表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Just-Ice ~明星注ぐ理想郷にて~  作者: 福ノ音のすたる
第8章 ~魔道四天門編~
148/203

143.等価交換 **

 二人の魔導師は、巨大なクレーターの中で向かい合う。そのときドニーの思考は、既に次の一手を模索していた。

 地形が悪化したうえ、攻略されてしまった潜伏(ダイヴ)は使い物にならない。触手(テンタクル)は中距離戦に有効でも、強化魔法・俊敏(アクセル)による急接近で近距離戦に持ち込まれてしまえば、リスクは大きい。

 それでも全てにおいて状況が悪化しているわけではない。クレーターを作り出す為の変化魔法で消耗した魔力は、相当なものと推定出来た。

 結論は直ぐに出る。ドニーの選択は短期決戦。魔力消費量の優位を生かすべくしての、必然的な選択だった。

 ドニーは魔法陣を展開する。その色は青。行使したのは水魔法。

 刹那、クレーターは大量の水で埋め尽くされた。瞬く間にして、クレーターは巨大なプールへと様変わりする。

 ロコは当然に水中へと取り残された。しかし彼女は取り乱すことなく、またも変化魔法を行使する。藍色の魔法陣は彼女の周囲の水だけを気体へと変換し、その効果は忽ち同心円状に波及した。水は伝播するように、気体へ姿へと押し戻される。

 ドニーの魔法が、ロコの変化魔法に作用されて変化する。それは紛れもなく、二人の魔力の出力量に、埋められない差があることを如実に表した。

 水中での機動力を生かした戦闘は阻止されたが、それでもロコへ二回目の大規模魔法を誘発させたことは大きい。プールがまたクレーターへと回帰したとき、ドニーは既に次の作戦に踏み切った。窪みの中央に立った男が繰り出したのは泥魔法・触手(テンタクル)。男の足元から生えた五本の触手はそれぞれ右手の指に同期し、絡み合いながらロコを目指す。

 二人の間合いは肉弾戦の距離ではない。それはすなわち、触手での攻撃が最も効果的な局面。

 触手は重い一撃を振るった。ロコはやはり強化魔法・俊敏(アクセル)を行使し、側方へと飛び跳ねる。

 それでもドニーの攻勢は続いた。更には水を吸って泥濘んだ地面が味方をし、満足な機動力を発揮出来ないロコは、徐々に追い詰められ始める。

 ここでロコは冷静にも、回避から抗戦へと方針を変更した。ふと杖を握り直せば、そこには硬質化させた空気の刀身が接続される。そして次の瞬間、彼女は自らの懐へ飛び込もうと襲い来る泥を両断し、触手の一本を再起不能へと陥れた。

 ドニーは残る四本を巧みに駆使して応戦しつつ、速やかに切断された一本の修復を行った。僅か数秒後には、また五本の体制へと復帰する。

 それでもロコの剣戟は、ドニーの修復速度を上回った。触手は修復も虚しく、瞬く間にして五本全てが分断される。

 そしてロコの狙いは、当然にドニー本体へと移った。近接戦の不利は変わらない。男は判断を迫られた。

 そんな究極の選択を迫られる最中(さなか)でドニーが注目したのは、ロコの握った魔法杖。その杖は殴打用の武器としての役目と、変化魔法の補助武器としての役目を併せ持つ。どちらで仕掛けてくるのか、男はその判断材料について、彼女の握り方に目を付けた。

 ドニーの分析によると、仮に役目が後者であるなら、杖の先はまた足元へと向けられる。しかし事実、杖の先は上を向いた。これほどまでに些細な事実でも、男が動き出すに十分な根拠となる。そして変化魔法の可能性が費えたならば、足元への不安も必要無い。ドニーは臆せず大きく踏み込んだ。

 ロコは強化された凄まじい身体能力をもって正面へと直進する。しかし彼女はドニーに魔法を予見されたことへと勘付き、僅かな焦りで次の判断を迷う。それこそが、形勢逆転の境界線。彼女の握った巨大な刀身の武器は、ドニーの立ち入った間合いに対応出来なかった。

 ドニーは容赦なく右の回し蹴りを叩き込む。ロコは咄嗟に腕を挟んで対応するが、男の怪物じみた筋力で、体は勢いよく側方へ吹き飛ばされた。

 ドニーは迷わず追撃を狙うべくして、体勢を切り返し、男は吹き飛んだロコの元を再び目指す。蹴りに使った右脚を地面へ着き、左足で踏み込もうとした。しかしながら男は、その瞬間で己の作戦が筋書きから外れたことを知る。

 ふと右脚を激痛が襲った。染みついた血液は、自身のもので間違いない。ドニーは理解し難くとも、起こった事実を察した。

 「……イカれてるぜ」

 ドニーの蹴りがロコの腕へ届くその直前、彼女は硬質化した空気で針を形成し、自身の左腕とドニーの脚の間に挟み込んだ。彼女は万全の防御を自ら放棄したうえで、反撃を謀ったのだった。

 ドニーの追撃は儚く費え、その間にロコはゆっくりと立ち上がる。変色して腫れた左腕を眺めながらも、顔色一つ変えずに呟いた。

 「腕一本と脚一本。価値が高いのは脚だと思うの」

ドニーはその会話に乗っかる。

 「そうか? 俺からすりゃ、お前の片腕潰したのは結構デカいんだけど」

 「でもあなたの脚、止血しないと死んでしまいそうよ?」

 「なーに。そこんとこは大丈夫」

ドニーは魔法を行使し、右脚を泥で覆った。ぴったりと貼り付いた泥は、徐々に血を止め始める。

 その悍ましい光景に、ロコは怪訝そうな顔を表す。

 「……その処置、もっと酷い病気になりそうで見てらんない」

 「魔法で作った泥だ。しばらくの間なら清潔だっての」

No.143 大規模魔法


定義は曖昧であるが、一般的には人間の体よりも大きな魔法陣の展開を要する魔法のことを差す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ