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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第9章 ~魔導師と侍編~
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155.張り詰めた一室にて **

 王国騎士団本部内の大会議室には、王都防衛の中枢を担う人物が顔を連ねた。三名の王国騎士団師団長に加え、各師団を率いる部隊長の面々。二名の国選魔導師と、その弟子たち。更には魔道四天門に参戦した、四人の猛者。元国選魔導師で現ギルドマスターのトファイル=プラズマン。ギノバス駐在騎士団長・リフ=フロジアーノと、騎士団総督・タクティス=リートハイトまでがそこへと立ち会う。

 以前からミヤビ情勢を担当していた第三師団第二〇部隊長・オルドット=パラレインは、手始めに概要を告げた。

 「――ギノバス時間午前八時。自治区・ミヤビは王都に対し宣戦布告。リベリア宮殿への武力攻撃と、それに伴う都内全域への地上侵攻を示唆。始期は、本日のギノバス時間午後五時と指定されました」

 「敵勢力は、自治区ミヤビの自警団である雅鳳組。所属人数は最新の統計当時で、約五一四名。ミヤビの民衆感情から巻き起こった謀反である場合、民兵の存在も考えられます」

 「また昨日より、ミヤビ最高指導者である将軍からの連絡が途絶えております。雅鳳(がほう)組は組長・アズマ=サカフジ指導の元で、将軍及びその他執政者を拘束、もしくは殺害。ギノバスミヤビ間の連絡網を遮断した上で行軍を開始し本日に至る、と推定されます」

 会議の進行は総督・タクティスへと引き継がれた。

 「時は一刻を争う。早速ながら、王都防衛作戦、オペレーション・ミヤビの子細を伝える」

そして男は手元の資料になぞらえて、直々にその内容を告げる。

 「自治区・ミヤビは王都より遙か東に位置する。つまるところ最大の防衛拠点は、王都東検問。ただし多方面攻撃への備えとして、北検問と南検問にも防衛力を設ける。また王都有事条項に基づき、王族防衛の為リベリア宮殿にも騎士を派遣するものとする」

 「王都東検問には、第二師団第一部隊から第一〇部隊までの計一〇個部隊、及び国選魔導師・刃天を配備。王都北検問は同師団第一一部隊から第一六部隊の計五個部隊と、国選魔導師・恒帝を配備する」

そのときロベリアは、挙手と共に説明を止めた。タクティスから許可が下りれば、彼女は堂々と語る。

 「当師団の国選魔導師・恒帝は先の作戦の負傷が完治しておらず、まだ万全とは言えません。最前線での運用は危険を伴います」

その言葉を耳にしたフェイバルは、漂う緊張感をもろともせず愚痴を零した。

 「ったく、お前は俺のオカンか?」

ロベリアはフェイバルの方へ振り返り、その男と近い口調で応じる。

 「あんたの為に言ってるの。死なれたら困るでしょフェイバカ」

そのとき悠々と呟いたのは、ギルドマスター・トファイル=プラズマンであった。

 「総督殿、それではフェイバルの代わりに、彼らを使ってくれませんかね?」

そう言って男が紹介したのは、魔道四天門を戦った若き魔導師たち。

 「戒厳令の発令時たまたまギルドに居た彼らは、私の出来心でこの会議へ連れられてきたわけだし、きっとまだ作戦には組み込まれていないでしょう? ここが使い所ですよ」

タクティスは最も信頼を置く第一師団長・ライズに目配せする。ライズがそれに頷くと、タクティスはとファイルの進言を承諾した。

 「それでは王都北検問の防衛は、恒帝に代わりギルド魔導師四名を採用する。続けて王都南検問。騎士団からは第一師団第一部隊から第六部隊まで。なお、第二部隊を除く。以上、計五個部隊と、現在再編成中の第三師団から師団長・ロベリア=モンドハンガンを配備する」

 「リベリア宮殿における王族防衛任務は第一師団より第二、第七、第八部隊を投入。また当会議室は本作戦の作戦本部として運用し、各師団二〇部隊が連携してここを運営する」

 「ギノバス駐在騎士団は、都内での避難所の開設や継続的な治安維持活動に臨め。該当の無い者は一時待機。戦況を見極め、追って指示する」

トファイルは挙手の後に発言した。

 「えーギルド・ギノバスですが、先程ギルドマスターの権限で魔導師緊急召集令を発令しました。都内に居合わせたギルド魔導師は、これよりギルド依頼の受諾を一時停止。当該命令解除まで駐在騎士団と連携し、都内の治安維持や万が一の戦力として待機します」

タクティスはそれを了承する。そのまま男はライズへと尋ねた。

 「ライズ師団長、魔天楼との連絡は?」

 「……応答無しです。無論、都内にはおりません」

 「……そうか。戒厳令解除までは原則検問を完全封鎖するが、もし魔天楼が帰還した場合、例外的に都内へ通せ。彼の力が必要になるやもしれん」

 「承知しました」




 都外。諜報魔法・疎外(クローズドーム)に覆われた草原の一帯は、雅鳳(がほう)組の野営地となっていた。

 中央にそびえるテント内でそのときを待ち侘びるのは、組長・アズマ=サカフジ。古風にも結まれたまげに、顔に刻まれた巨大な火傷跡。

 副長リオ=リュウゼンの不在を狙ったその男は、暗い屋内で精神を統一した。男にもまた、正義がある。先人の守り抜いたミヤビの文化が費えぬ為、そして自らが信じた侍という生き物が死なぬ為。

 ギノバスから見たならば、きっと無謀な戦争と評価されるだろう。しかし男とここへ集う侍からすれば、これは己の誇りを穢されぬ為の必然な戦い。そしてそれと同時に、確かな勝機を見据えた戦いであった。

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