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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第9章 ~魔導師と侍編~
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176.激動の都内 *

 都内東部にて確認された魔獣群の奇襲は、神鳴る(あお)によって掃討された。しかしながら、依然として雅鳳(がほう)組組長・アズマ=サカフジの姿は現れない。そしてそれらの事実は、フェイバルらが先手を打って行動を開始するに十分足る根拠だった。

 「――よし、出るぞ」

そのフェイバルの一声から、ヴァレンは皆へ強化魔法を行使する。第三師団棟に控えていた五人は、一室の窓から勢い良く飛び出した。

 向かう先は、都内西部。東部では既に奇襲が行なわれたこと、また北部南部は都外戦闘が沈静化しつつあることからも、残る方角は自然と絞られる。これがリオの導き出した答えだった。




 王都西検問にて。そこで防衛戦を築くのは、ギルド・ギノバスに所属する魔導師たち。ギルドマスター・トファイルによって発令された魔導師緊急召集令でそこへ集った彼らは、本来なら作戦騎士団の権限に属する検問警備の業務を、特別に代理人として執行していた。

 これから夜を迎えようとも、彼らは当番制を敷くことで、絶え間なくそこを守り続ける。しかし都内西部は自治区・ミヤビと反対の方角に位置していることもあり、流れる空気に張り詰めるような緊張感は窺えなかった。

 「――東の方は大丈夫なのかね? どうやらまた、変な魔法を行使する奴が現れたんだとさ」

 「――洗脳魔法に続いて、か。今頃になって未確認の魔法が次々と……これは偶然なのか?」

 彼らは検問を包囲するようにして都外へ展開するものの、依然として敵が現れない為に、談話へと興じる。そしてそこを席巻する話題はやはり、未知なる魔法についてであった。

 平穏は自然の情景を前に、その悍ましき魔法の噂が飛び交う。一〇数名程度の魔導師が前衛と後衛のいずれかに属し、戦闘の備えこそ完了しているものの、彼らの中に戦闘を予見しているものは居なかった。

 そして皮肉にも、リオの仮説は現実に顕現する。とある前衛の魔導師は突如として目に見えぬ刃で喉元を掻き斬られ、そのまま力無く倒れ込んだ。

 束の間、他の前衛の魔導師は敵の脅威を悟り、声を荒げる。

 「――て……敵襲――」

しかしながらその声が行き届く前に、その魔導師もまた同じ手口で地面へと伏す。前衛の魔導師は近接戦を得手とする者たちが担いながらも、その皆が易々と倒れた。

 後衛の魔導師は遠距離魔法を放とうとも、その照準に確証は無い。ある者は一心不乱に鉄魔法・弾丸(バレット)を行使するが、それが敵を穿つことはなかった。

 そうして西検問の戦線は、瞬く間に崩され始める。戦闘の勃発が作戦本部へと伝達されぬまま、諜報魔法・不可視(インヴィジブル)を纏う忍の群れが都内へと迫った。




 「――何なんだよ!? 畜生ォ!!」

 都内東部。イロ=シャクヤは、不意の激しい吐血に襲われた。ムゾウは魔力負荷を疑うものの、男はいまだ大規模な魔法を行使していないことから、その予想は直ぐに潰える。

 その所以は分からずとも、突然イロが手負いになったことで、ムゾウへ戦闘の主導権が傾いたのは事実。攻撃か、退避か。彼には選択が迫られるが、彼が選んだのは対話だった。

 「その血は……なんだ? お前は何をした?」

イロは取り乱したまま、その怒りの矛先を組長・アズマへと向ける。どうやら男は、今ここで何かを理解したようだった。

 「あの野郎……俺を()めて……イカれた魔法を……!!」

 誉れを重んずる雅凰(がほう)組の人間は、代償魔法を行使することで、戦地において絶大な戦力を発揮しながらも、更には約束された栄光の死を待ち侘びることが出来る。対して人斬りの罪人に過ぎぬイロ=シャクヤに、武士としての誇りは無い。故にオウナは唯一その男にだけ、魔法の持つ代償の存在を明かさずにそれを授けていた。

 逃れられぬ死。その現実から逃避するべく、イロは血濡れた顔のまま取り乱して駆ける。向かう先は、相対(あいたい)するムゾウ=ライジュ。たまたま彼が前に立っていたから、憂さ晴らしに殺し尽くす。そんな自暴自棄極まりない結論であった。

 その突然の攻撃にも、ムゾウは臆せず対抗する。そして敵が冷静さを欠いたこの刹那に、彼は自らの勝機を見た。

 互いの刃は再び激しく衝突する。そのときムゾウは久しくして、刀身の打ち合う金属音を聞いた。それはすなわち、敵が無意識に魔法を解除した証。代償魔法に取憑かれたイロは、意図せずとも己の持ち合せる本来の魔法を手放したのだった。

 夕暮れ時に勃発した魔法戦闘は、一切の小細工すらも存在しない、純然たる剣戟へと移行する。一人は代償魔法によって魔力量へ優位に立ち、もう一人は強化魔法によって肉体的な優位に立つが、その二人の打ち合いは完全なる拮抗の様相を呈した。

 束の間、その均衡を打ち破るべく策を講じたのはムゾウ=ライジュ。彼は激しい打ち合いの最中(さなか)、不意に半身を引くと、刀身の届かない距離を作り出す。そしてその間合いを生かすべく繰り出した技こそ、振らぬ魔剣技。無動作で魔法刃を射出するその剣技は、師であるツィーニアの勧めから習得した。

 イロはもはや本能的に、その不意の攻撃へと反応する。生への執着か、超人的な速度で身を(よじ)ったその男は、飛来する魔法刃へ横腹を(かす)られるに留まった。

 更に男は思い出したかの如く、再び光魔法・帯陣(ウェア)を行使する。眩い光を放つその魔法陣は、忽ちにしてムゾウから一時的に視界を奪った。

 そこから間もなくムゾウとの距離詰めたイロは、その凶刃を容赦無く振るう。光で視界を奪われたムゾウは直感的に回避を試みるが、無情にも刃先は彼の生身を捉えた。

 刃はムゾウの胸から肩に渡ってを大きく斬り裂く。内臓には至らずとも、噴き出る血の量がその傷の深さを物語った。

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