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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第9章 ~魔導師と侍編~
154/203

149.ギノバスとミヤビ、魔導師と侍。 **

 腹ごしらえをするフェイバルらの元には、例の珍客が訪れる。ギルドの大きな扉はゆっくりと開かれた。

 午前中のギルドは、相も変わらず閑散としている。故にフェイバルら三人の視線は、騒がしい扉の方へと吸い込まれた。

 「――うぉお! 活気がゼロじゃ!!」

 「――副長。そういった発言はお控えください」

 現れたのは自治区・ミヤビからの客人。その地の自警団である雅鳳(がほう)組副長・リオ=リュウゼンと、付き人であるメイ=マルト。

 リオに面識のある玲奈とヴァレンは、直ぐに彼へと気が付いた。玲奈は席から立ち上がって咄嗟に声を掛ける。

 「あれ、あなたはミヤビでお会いした……!?」

リオは直ぐに玲奈の方へ振り向いた。暫しの沈黙が流れるが、いつになっても男の顔は浮かばれない。

 「……んーと……誰だっけ?」

玲奈は拍子抜けした。正面へ座るフェイバルに鼻で笑われたが、彼女は思い出してもらえるように善処する。

 「え、えーと、以前ミヤビ宛ての貨物運搬に同行したギルド魔導師です!」

リオは微笑んだまま零した。

 「いやーすまんのぉ。それと同じ用でギルド魔導師と顔を会わせる機会が、なにぶん多いものでしてなぁ」

 「う、そ、そうでしたか……あはは……」

玲奈は乾いた笑いと共に、またゆっくりと腰掛ける。典型的な恥ずかしい展開を前にして、どこかニヤニヤしているフェイバルには腹が立ったが、文句は垂れずに睨みだけを利かせておいた。

 その一方でヴァレンの方へ視線を向けたとき、玲奈は彼女の異変を察知する。そういえばそうだった。あの日ヴァレンは、リオに惚れてしまったのだ。

 ヴァレンは少しばかり口角を上げたまま俯く。慎ましい顔つきを取り繕ってはいたが、どこか感情の錯綜が見て取れた。それでもそこへ掛ける言葉は、どこを探しても見つからない。

 相手がこちら側のことを忘れてしまっているのだから、会話はこれで途絶えるはずだった。しかしリオは、三人のテーブル席の方向へ大きな歩幅で歩み寄る。訛りを含んだ軽快な敬語で、あたかも親しい友人同士であるかのように問い掛けた。

 「いやはや、ギルド・ギノバスはこうも静かなのですかな? もっと騒がしいところを想像していたのですが」

フェイバルは飯を食らいながらその男を突き放す。

 「いや、てか誰だよお前。余所モンか? ギルドは観光地じゃねーぞ」

 「ああ、失礼失礼。わたくし雅鳳(がほう)組副長のリオ=リュウゼンと申す者です。年齢は二九歳。好きなものは団子で、嫌いなものは……そーだなぁ……争いごとでしょうかねぇ。ははは」

 「別にそこまで聞いてねーよ」

玲奈はフェイバルの顔の前に掌を向けて制止する。これ以上の無礼はまずい気がしたので、彼から会話の主導権を奪った。

 「私はレーナ・ヒミノと申します。そして彼はフェイバル=リートハイト。私の横の彼女が、ヴァレン……ええと……」

そういえば玲奈は、ヴァレンの下の名前を知らなかった。言葉に詰まったところで、幸いにもヴァレンは自ら名乗り出る。

 「……ヴァレン=トレウィリナです」

そのときリオは少し驚いたような表情でヴァレンを指差した。

 「あああ、思い出しました! そうそう、確かにお会いしてましたねぇ。彼女の顔は覚えてますとも!」

玲奈はひっそりと敗北感を味わう。そのときリオの傍に立ったメイが口を挟んだ。

 「副長、そういった発言はこちらのレーナ様に失礼です。レーナ様、ご無礼をお許しください」

 「い、いーえ! 構いませんとも!!」

リオは物腰柔らかに謝罪した。

 「いやぁすみませんすみません。悪気は無くてですねぇ」

そのときフェイバルの注目は、リオの側方へと移る。

 「んで、そちらさんは?」

 「私は雅鳳(がほう)組組員のメイ=マルトと申します。本日は副長の付き人として参りました」

リオは会話へ割り込んだ。

 「フェイバル殿……勿論あなた様のことは存じ上げておりますぞ。かの有名な、恒帝と呼ばれる国選魔導師! そんな偉大な方へ恐縮ながら、一つお願いがございます! 今日一日、どうか仕事へ同行させてはくれませんかね!?」

丁寧な懇願だったが、フェイバルは即答する。

 「嫌だよ。面倒くせ」

 「そ、そこをどうか! わたくしはどうしても、魔導師という仕事を見てみたいのです!」

引き続き懇願するリオに、フェイバルは改まった様子で語り掛けた。

 「……悪いな。今から向かう依頼は、相応の危険が伴う現場だ。あんたみたいなミヤビのお偉いさんを連れ回して、そこでもしものことがれば、俺には責任が取れない」

しんみりとした語り口調だか、玲奈は騙されない。彼女は男の言葉が、完全なる大嘘であることを暴露した。

 「フェイバルさん……今日の依頼は王都某所の魔法学校への訪問です。どこにも危険が伴っていません」

フェイバルは身を乗り出して玲奈へと囁く。

 「おい馬鹿……面倒だろ……!」

玲奈は無愛想なフェイバルへ、説教を垂れようとした。しかしリオは、彼女より僅かに先陣を切って語り始める。

 「分かっておりますとも。ミヤビとギノバスは友好な関係に見えようとも、蓋を開けてみれば互いを罵り合う険悪な仲。ミヤビの者はギノバスが同化政策を強行する悪魔と思い込み、反対にギノバスの者は、ミヤビがいつの日か王都侵略を目論む異文化の蛮族に見えている。まだまだ、わだかまりは消えません」

男の言葉は続いた。

 「それでも……それでも! わたくしは思うのです! この目で見てみろと!! 悪魔は蛮族を、蛮族は悪魔をこの目で知ろうと!!」

 「そしてそれは……旧国家間だけに当てはまる話では無い。この目でギルド魔導師を知りたいという、単なる私の好奇心も同じことなのです!」

フェイバルは急に壮大になった話を聞いて、遂に言葉を改める。

 「いや……そのだな……別にお前らがミヤビの人間だから断ったていうわけではなくてだな」

フェイバルの怠惰な癖が抜けかけたところで、玲奈の方針は決まった。ここは早急に場を丸く収めよう。

 「フェイバルさん、彼らはですね、きっと私たちギルド魔導師を理解したいんです! 魔導師という生き方を知ろうとしているんですよ! そんな素敵な好奇心を無碍にするのは、魔道じゃありませんよね! ね!!」

ヴァレンも玲奈へ同意するように、小さく頷いた。フェイバルは自身の孤立に気付き、とうとう観念する。

 「……分かった分かった。勝手にしやがれ」

No.149 メイ=マルト


中性的な顔付きと、片目を隠した髪型が特徴的な雅鳳組組員。年齢は二七歳。副長リオ=リュウゼンの付き人を務める。



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