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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第9章 ~魔導師と侍編~
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161.未知なる魔法は夢の中で *

 作戦本部には、騎士・オキシア=フリムから(くだん)の情報が伝達された。総督・タクティス=リートハイトは、ついに未知なる魔法の存在を確信する。

 騎士では歯が立たぬ程の、異様なまでに強靱な魔法陣。騎士の防御魔法陣では到底防ぎきれぬ、尋常ではない魔法攻撃。タクティスはその未知の魔法が魔器そのものを強化する類いのものであると推測し、暫定的に魔器魔法と命名した。

 「――魔器魔法の報告を北検問及び南検問の騎士へと通達せよ」

タクティスの指令が飛ぶ。情報系統を担う本部の騎士らは、戦線に立つ者たちへ速やかに情報を共有した。




 刃天・ツィーニア=エクスグニルは王都東検問を通過した。先の指令を受け、彼女は敵の魔法の詳細を探るべく戦線へと足を踏み入れる。

 「都外戦は邪魔が無くて得意だし、丁度良いわ」

障害物の少ない平野こそ、彼女の大剣が最も威力を発揮する。もはやここら一帯は、彼女の土俵と言っても過言でない。

 そうしてツィーニアは前衛の騎士が戦う最前線へと向かう、はずだった。前衛の騎士が打ち損ねた武士は想定以上に多く、装甲車と共に防衛を図る後衛の元には、既にかなりの数の武士が押し寄せていた。敵数は増えれば自ずと照準はそこへ向き、前衛が挟み込まれる危険性も高まる。都外の防衛戦は、もはや決壊寸前だった。

 ツィーニアは即時、後衛の騎士の援護に方針を変更する。一人の騎馬兵を遠方に捉えると、強化魔法・俊敏(アクセル)をもって急接近を試みた。

 いまだ刀身それ自体の間合いには至らないが、ツィーニアは剣を振るい魔法刃を放つ。三日月の形状をもって飛びゆくそれは、騎馬兵の首元を正面から捉えた。

 騎馬兵の男はすかさず防御魔法陣を展開する。それでも国選魔導師・刃天の一撃は強大で、首は薄く引き裂かれた。当たり所は悪く、その男は首から大量の血を撒き散らす。束の間、男はふらりと落馬した。

 初撃をもって制圧こそしたものの、ツィーニアは事前情報通りの由々しき事態を理解する。なぜなら彼女は、一撃で首を跳ね飛ばすつもりでその剣を振るったのだから。

 「……なるほど。こりゃ骨が折れるわね」

ツィーニアは大剣を構え直す。そして遠方にまだ複数残る騎馬兵を目指し、爆発的な加速で駆けた。




 未知なる魔法の再来に関する情報は、フェイバルたちの控える一室にも行き届く。リオとメイは一室を訪れた騎士に詰め寄られるが、もはや雅鳳(がほう)組から実質的に裏切られた彼らは、当然にその実体を知らない。故にその空間で飛び交ったのは、結局のところ推測を脱しない会話だった。

 ただ一つ、フェイバルは一つの謎を解明する。それは、玲奈の予知夢について。

 「魔器魔法ってのは相変わらず分からんが、レーナの見る夢のトリガーは決まりだな。ずばり、未知の魔法との遭遇だ」

ヴァレンは腑に落ちた様子で語る。

 「そっか……過去二回の夢が洗脳魔法で、今回が魔器魔法」

玲奈はふと疑問を呈した。

 「洗脳魔法も魔器魔法も、魔法属性に関係なく後天的に付与すること……確か前に読んだ本には、強制付加術って書かれてましたけど、それが出来るってことですよね。洗脳魔法は付与する対象を天使に絞ることで厳格な制御がなされていましたけど、魔器魔法は最前線の騎馬兵にまで付与されている。そこまで広範に人間へ付加を行っているのなら、リオさんたちも知らぬままにその現場へ立ち会っている可能性はありませんか?」

フェイバルは頷く。

 「それは一理ある。どうだ? ここ数日で何か変なことなかったか?」

リオは顎に手を当てた。

 「……変なこと……うーむ」

そのときメイは一つの可能性を示唆する。

 「我々がミヤビを離れた後に、強制付加術が行われた可能性は無いでしょうか?」

リオはすぐに否定する。

 「いや、そりゃ無いのぉ。王都まで移動するのには丸一日かかる。雅鳳(がほう)組総員が行軍するとなれば、恐らくはもっと。彼らはわしらが出発してからそう経たぬうちにミヤビを出たはずじゃ。それも、将軍らギノバス側の人間の目を巧妙に誤魔化して」

 「確かに……そうでした。ならばやはり、我々は同じ建物に居ながら、知らぬところで魔器魔法の付与が?」

 「……とにかく、まずはわしらがその魔法を知らぬ間に付与されていないか調べるところから、かの?」

リオはおもむろに立ち上がり、フェイバルへ意見を仰ぐように目配せした。フェイバルは掌を掲げてそれを制止する。

 「いや待て。これは完全に憶測なんだが、魔器そのものを強化する魔法に副作用が無いとは到底思えん。魔力負荷なんて現象があるんだから、当然の理屈だろ? だからお前ら実験台にするのは無しだ」

 「それは……そうかもしれぬ」

続けてフェイバルは、部屋で待機する騎士らと向き直り、それらしく話を収めようとする。

 「ということで、騎士のあんたらも下がってな。妙なことはしねーよ」

玲奈は妙に頭の切れるフェイバルに驚いていた。きっとこの人払いは、リオとメイが自らの手で争いを止めるべく戦場に立つ為の布石なのだと理解していたから。

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