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Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第9章 ~魔導師と侍編~
152/203

147.魔眼、動き出す物語。 **

 フェイバルは玲奈へ詳しい話を要求した。

 「……えっとそれはつまり……どういうことだ?」

ヴァレンはふと、予知夢という言葉のイメージを零す。

 「予知夢っていったら、夢の中で未来を見たとか、そういう感じよね」

玲奈は手探りに語った。

 「まだ()()()の段階ですけど、もうギノバスに来てから、二回も夢に見たんです。それも嫌に正確で、妙に深く印象深いのを」

フェイバルは順番に尋ねる。

 「一回目は?」

 「革命の塔事件の前日です。最初にゼストルというギルド魔導師を囮にしたこと、覚えてますか?」

 「ああ、無免許運転した日のことだな。覚えてる」

彼の記憶のトリガーがド直球犯罪であることには触れず、玲奈は続けた。

 「王都の中央部から離れた所で、ゼストルという魔導師がジェーマへ接触したあの場面。あのとき初めて立ち入った場所だったのに、何故か既視感を覚えたんです。その既視感が、後になって夢の中の光景だと気が付きました」

 「……それで二回目は?」

 「革命の塔掃討作戦。オペレーション・バベルのときです。夢で見たのは、私とダイト君とヴァレンちゃんで、ギルド・ラブリンを訪れたとき。夢の中で私は、背中から奇襲を受けました。そしてそれを見たからこそ、現実の私は敵の奇襲に少しだけ反応出来て、致命傷を回避した」

フェイバルは顎に手を当てる。

 「なるほど。そこまでいけば、偶然とは考え難くなるわな」

魔導師の性か、ドニーは咄嗟にある可能性を疑った。

 「予知夢の魔法なんてあったか?」

フェイバルは直ぐに応じる。

 「いーや、無いな。というかそんな無茶苦茶な魔法、存在してたまるか」

躊躇わずに言い放ったのも束の間、男はそこである重大なことを思い出した。飄々とした態度は瞬時に切り替わり、彼は玲奈の眼前まで接近する。

 「……いや待て! あった……可能性が」

 「何でしょうか……てかちょっと恥ずかしいかなぁ……この距離感……」

 「目だ」

玲奈ははっとした。気にも留めていなかったが、そういえば彼女は、一応選ばれし魔導師なのだ。

 「そうだ……忘れてた……魔眼……!」

弟子たちは声を揃えて驚嘆する。

 「は!?」

ヴァレンは続けざまに問いただした。

 「レーナさんって、魔眼の保有者なの!?」

その大きなリアクションから、玲奈にも魔眼というものの希少価値は理解出来る。それでも彼女は、まだいまいち自覚の無い様子で返答した。

 「そうみたい……だけど、自分でもよく分からないのよね。だって自分で魔力を消費して使う魔法なのに、自分で制御出来ないなんてことある?」

フェイバルは同意する。

 「……まあそれは確かに、ごもっともな意見だな。魔眼の性質ってのは千差万別だが、発動する条件さえ分からない魔眼なんてのは、聞いたこともねぇ」

 男の論理は至極真っ当だった。魔力の操作によって発動する魔法が、自らの意思に離れて発動することは、理に反している。魔導書を読み漁った玲奈にも、十分に納得出来た。

 ダイトは手探りに口を開く。

 「魔法戦闘がトリガーになっている……とか?」

フェイバルは否定した。

 「いや、それならダストリンでの一件や王都マフィア掃討作戦にも該当しちまう。そのときに予知夢は無かったはずだ」

そのときドニーは核心を突いた。

 「なら考えられる条件は、洗脳魔法と接したとき、だろ」

誰も反論しなかった。それはすなわち、現時点で最も可能性の高い結論ということになる。

 フェイバルは玲奈は伝えた。

 「……恐らくこの先洗脳魔法と接触する機会なんてのはもう無いはずだが、もし予知夢を見たら直ぐに伝えろ。きっと今より詳しい何かが見えてくるはずだ」

 「わ、分かりました」

 魔眼それ自体を誇るべきものと理解しながらも、まるで未知の病に思い悩むような、複雑な心境が玲奈の中に渦巻いた。




 時を同じくして、舞台は自治区・ミヤビへ移る。都市の中心に佇む城は自治区の指導者たる将軍の住居でありながら、自警団・雅鳳(がほう)組の本拠地。

 一室を執務室として預かる雅鳳(がほう)組副長・リオ=リュウゼンは、胸を高鳴らせて畳の上を往復し続けた。

 「……いやはや、やっぱ仕事も手に付かなくなるもんやのぉ」

座卓にはいまだ山のような書類が残っているが、男の機嫌はあまりに良い。それもそのはず、男は近々王都・ギノバスへと赴き、許嫁(いいなづけ)と幾久しき再会を果たす予定なのだ。

 業務中の昼間でも、男の思考はその来たる日へと支配されていた。そしてそれを見計らったかのように、襖の向こう側から声が掛けられる。

 「――失礼いたします」

リオは本能的に座卓の奥へ飛び込み、落ち着いた様子を取り繕って応じた。

 「は、入れ」

襖はゆっくりと開かれる。現れたのは、一人の部下だった。手ぶらでそこへ訪れた彼は、どうやら書類絡みの要件では無いらしい。

 「副長殿。本日は刀の整備についてご案内に伺いました」

 「ほう、もうそんな時期だったかー」

 「ええ。つきましては、代用のミヤビ式刀剣と脇差をご準備いたしますので、そちらの選定を本日以降にお願いいたします」

リオはふと隅に置いた刀掛けに目を向けて男へ問い掛ける。

 「そうかそうか。場所はいつもの武器庫前か?」

 「左様にございます。その際は整備する刀と代用品を交換する形式になりますので、お忘れ無く持ち寄りください」

 「おう。ご苦労だったの」

No.147 雅鳳組がほうぐみ


自治区・ミヤビにおける自警団。検問警備や治安維持を担う傍ら、多くの者が己の魔法を武芸として心得ているために、各々が魔法の鍛錬を盛んに行う。

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