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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第9章 ~魔導師と侍編~
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158.防衛戦線 *

 王都北検問でも、東検問と同様に敵襲へ備えた防衛力の増強が行われた。

 王国騎士団五個部隊と共に防衛へ望む魔道四天門出場者の四人は、検問付近の拠点で待機する。妙に関係の深まった四人は、幾分かリラックスした状態で言葉を交わした。

 ドニーは笑みを含んで呟く。

 「にしてもイグとナミアスは可哀想に。もう少し早く故郷に戻ってれば、こんな騒動に巻き込まれなくて済んだんだぜ?」

イグは頭を掻きながら応じた。

 「それは……そう」

一方でナミアスは、どこか乗り気になって返答する。

 「魔導師たるもの、任された仕事はやってのける。それに国選依頼に参加できるなんで、めったに無い機会だし!」

ロコは冷静に戒めた。

 「不謹慎」

ドニーはナミアスと同じような考えらしく、笑みを浮かべて呟く。

 「折角四人で仕事できるんだ。楽しみだなー俺は」

ロコは繰り返した。

 「不謹慎」




 雅鳳(がほう)組の誇る大きな戦力である分隊長について、リオ=リュウゼンは知る限りの情報を提供した。同時にメイもまた騎士の尋問へと協力し、二人の疑いはついに晴れる。フェイバルらの目論みは成功した。

 そしてリオとメイへの尋問が終えられると、二人は暫し王国騎士団本部内で軟禁される運びとなる。フェイバルの申し出により、二人の軟禁場所は三人の魔導師の待機場所と同室とされた。

 一室で魔導師らに邂逅したリオは、そこですかさず感謝を述べる。

 「面目ない。お主たちのおかげで、早く疑いを晴らしてもらうことができた」

メイも並んで頭を下げた。

 「感謝しております」

フェイバルはソファで横になったまま応じる。

 「でもあんたらへの措置は結局のところ軟禁だから、早く尋問終わっても暇が増えるだけだぜ」

二人の侍は黙り込む。その二人の表情にはどことないやるせなさが張り付くが、フェイバルはそれを見ずとも看破して言葉を続けた。

 「……戦うんだろ? 雅鳳(がほう)組の連中と」

リオは静かにそれへ応じる。

 「ええ。わしらが止めなければならんのです。それがせめてもの、けじめですから」

その真剣な声色に、フェイバルはどこか感化されたようだった。

 「多分だけど、あんたらはサムライだよ」

 「そう言って貰えたなら、もう頭ごなしに否定はしませぬ」

 「ああ。でも先に断っておくぞ。俺たちがあんたらを戦場へ送り出せるのは、都内で戦闘が勃発したタイミングからだ。都外は騎士が陣形を組んで戦闘にあたるから、そこにあんたらを参戦させることはさすがにできない」

 「……分かっております」

 「その為にも、まずはあんたらの刀を取り返さなきゃだな。ま、さっきは俺が外せって命令したんだけども」

玲奈はフェイバルのくつろぐソファへと駆け寄り、ふと彼へ耳打ちした。

 「……いいんですか……さっきは命令に違反するのが嫌だとか言ってたのに」

 「大丈夫だ。これが一番上手くいく」

 「で、でも……!」

 「あいつらを見て確信した。最大多数の人間を救う為に、あいつらの手が要る」

そのとき玲奈が目にしたのは、普段の男とはまるで違う誠実な眼差し。ふとその気迫に気圧されはしたが、同時に彼女はどことなく安心して男に従った。

 「……分かりました。でももしまたロベリアさんに怒られても、私は責任取りませんからね!」

 「んぇ!? そ、そんときはまた取り持ってくれよ? な?」

フェイバルはその脅し文句に、打って変わって腑抜けた声で返答する。玲奈は微笑んでそれへ応じた。

 「冗談ですよ。別に仕事を他人へ丸投げするんじゃないんですから、前とは事情が違います。こんな脅し文句なんかで騙されず、最後まで凜としててくださいよ」

ヴァレンはふとフェイバルへ問い掛ける。しかしその声は、どこか震えているようだった。

 「で、でも、二人の刀の保管場所には見当付いてるんですか?」

 「そーだな……恐らくは第三師団棟の保管庫。多分見張りの騎士が居るだろうから、お前の魔法でどうにかしてもらおうかね」

 「えっと……私の……ですか?」

 「そう、お前の誘惑魔法だ。それで穏便に刀を頂戴してこい。そのときになったらな」




 王都南検問もまた、来たる戦闘の準備が速やかに進行していた。騎士らが速やかに都外へ展開する中、その騎士たちから独立して行動する手はずのライズとロベリアは、近くの都内詰所にて時を過ごす。

 ライズは自らの魔法剣を整備しながら呟いた。

 「にしてもこの一年は、大事件が多いものだな」

ロベリアは男の手慣れた整備を見つめながら応答する。

 「ええ。コードネームの付く大規模作戦が今年でもう三つ目。平和なんて程遠いわ」

 「そしてついには、三〇〇年ぶりの戦争を経験する始末だ。それも他の騎士を先導する師団長の立場ではなく、まるで国選魔導師のように遊撃を行う立場となって」

 「あら、不服? 私は魔導師みたいに好き勝手戦うの好きよ。懐かしくて」

 「そうか。君は元魔導師だったな。更には、かつて恒帝の率いた魔導師パーティ・煌めきの理想郷(ステトピア)のメンバー」

 「よくご存じで」

 「……そういえば聞きそびれていた。君がなぜ魔導師を辞めてまで騎士を志したのか。なぜギルド魔導師として高い名誉を手にしながら、その道を違えたのか」

ライズは顔色一つ変えずに尋ねたが、ロベリアは見透かしていた。

 「どうせ知ってるくせに。わざわざ私の口から聞きたいの?」

 「私は正解を知らない。ただ、事前の情報からある程度の想像ができるだけだ」

 「あなたのことだから、どうせそれが正解よ」

ライズは渋々と自ら口にする。

 「……フェイバル=リートハイトを国選魔導師へ推薦する為、か」

 「そう。素行の悪い彼が国選魔導師になる為に、どうしても近道を準備したかった。彼が国選魔導師になれば、どんな英雄よりも多くの人間を救ってくれると確信したから」

そのときライズは微笑んだ。ロベリアはその大変に珍しい出来事を前に、思わずして驚愕する。

 「な、なに!? あなたの笑顔なんて、初めて見たんだけど!?」

 「……いや、すまない。ようやく合点がいったところだ。なぜここ最近になって、恒帝の素行が少しばかり良くなったのか」

 「良くなった……かしら?」

 「概ねの時間厳守。それにブローチの携帯も、ここのところは抜かりない。良い兆候ではないか?」

 「まーそれは……そうかも」

 「要因は二つ。一つ目は間違いなく、彼の秘書であるレーナという者の存在。そしてもう一つ、これはまだ想像だか、きっと君はここ最近になって彼を真剣に叱責した。それが彼の心理に作用し、国選依頼に対して誠実に臨む傾向が生まれた」

 ロベリアが真っ先に思い浮かべたのは、泥中の狩人事件後のことだった。確かに彼女は、作戦を無断でドニーへ丸投げしたフェイバルを叱責した。

 彼女はライズの推察の的中を悟り、観念した様子で応じる。

 「まったく、本当に恐ろしい推理力。未来どころか過去まで見えちゃうの?」

 「さあ、どうだろうか」

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