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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第9章 ~魔導師と侍編~
168/203

163.黎明の戦場 *

 陽が昇り闇が払われると、平穏を取り戻していた都外は再び戦地へと却来した。雅鳳(がほう)組の誇る騎馬兵は行軍を再開し、前衛の騎士は忽ちにしてそこへと衝突する。

 日を改めようと、やはり魔力量の差は埋まらない。騎士らは巧みな集団戦闘で武士を葬ってゆくが、その過程で徐々に殉職者の数が増え始める。ときに武士らは前衛の騎士を突破し、後衛の騎士の元にまで迫った。早朝からの出動を余儀なくされたツィーニアは、都外防衛線の最後の砦となって、前線から漏れ出た敵を討ち取り続ける。

 そんな予断を許さぬ戦況の中で、陣形から離脱し行進する前衛班が一つ。それは第二師団長・バーキッド=リプル率いる、陣形の先頭を担った騎士らであった。

 男は王都東検問での戦闘における騎士の消耗を抑えるべく、敵の統領の討伐へと動き出していた。想定されるのは、雅鳳(がほう)組組長のアズマ=サカフジ。

 敵の首元へ迫ろうとすれば、当然にそて攻撃の激しさは増してゆく。ついには敵の弓兵も現れ、多層的な攻撃がバーキッドら三人の騎士へと迫った。その飛び交う矢すらも異様な魔力を帯びているが為に、防御魔法陣による防御は無価値。必然にして、彼らは回避の選択を強制される。

 それでも三人の騎士は、バーキッドの強化魔法秘技・超俊敏(ハイアクセル)を頼りに、着々と進軍を続けた。少数精鋭ならではの圧倒的な速度は、敵の意表を突くにあたって効果的であり、騎馬兵たちは防御魔法陣の展開も間に合わず、騎士の手によって果ててゆく。




 王都北検問及び南検問においても戦況が動き出した。敵勢力の騎馬兵は早朝から行軍を始め、ついに戦乱が随所で巻き起こる。

 北検問には魔道四天門に出場した四人の魔導師たちが、そして南検問には二人の師団長が戦線へと投入された。彼らもまた早期決戦を求め、敵の分隊長を目指す。




 都外の動向は、フェイバルらも知ることとなった。男は眠気に抗い、目を擦りながら呟く。

 「……こりゃあいよいよって感じだな」

玲奈は欠伸混じりで応答した。

 「そうですねぇ……」

フェイバルは彼女を案じる。

 「なんだ、寝れなかったのか?」

 「……ええ、何か昨晩は妙に寝付きが悪くて」

 「待て。じゃあ予知夢はどうなった? まさか回避したのか……?」

玲奈はそこでようやく眠気が吹き飛ぶ。

 「た、確かに……! 回避出来たのかも!?」

しかしヴァレンは、冷静にある可能性を示した。

 「でもさ、レーナさんの予知出来る未来が一日限りだという根拠は無いでしょ? 例えば、次にレーナさんが熟睡する日までが予知の範囲だと仮定したら、これから先にまだ予知夢と同じ光景へ遭遇する可能性は充分にある」

フェイバルはそれへ納得する。

 「……確かに。朝から冴えてるな、お前」

 「都外の攻防が激しくなったのなら、都内戦の発生も昨日以上に現実味があるはずです。回避したと考えるのはまだ早いですよ、きっと」




 王都南検問にて。二人の師団長はロベリアの召喚した獅子型の魔獣へそれぞれ跨がり、敵の戦線を突き通った。行く手を阻む騎馬兵が現れようとも、師団長の力の前には及ばない。ロベリアの放つ魔法弾は、異様なまでに硬質な防御魔法陣をも穿った。

 しかし行く手を阻む障害は多く、二人の元には矢の一斉掃射が訪れた。ロベリアは当然のこと、ライズも跨がった魔獣を巧みに操り、雨の如く降り注いだ矢を回避する。魔法弾とは異なり属性を宿すことの出来る矢は、地面の衝突と共に激しく炸裂し、平らな大地を抉った。

 掃射が止んでから舞い上がった土埃が収まるまで、数分の時間を要する。視界の悪いその時間が過ぎれば、二人は互いの無事を確認した。

 ロベリアは少しの微笑みと共に呟く。逆境ですら楽しめる魂胆は、きっと破天荒なギルド魔導師時代の賜物だろう。

 「ふぅ……ヒヤヒヤしたわー」

ライズもまた至って平静だった。それどころか、男はもはや先を見据える。

 「……ロベリア。どうやら我々の討つべき分隊長は、弓兵のようだ」

ロベリアは唖然とした。きっと彼を知らぬ者であれば、その話はあまりに脈絡無く聞こえるのだろうが、彼女には分かる。男はこの掃射から、大きなヒントを見出した。

 「もしかして……今の一瞬で予想がついたっていうの?」

ライズは粛々と見解を述べ始める。

 「魔法矢に付与された属性は炸裂魔法で、恐らくは分隊長のもの。事前に分隊長が矢へ魔法を付与し、それを他の弓兵に共有して一斉に射撃したのだろう」

 「ええ……それで?」

 「術者本人が自分で魔法を付与した矢を自分で放つとなれば、自ずとその威力は他人の撃つ矢より威力が増す。つまり先の掃射で飛び抜けて高威力な矢こそ、分隊長の一撃であると推定できる」

 「……それを、見切ったっていうの? あんな一瞬で?」

ライズは一つの矢を指差す。魔法装甲のされた矢は炸裂魔法で生じた爆発を耐え凌ぐものの、生じた爆風によって吹き飛ばされ横たわっていた。

 「十中八九、これだろうな。着弾する角度は粗方視認出来た。逆算すれば、おおよその位置の想定はつく」

ロベリアは言葉を零す。

 「まったく……恐れ入ったわ」

ライズは即刻提案した。

 「ここからは分業しよう。私は分隊長を請け負うので、他の弓兵を抑えてもらえるか?」

 「了解。気をつけてね」

そのとき男は跨がった魔獣から降りた。

 「彼は君に返そう。ここからは、自分の魔法で移動する」

 「分かったわ。行ってらっしゃい」

ライズは強化魔法秘技・超俊敏(ハイアクセル)で飛び立った。

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