露わにする。

 「だから何だと言うんじゃ?」

そしてアズマは微笑みと共に真実を明かした。

 「その刀を抜き、刀身へ血を吸わせたとき、お前には代償魔法が宿る」

リオは唖然とする。メイとヴァレンもまた、驚愕を隠し損ねた。

 その想像通りの反応を前にして、アズマは更なる説明を重ねる。

 「代償魔法の強制付加ってのは人間に掛かる負担が大きいらしくてな、その付加術には間接的な方法が有効とされた。直接的な強制付加術をやると、直ぐに死ぬか魔獣化しちまうみたいだ」

 「わざわざお前の刀にまでそれを施してやったのは、その強制付加術の使い手が提示した条件だった。全くもって面倒な野郎だ」

 リオはその未知の存在を問いただす。

 「その使い手とは、どんな奴じゃ!?」

 「……堕天使。そいつは、そう自称していた。大陸神話には堕天使魔法なんて記録が残ってるらしいが、どうやらあれはマジらしい」

 教養のあるリオは、あるワードを思い出した。

 「……堕天の導き」

 それは神話にて語られた、ある一冊の書物。そしてその書こそ、堕天使魔法を伝える唯一の魔導書。一学者には虚構とさえ考えられてきた伝承は、ここで突然にして信憑性を帯びた。

 アズマはその重大な起算点に気を取られることなく、ただ粛々とリオへ選択を迫る。

 「俺と一騎打ちをするのなら、刀を抜け。いや、生憎お前にはそれ以外打つ手が無いな」

そのときヴァレンは、遂に耐えきれず声を荒げた。

 「――リオさん! 駄目です!!」

ただそれと同時、リオは行動する。その侍は、揺るがぬ覚悟を決めていたから。

 彼は愛刀を勢い良く引き抜けば、その刃先を左手の指に押し当てる。刀を軽く引いたとき、やはり指先からは血が滴った。

 「アズマ=サカフジ……覚悟せぇ――!!」

その血は地面へ垂れることはなく、刀身をゆっくりと伝ってゆく。そして次の瞬間、リオを包んだのは赤黒く輝く魔法陣。それは悍ましい魔力を吐き出しながら、遂に男の体へ適合した。




 同刻。玲奈はもう迷わない。自らに秘めた不可思議な力を受け入れた彼女は、迷うこと無く魔法弾を放った。

 平静から放たれる精密な一発は、真っ直ぐに一人の忍を狙う。照準は完璧だった。

 それでも身軽さを武器に戦う忍は、容易くその弾道を見切る。その忍は右方へ素早く飛び跳ねると直ちに切り返し、反撃を目論んで玲奈へ接近を開始した。

 魔法銃を扱う魔導師は、一般的に遠距離戦を主体として戦術を組み上げる。そしてその戦術を瓦解させる最も手早い策こそ、環境を近接戦闘へと持ち込むこと。その王道とも言える魔法戦闘の展開をヴァレンから学んでいた玲奈は、実戦においても柔軟に対応してみせた。

 敵が近接戦を持ち込むときこそ、銃で狙うべき的が直線的にのみ行動する大きな狙い目。どれだけ照準を攪乱されようとも、その刹那だけは銃を取った者に主導権が握られる。

 玲奈は落ち着いたまま、穏やかに引き金を引いた。そこから放たれるのは、やはり精巧な一撃。そしてそれは同時に現在まで防がれたことのない、必殺の一撃。代償魔法を帯びた忍がどれだけ重厚な防御魔法陣を展開しようとも、一発の弾丸は悠々とそれに勝った。

 一人の忍が地へと沈む。しかしながら、玲奈を囲む忍の数はまだ多い。

 「……少年漫画だったら、こういうのもサクサク倒してるのに」

どこか懐かしい愚痴が零れたのも束の間、忍は遂に集団戦術をもって襲い来る。屋根上に控えた二人は、ある魔法具を投擲した。

 玲奈はそれを先の炸裂魔法具と推察したが、それが爆発を引き起こすことはなかった。その魔法具が戦場へもたらしたものは、多量の白き煙。玲奈の知る言葉では、煙玉と相違ない。

 事実、煙幕魔法具の効果は別群であった。言うまでも無く、玲奈の握った銃は照準を失う。更には音をも頼りに戦う忍にとって、視界不良はさほどの影響を及ぼさなかった。

 刹那にして、地上に居た二人の忍が玲奈へ一気に距離を詰める。手にした魔法剣は、玲奈の居た場所を正確に貫いた。

 ただし玲奈は、その上を往く。魔法銃の使い手ながら、発現魔法の属性にも恵まれた彼女は、遂に変質魔法を習得していた。

 行使したのは、氷魔法・偶像(スケープゴート)。二人の忍が貫いたのは、ただの氷の置物に過ぎない。

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