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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第9章 ~魔導師と侍編~
155/203

150.確執 **

 「――おいガキ共……離れろ!」

 モナミの経営する、小さな魔法学校にて。冷たい風の吹く屋外へ立ったフェイバルは、数名の子供たちに抱き付かれながら声を荒げる。ただ虚しくも、彼の主張は無垢な声に屈した。

 「だって寒いんだもん!!」

 「俺知ってんだ! フェイ兄は寒い日、こっそり魔法で防寒してるってこと!!」

フェイバルは真っ向から反論する。

 「ちげーよ! マジ高かったこのコートのおかげだ! これで真っ当に防寒してんの!」

それを聞いたある少女は、素直な疑問を口にする。

 「なんで魔法使わないの? 魔法のほうが暖かいんじゃないの?」

 「俺が自分の魔法で火傷しないのと同じ理屈だ。コートが無いと、俺は死ぬ!」

そのとき悪戯好きなある少年は、仲間へ指示を出した。

 「よし! フェイ兄からコートを剥ぎ取るぞ!!」

 「おい馬鹿やめろ――」




 「――なるほど……これが魔導師の仕事か……!」

 少し離れたところからフェイバルの様子を眺めるリオは、大真面目に呟く。少し抜けている彼をそっと支えるのが、メイの普段の役割である。

 「いえ……たぶんこの仕事自体が、だいぶ特殊なものかと」

 「あれ、そーなの?」

 「そりゃそうですよ。普通なら、都外で魔獣の相手をするもんですから」

気の抜ける会話が続く中、そこには突如として年老いた女性の声が差し込んだ。

 「――ミヤビのお侍さん方、遠いところからご苦労様です」

その声の主はモナミ。魔法学校の経営者であり、かつて孤児だったフェイバルを保護したという女性である。

 リオは一礼してその声に応じた。

 「おや、あなたがモナミ殿ですねぇ。お邪魔しております」

 「あらあら、いいのよそんなに畏まらなくて。私も会いたかったから、ミヤビの方と」

メイはそこで、推測が確信へと至る。

 「モナミ殿、やはりあなた様もミヤビご出身でしたか。お名前を耳にしたとき、そんな気がしていました」

 「ええ。住んでいたのは遠い昔のことだけど」

モナミは遠くを見つめて呟く。彼女を詮索するつもりは無かったが、メイはただ純粋に質問を投じた。

 「……王都は、どうですか。ミヤビよりも住みやすいところですか?」

 「ええ。ギノバスの人は、ミヤビが思うほど悪くないのよ。きっと住んでみなきゃ、分かりっこないのだろうけど」

そしてモナミは呟く。普段から新聞を読む彼女は、時事に明るかった。

 「……どこかで耳にしたわ。ミヤビへの駐在騎士団の配備が計画されている。そしてお侍さんたちは、そのことを良く思っていない」

リオはメイに代わって応える。

 「ええ、その通りです。騎士が自治を担うようになれば、我々侍はいずれ廃れる。長い時間を生きてきたミヤビの誇りが、遂に途絶えてしまう。騎士の導入はギノバスによる強硬な同化政策である、という主張が度々起こっております」

ミヤビとギノバス、その両方を知るモナミは、そこで押し黙って俯いた。




 「――氷魔法・弾丸(バレッド)!」

 魔法陣から顕現した氷の弾丸は、数メートル先の的から大きく逸れ、その後ろの分厚い壁へ激突する。いまだ正確な照準が定まらず、玲奈は頭を抱えた。

 「いかん……FPSをガチってきた者にあるまじき醜態だ……ゴミエイムだ……」

玲奈に並ぶニアは、続けて彼女と同じ魔法を行使する。そしてその一撃は、難なく的を射止めた。居合わせるヴァレンは、拍手と共にニアを賞賛する。

 「ニアちゃん凄ぉい!!」

ニアは純朴な笑顔で、喜びを露わにした。玲奈はその子と同じタイミングで魔法陣の展開を習得したというのに、どこで差が開いてしまったのだろうか。彼女は分かりやすく落ち込んだ。

 「おかしいなぁ……私ってばそこそこ実戦経験積んできたのに」

ヴァレンはすかさず尋ねる。

 「ねぇレーナさん。魔法銃はどうなの? そっちもゴミエイム?」

棘のある言葉を流暢に使いこなすヴァレンに恐れおののきつつも、玲奈は答える。

 「魔法銃は結構使い慣れてるし、そこそこ狙えると思うんだけど……いや待って。ていうか銃はヴァレンちゃんに教えてもらってるんだから、あんたが知ってるでしょ?」

 「ならさ、無理に弾丸(バレッド)を鍛錬する必要無いんじゃない? 結局はどっちも同じ遠距離向けの攻撃手段なんだし」

 「でもさ、やっぱ手数は多い方がいいのかなって……それこそ魔道四天門を見てて思ったのよね」

ヴァレンは込み入った話を詫びるようにしてニアの頭に手を置き、頭を撫でてやりながら玲奈へ聞き返した。

 「それはやっぱり、ナミアスさんの銃術のこと?」

 「んん、まあそうかな」

 「あの人は魔法銃を使うし、きっと弾丸(バレッド)も使えるけど、風魔法・弾丸(バレッド)は名の通り風の弾丸だから、目に見えないという強力な要素がある。そう言う意味で、魔法銃の射撃とは差別化が出来てるの。でも氷魔法・弾丸(バレッド)って、魔法銃の射撃と差別化出来るところ無いでしょ?」

 「た、確かに。差別化か……深い……」

 「つまるところ、手数の多さに固執する必要も無いってこと」

ヴァレンの助言は腑に落ちた。玲奈は決意する。

 「よし、弾丸(バレッド)はニアちゃんに譲ることにします! その魔法、是非極めてください!」

玲奈はニアのぎこちない笑顔でニアの手を握った。ニアは訳も分からずそれに応じる。

 「わ、分かった……多分」

No.150 発現魔法の自己耐性


術者は、自らの発現魔法によって生じる外的影響を受けない。例えば熱魔導師が自らの熱では火傷せず、また毒魔導師は自らの毒に抗体を持つ。

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