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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第9章 ~魔導師と侍編~
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148.その瞳に捉えて **

 王都・ギノバス中心部に位置した、とある貴族街にて。ベランダから夜月を眺める一人の女性は、艶めいた金髪を揺らし呟く。

 「……もうすぐ、会えるのですね」

どこかあどけなさが残りながらも、貴族としての教育によって培われた美しい佇まいは、そんな彼女へ大人の気品を与える。彼女へ使える女中は、その凜とした背中を目にしながらも、冷たい夜風を案じて声を発した。

 「――ローザ様、そろそろ中へお戻りください。お体を冷やしてしまいます」

ローザは幼気(いたいけ)のある笑顔と共に返答する。

 「ごめんなさい。直ぐに中へ戻りますね」

その素直さが、女中には少しばかり意外だった。それは月を眺めて耽ることを好むローザが、こうも容易く応じることは珍しいから。

 ただそんなふとした疑問は、ローザの付け足した呟きで直ぐに解消される。

 「……リオ様にお会いするとき、体調を崩すわけにはまいりませんもの」




 数日後。早朝の王都東検問には、一台の魔力駆動旅客車が到着した。自治区・ミヤビから中継地を経てギノバスを終点に迎えるその便は数日に一本の運行のみに限られており、車両は毎度のように乗車率一〇割へと至る。

 大荷物を抱えてその旅路を終えたのは、リオ=リュウゼン。ミヤビ特有の和装と帯刀がやたらと人の目を惹くが、当の本人はそれを気にも留めずに、ただ久しい王都の景観へと圧倒された。

 「ほう……やっぱ何度見ても圧巻やのぉ!」

 「――ここが王都ですか……ミヤビとはまるで違いますね……」

 リオの付き人であるメイ=マルトという男は、初めてギノバスを訪れた。リオはそれを良いことに、少し調子付いて口を開く。

 「そりゃそうよ。大陸統一を成し遂げた国なら、これくらいになってもらわんとなぁ」

 「……そう、ですね」

メイのどこか重たげな返答に勘付いたところで、リオは少し襟を正した。

 「おっと、すまん。ここまで来て歴史の話なんてのは、ちと無粋だな」

 「……いえ」

 「いやいや、わしが悪かった。王都滞在中は目を背けよう。内部抗争前の節目として、わしゃ許嫁(いいなづけ)に会いに来たんだからの」




 「――とはいえ許嫁(いいなづけ)と会えるのは明日の晩でなぁ……それまでははっきり言って、暇なわけじゃ」

 リオは呟く。大荷物を宿に預けて身軽にはなったものの、これ以降の予定は無い。メイは地図に見入りながら、上司の為に暇つぶしの方法を模索した。

 「どうやら我々が今歩いている道は、エルウェ通りという繁華街のようです。ここらの散策から始めてみては?」

 「ふーん。どうりで人が多いわけだ」

当たり障りの無い返答を耳にしたリオは、地図に記された情報を更に言葉へ起こす。

 「王都にはもう一つ、ピリック通りという商店街がありますが、そこに劣らずエルウェ通りが栄えているのは、魔導師産業の影響らしいです」

 「そうか……ということはギルド・ギノバスがここらに」

 「ええ」

 「王都からミヤビへの貨物を運送するときは、度々世話になってるからのぉ。ミヤビには魔導師ギルドも無いことだし、一度見に行こうか」

メイはあまり乗り気でない様子で応じた。

 「……本当ですか? 魔導師ギルドというのは、世間一般的に荒くれ者の集会場。興味本位で立ち入るような所では……」

 「自分の目で見ない限りにゃあ、答えは出せんとも。人間でも、国でもな」

 「……恐れ入りました。一般論に左右されるのは、私の悪い癖のようです」

堅物を貫くメイを見て、リオは吹き出すように笑う。

 「まあこればかりは、ただのわしの興味なんだけど」

リオは不貞腐れることもなく、ただ釣られるように微笑んだ。

 「……なら、それでいいです。私はあなたの付き人なのですから、どこまでもお供しますよ」




 「――フェイバルさん、なんなんです? 急に依頼だなんて」

 昼前のギルド・ギノバスには、玲奈の呟きが響く。同席するフェイバルは、ただ黙々と遅めの朝食を口へ運んだ。居合わせるヴァレンも依頼の内容を知らないようで、どこか疑心暗鬼に呟く。

 「そうですよフェイバルさん。フェイバルさんが国選依頼じゃない普通の依頼を受諾するって、どういう風の吹き回しですか? もしかして……長期療養で別のとこがおかしくなっちゃったんですか!?」

そのあまりの言われように、フェイバルはついに不貞腐れて応えた。

 「あのさぁ君たち、俺を何だと思ってるわけ。というかレーナ、お前は知ってるはずだからな。俺が唯一続けている依頼のこと」

 「そ、そんなこと言われたって……事前に日時教えてもらえなきゃ、スケジュールの組みようがないんです! 迷惑です!」

玲奈は訴える。それでもフェイバルはさりげなくその主張を無視し、あからさまに過去を懐かしむような言葉を並べた。

 「いやはや懐かしいなぁ。確か前に行ったのは、お前がまだ秘書になったばっかの頃か。実はもう、一年近く前だぜ」

玲奈は露骨に論点をずらされたことに気付いていた。それでも同時にその依頼の内容を思い出し、ついすっきりしたのでそのまま解答してしまう。

 「あ! モナミさんの魔法学校への訪問ですね!!」

 「ご名答。さ、とっとと飯を食って向かうぞ」

No.リオ=リュウゼン


細い目と黒の髪が印象的な男。二九歳。朗らかで愉快な性分であるが、組の二番手として組員から厚く信頼されている。

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