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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第9章 ~魔導師と侍編~
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156.誉れ **

 コード・バベルでの傷が癒えないフェイバルは、王国騎士団本部で待機することとなった。玲奈とヴァレンもそこへ付き添い、三人は第三師団棟の空き部屋で腰を下ろして時を過ごす。

 フェイバルは浮かばれない様子だった。

 「……ったく、俺も甘く見られたもんだなぁ」

玲奈は彼の心中を察しつつも、騎士側の肩を持つ。

 「まだ完治してないんですから、仕方ないですよ」

言い返す言葉があるはずもなく、フェイバルは黙り込んだ。ふとして場は静寂に包まれるが、そのときヴァレンは耐えかねるようにフェイバルへと尋ねた。

 「あの……リオさんとメイさんは今、どうなってるんでしょうか?」

 「騎士からの尋問、もしくは拷問だな。この有事だし、手荒な真似もやむを得んだろう」

玲奈はふと数時間前を振り返って語る。

 「でもあの二人、宣戦布告の主が雅鳳(がほう)組だと聞いて、かなり取り乱してましたよね。あの様子、どうも演技には見えません」

フェイバルは同意しながらも、拭えぬ疑問を呟いた。

 「ああ。でもリオ=リュウゼンに関しては、その兵隊共の副長だ。組織の二番手の知らないところで戦争始めるなんて、普通あり得るか?」

 「それは……あり得ないかも」

 「……だろ。まあ俺から言わせりゃ、あいつらが敵だろうとそうじゃなかろうとどうだっていい。とにかく俺が気になってるのは、お前の夢のことだよ」

ヴァレンは事情を察して尋ねる。

 「待って。もしかしてレーナさん、このことを予知夢で見たの?」

 「……うん。夢の中では、私とフェイバルさんが魔法戦闘に臨んでた。それも多分、王都の中で。私たち今はまだ待機中だけど、これから敵と相対することになるのかも」

フェイバルは付け足す。

 「その予知夢が回避可能なのか否かは分からんが、恐らくこのままの成り行きに任せれば、都内に敵の侵入を許しちまうことになるらしい。都内への侵入ってのは、いわば前線の崩壊。都外に展開している騎士の犠牲はきっと大きいだろーな」

玲奈は息を飲んだ。

 「……てことは、このままじゃまずい、ってことですよね」

 「王都が陥落することは流石に無いだろーけど、騎士の犠牲を小さくしたいなら動くべきだ」

そこでヴァレンは意を決して提案する。

 「……なら、まずはリオさんとメイさんの疑惑を払いませんか?」

 「……そうだな。作戦を無視して闇雲に都外へ加勢するより、そっちが手早い」

そしてフェイバルは立ち上がる。二人もそれに連られて立ち上がるが、そのとき彼は小さな声で呟いた。

 「とはいえこれもまた命令違反……ちょい怖いが……仕方ないか」

珍しいその様子に、玲奈はふと泥中の狩人事件を思い返した。きっと彼は、ロベリアからの失望を恐れている。ただその一方で玲奈は、作戦へ真摯に臨む男の成長に感動すら覚えた。




 王都東検問にて。作戦における最大の防御目標となるこの場所には、既に多数の騎士が到着した。

 都外に散開した王国騎士団は魔力装甲車を広く配備し、防衛力の増強に尽力する。発現魔法に覚えのある数名の騎士は、部隊長の指示に従って遮蔽物を創造した。起伏のない平坦な都外は、瞬く間に様相を変えてゆく。

 都外と都内を隔てる魔獣防護壁の露台では、騎士による魔力砲台の点検が行われた。定期点検はかねてより行われていたが、こうした実戦の場で稼働するのは一〇〇年以上ぶりだという。




 同じく王都東検問に配属されたツィーニアとムゾウは、都内の検問付近に設営された拠点で時を過ごす。自治区・ミヤビ出身であるムゾウの顔が浮かばれないのは、無理もないことだった。

 ツィーニアはムゾウの心を案じる。

 「あんた……戦えるの?」

 「勿論です。むしろ、自分がやらなければならない。そう思います」

 「……そういえば前言ってたわね。あんたは雅鳳(がほう)組の連中を、サムライとは認めないって」

 「はい。やはり奴らは、侍の皮を被っただけの悪魔でした。奴らが侍であったならば、かつての大陸戦争で先人が守り抜いたミヤビを前に、再度の戦争という仁義無き手段を繰り返す愚行はしません」

その強い言葉選びに、ツィーニアはムゾウが何かを知っていると悟る。

 「彼らが宣戦布告までしてしまった動機、何か察しが付いたりする?」

 「……あくまで自分の拙い想像、その程度で聞いてください」

 「ええ」

 「自分が生まれた頃から、ミヤビは急激にギノバスの手が加わり始めました。ギノバスの王族や貴族、それに騎士の来訪が一挙に増え、ミヤビの実力者たちにはギノバスの女性を許嫁として貰うことが奨励されるようになりました。そして極めつけが、先日のミヤビに対する半ば強引な駐在騎士団の設置構想です」

ムゾウの話は続く。

 「たかが構想です。でも、我々が魔道に生きるのと同じように、彼らは武士道に生きています。自分は認めませんが、雅鳳(がほう)組の人間は侍を自認し、その侍とはすなわち武士と同義。武士は誉れを重んじる。騎士団の設置は、長年ミヤビで育まれたきた侍の誉れを穢すに足る要因だったのです」

ツィーニアはふとミヤビ情勢を思い出した。

 「そういえば、ショウグンとかいうミヤビの指導者は、実質的にギノバス側で囲われた人間だったそうね。きっとその人間が駐在騎士団の設置を認めたなら、構想が実行される可能性は極めて高い」

 「その通りです。それで侍の将軍に対する忠義は大きく揺らぎました。対抗しうる存在として雅鳳(がほう)組の組長に支持が集まるのも、もはや自然なことです」

 「……だとしても、私には理解し難い。彼らがどんなに勇敢で、どんな凄まじい忠義を持っていても、ギノバスを陥落することは絶対に出来ない。無謀。犬死にとすら思えてしまう」

 「きっとそれが武士道なのです。ときに選んだ道の為、無謀で不条理な選択を行う。それで命を落としても、彼らに悔いは無い。魔道とは、少しだけ死生観が違います」

 「……なるほど。武士道は誉れ、魔道は信条。武士は魔導師よりも盲目的だけど、それ以上に情熱的。馬鹿みたいね」

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