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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第9章 ~魔導師と侍編~
188/203

183.毒に侵された鳳凰 *

 束の間、ハッタが放り出したのは炸裂魔法具。掌に収まるほどの小さな球体は、不意に二人の足元へと転がされた。

 フェイバルは直ぐにその正体を察し、咄嗟に後方へと退避する。しかしながらハッタはその魔法具を正確に蹴り飛ばし、後退するフェイバルを再び爆心地へと陥れた。

 フェイバルは間一髪のところで防御魔法陣を展開する。更にはその魔法陣で魔法具を弾き返し、爆発から距離を取ろうと試みた。それでも秀逸なタイミングを狙って蹴り上げられた魔法具は弾かれる間も無く、フェイバルの間近で小さな爆発を引き起こす。

 火薬の匂いと少しの煙が立ち込めた。玲奈はフェイバルの身を案じてその方向へ振り返るが、たったそれだけの僅かな隙が、畏怖に縛られていた忍らの好機を誘ってしまう。

 敵から背を向けてしまった玲奈を狙うのは、魔法剣を抜いて屋根から舞い降りた、二人の忍。強化魔法を纏わずとも、二名の忍びは高い機動力をもって彼女を目指した。

 そんな窮地を救うのは、またもフェイバル=リートハイト。男は自らが爆風に巻き込まれながらも、無動作魔法陣から光熱魔法・烈線(レーザー)を繰り出す。咄嗟の攻撃ながらも、熱線は的確に忍を穿った。

そしてフェイバルは、体たらくを晒す玲奈を叱責することもせずに、直ぐに焦点をハッタへと戻す。その判断は正しく、ハッタの攻撃は瞬く間に再開された。

 使われたのは、小型の拳銃型魔法銃。超小口径のそれは一撃の火力に劣るものの、弾速と視認の難しさが厄介な代物であった。

 更にはいまだ煙が晴れぬ中で、弾道の視認は困難を極める。加えてオペレーション・バベルでの傷が癒えないフェイバルはまだ本来の機動力を発揮出来ず、遂には右肩を撃ち抜かれた。

 玲奈はようやく理解する。自らの醜態の為に、また仲間を危険へと晒した。振り返れば遠い昔、工業都市・ダストリンでの初依頼で抱いたものと、全く同じ感情。時の流れとは末恐ろしいもので、久しくしてまた同じ過ちを犯してしまった。そしてそれと同時、自らの抱いた不可思議な力への畏れは失せる。それが何故自分に与えられたのかは分からずとも、それに縋りさえすれば、この現状を打破する可能性が見えたから。

 氷見野玲奈は、魔導師・レーナ=ヒミノへ。握った魔法銃の銃口は、屋根上で隙を窺う忍へと向けられた。

 ヴァレンと共に磨いた銃術はここで光り輝く。一発目の弾丸は、フェイバルとハッタの駆け引きへ意識を向けた忍の一人を撃ち抜いた。

 続けて放たれる二発目は、一発目の魔法弾に倒れた者の直ぐ傍を位置取る忍へ。しかしその忍は機敏にも、正確にその弾道を回避した。

 当然ながら忍は、直ぐに玲奈へと殺意を差し向ける。ただし彼女は、もう動じない。もはや彼女は、威勢良く声を荒げた。

 「フェイバルさん……!」

男は迫り来るハッタの激しい剣戟を裁きながらも、彼女の声へ応じる。

 「なんだよ!? 今忙しーんだわ!」

 「えっとですね……雑魚は私に任せてください――! このエセ日本人共は、私が全部ボコボコにしますから!」

玲奈から飛び出したのは、緊張感すら突っぱねる剛胆不敵な宣言。それでもこの窮地には似合わぬ、どこか砕けた言い回しに、フェイバルの口元は綻んだ。

 「……なら、任したぜ。相棒」

そのとき男は、玲奈を守るという選択肢を放棄した。




 玲奈とフェイバルの位置する地点から、更に西方。幹線道路を駆けるヴァレンと二人の侍は思いもよらぬ事態を前にして、遂にその足を止めた。

 「……ここが、本当にギノバスなの……?」

 ヴァレンは絶望を前にうろたえる。二人の侍もまた、その光景に圧巻されているようだった。

 煉瓦で組まれた堅牢な建築物が所狭しと連なっていたはずの街は、枯れ果てた砂漠へ。至る所に点在する砂の山は、建築物が変質魔法によって砂と化したことで形成されたものであると推測出来た。

 そしてその離れ業こそ、敵の頭領が成したもの。リオがそんな呟きを零す間も無くして、男は堂々たる振る舞いでそこを訪れた。

 「――随分と遅かったじゃねぇか。浪人ども」

 声の主は、アズマ=サカフジ。砂の巻き上がる一帯を器用にすり抜けるその様は、砂漠の支配者のみに許された芸当。

 リオは男の大胆不敵な登場に面喰らいながらも、直ぐに言葉を放つ。

 「血迷ったかアズマ! なしてこんなことを……!」

 「血迷いはお前だ、リオ。よくもまあのうのうと、国が蝕まれていくのを傍観出来たものだな」

 「……違う。ギノバスは、真摯にミヤビへ向き合っていた。まだ時間が掛かろうとも、ミヤビはギノバスと共にあれたはずだ!」

そのときアズマは、ふと比喩する。

 「毒というものは、少しずつ体を犯してゆく。それが毒だと気付いたときにはもう手遅れで、待っているのは逃れられない死、のみ。それこそがミヤビの末路であり、お前のように平和ボケした馬鹿の末路なんだよ」

そしてアズマは反論を阻止するかの如く、右手を小さく掲げる。その命令に従い、数名の忍がリオたちの退路を断つように展開した。

 そのときリオは、遂に普段の穏やかな顔色を放棄する。取って代わるように貼り付いたものは、般若の如き怒気。暴走して殺戮を尽くす雅鳳(がほう)組への怒りと、それを止められなかった自らへの怒り。

 「……アズマ=サカフジ。わしは貴様へ、一騎打ちを申し込む」

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