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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第9章 ~魔導師と侍編~
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164.道を知り、道を往け。 *

 王都東検問では、バーキッド率いる精鋭班が躍進する。狂気的に襲い来る騎馬兵。降り注ぐ魔法矢の雨。数多の攻撃を掻い潜ったとき、三人の騎士が対峙したのは一際目立つ老人の男だった。

 バーキッドの合図と共に、彼の背後へ続く二人の騎士は進軍を止める。まだ周囲には弓を引く敵兵が息を潜めていたが、男はそれすら看破して二人へ指示を下した。

 「あなたたち二人は、辺りの弓使いを抑えてくれるかしら?」

オキシアは返答する。

 「……あの男、只者ではありません。魔器魔法の存在を考慮するなら、共闘するのが望ましいと……存じます」

 「いや、駄目よ。見ての通りでしょ。あの男は、一騎打ちを望んでいる」

老人の男は軽装どころか馬にも跨がることをせず、ただ仁王立ちでこちらを伺っていた。この不可欠な会話の間に弓兵が動き出そうとしないのも、その男の計らいであることは明白だった。

 老人の男はかなりの高齢ながらも、腰に差せぬほどの大太刀を抱いて呟く。

 「……ギノバス王国騎士団第二師団長・バーキッド=リプル殿とお見受けしまする」

バーキッドは臆せず男の元へゆっくりと歩み、会話を試みる。

 「あなた、アズマ=サカフジじゃないわね。本隊は東検問に居ないのかしら?」

 「(それがし)はジョウ=コノエ。雅鳳(がほう)組の分隊長でありながらも、その正体はただ老いぼれた侍に過ぎませぬ」

 その対話を耳にしていたオキシアは、すぐさま本部へ一報を入れた。アズマ=サカフジの所在が掴めない事実は、彼の的確な判断によりタクティスの元へと伝達される。 

 バーキッドはついに足を止めた。それは当事者のみらず、周囲の者にも容易に理解できる。決闘の間合い。オキシアともう一人の騎士は己の敬愛する師団長を信じ、そこで遂に弓兵の元へと赴いた。

 ジョウは皺だらけの手を鞘に掛けて言葉を零す。

 「齢七〇にして、(それがし)は初陣を飾る。ただ戦とは、美しくあらねばならぬ。(それがし)は己が道の為、主へ一騎打ちを申す」

バーキッドの推測は正しかった。彼はその老兵へ敬意を表すべく、一歩前へ出る。

 「サムライであるあなたに、刀を持たずして挑む無礼をお詫びするわ」

ジョウはゆっくりと大太刀を抜く。戦の無い平穏な時代を生きて老いた侍であろうと、そのあまりに洗練された滑らかな所作は、バーキッドの拳を硬く握らせた。




 王都東検問における分隊長との接敵は、空き部屋に控えるフェイバルらにも伝えられる。

 雅鳳(がほう)組が東検問に最も多くの騎馬兵を投入しているという事実は、当然にして組長・アズマの登場を推測させるだろう。しかしながら、そこに男の姿が現れなかった。

 フェイバルはリオへと尋ねる。

 「なんか今更って感じだが、アズマってどんな奴だ? 軍師みたいな男か? 自分から戦場に立つような男か?」

 「……武士の戦争は全てが理論的じゃなくてのぉ。その武家の長ならば、自らが戦地に赴くものじゃ。同士を奮い立たせる為にな」

 「ならあんたから見て、奴がまだ戦地に現れないのは変か?」

 「ああ。奴の剣技は組織で随一。未知の魔法を手にして更なる高みへ至ったのなら、その力を試さぬ男ではない」

 「なるほど……なら、そろそろ詳しく決めとくか。俺たちの立ち回り方を」

その言葉を待ち望んでいたかのように、リオは突然として立ち上がる。彼は意を決し、絞り出すように言葉を綴った。

 「図々しい願いであることは承知じゃ。ただもし……もしもアズマが都内に現れることがあったなら……わしに相手をさせてくれ」

居合わせた者たちは驚愕した。ただフェイバルはその男の瞳を平然と見つめ、決意を揺さぶる。

 「お前は今、自分で言ったんだぜ。アズマって野郎は、組織で随一の剣豪だと」

 「……分かっておる。だが、そんなことは関係無い。わしが奴を止めるべく立ちはだからなければ、筋が通らんのです」

 「恐らくは、野郎も魔器魔法を保有している。勝ち目なんて無い」

 「それでも、やらねばならん」

そこで会話は一度途切れる。暫しの沈黙の後、フェイバルは観念して言葉を露わにした。

 「……やっぱ多分お前は、サムライだよ」

その文脈はすなわち、リオの願いの承諾。玲奈は咄嗟に異を唱えた。

 「ち、ちょっと待ってください! そんな見殺しにするような真似、さすがに見過ごせませんよ!」

そしてヴァレンもまた、同じ感情を訴える。

 「そうです! だって彼には……」

きっと遮られていなければ、彼女は許嫁(いいなづけ)に言及しただろう。それでもリオは、二人の考えをはねのける。

 「侍の往く武士道には、無謀で不合理な刹那が訪れるのです。たとえそこで命を落とそうとも、それは誉れとなって永遠に語り継がれ、生き続ける」

フェイバルは魔導師である二人を納得させるべく、あえて魔道を語る。

 「死を誇るってのは、魔導師とまるっきり違う考え方だ。俺ら魔導師が、その思想を頭ごなしに否定する権利は無い」

ヴァレンは折れなかった。それはきっと、目の前で命を賭そうとする者が、リオ=リュウゼンであったから。

 「でも……そんなのって……!」

フェイバルは彼女の内に秘めた特別な感情を知らずとも、更に言葉を続ける。語ったのは、自らの半生。

 「前にも話したが、俺は元々騎士になる予定だった。騎士道の根源は、元を辿れば神とか天使みたいな人ならざるの者への忠誠。そして正義の執行。まあ前者は、かなり昔の話だが」

 「でも俺はそういうのを崇拝する趣味なんて無かったから、魔道を選んだ。魔道の根源は、騎士と同じで正義の執行。ただ騎士とは違い、忠誠よりも自由を愛する。俺は自由でありたかったから、こっちにした」

 「魔導師は騎士の忠誠心を貶めてはならい。騎士は魔導師の自由な生き方を咎めてはならない。魔導師が武士の生き方に水差しちゃいけねーのも、同じことだ」

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